防衛局の辺野古設計変更申請、魂魄の塔横の熊野鉱山の掘採計画をきっかけに、「遺骨混りの沖縄南部地区の土砂を辺野古埋立に使うな」という声が大きく沸き上がった。この2年半ほど様々な経過をたどってきたが、いよいよ熊野鉱山の開発が始まろうとしている。
私たちは、鉱山開発により、鉱山に隣接している貴重な戦争遺跡・シーガーアブが崩落するおそれがあるため、3月28日に県の自然保護援護課、保護援護課、教育委員会文化財課への申入れを行った。その後も29日には糸満市教委文化財保護課、そして31日にも県教委文化財課の担当者と話し合った。
このシーガーアブは、有川中将以下将兵自決の壕とも言われているが、戦争末期には多くの住民も亡くなった戦争遺跡である。地元の『米須字誌』には、避難していた地域の住民ら7家族が米軍に焼き殺されたという証言もある。また、戦後には、70柱もの遺骨が収集されたとも報道されている(1961.3.17 沖縄タイムス)。
(2021.2.27 、国会議員、県議らが具志堅隆松さんの案内でシーガーアブを視察した)
沖縄県はシーガーアブを戦争遺跡として指定している(沖縄県埋蔵文化財センター調査報告書第5集)。そのため、シーガーアブは文化財保護法第93条で定める「周知の埋蔵文化財包蔵地」となることから、土木工事等をする場合は60日前までに糸満市教委経由で県教委に届出なければならない。この届出に基づいて県教委から工事立会や発掘調査の実施等の指示が出されるが、その際に市教委による試掘調査が行われる場合もあるという。
熊野鉱山開発はシーガーアブには大きな影響を与える、一つは、2つのシーガーアブは地下で繋がっているのだが、その部分に土砂搬出道路が設けられるため、土砂を満載したダンプトラックの走行により地下のシーガーアブは崩落してしまう。また、奥のシーガーアブの地下部分は鉱山開発予定地まで延びている可能性があり、鉱山開発によりアブが崩落するおそれがある。
そのため県教委文化財課も、3月28日の面談の際は、「県は、シーガーアブは戦争遺跡で埋蔵文化財包蔵地として保護を諮っている。直接開発する場合は、文化財保護法第93条に基づき事前に糸満市に届出をする必要がある」、「県も、糸満市と連携しながら保護していきたい」と認めていた。
ところがその後、糸満市教委や県教委とも話し合ったが、両者とも「現状では届出の提出を求めることはできない」としている。糸満市は昨年12月、業者から出された自然公園法に基づく開発届を県に送達する際、「今回の届出には、採掘や搬出等の振動により少なからず影響を受ける隣接するガマへの崩落対策について触れていない。工事に当たっては、---事業者においてガマの調査を行ったうえで、崩落防止対策を講じるよう求めるべきである」と注意を喚起していた。
シーガーアブは、「埋蔵文化財包蔵地」というだけではなく、「琉球王朝時代から地域住民が畏敬の念を持って接している貴重な場所」(2021.3.1 米須自治会、2021.3.22 糸満市議会)である。アブの上にダンプ道路が造られ、アブが崩落してしまうおそれがあるのに、糸満市教委、県教委とも文化財保護法に基づく指導を行おうとしないのは納得ができない。