辺野古の埋立土砂が搬出されている琉球セメント安和鉱山で、森林法に違反した土砂採取が行われてきたことは本ブログでも何回か説明してきた(たとえば、本年7月24日のブログ)。私たちの申入れにより、県も現地立入調査を行って違法を確認したのだが、事後的に林地開発許可申請書と顛末書を提出せよと指示しただけで、違法な土砂採取を続けることを認めてしまっている。
県はその理由を「林地開発許可申請が出されていないままの開発行為だが、災害発生の恐れがないため、中止命令を出すことはできない」と弁明する。しかし、林地開発の許可基準は「災害発生の恐れがないこと」だけではなく、「環境を著しく悪化させる恐れがないこと」等についても判断しなければならない。
今回の違法開発は、もともとあった部間山(306m)を根こそぎ切り崩して平坦地にしてしまい、山の分水嶺も大きく変わってしまったという大規模なものであった。当然、環境にも大きな影響を与えている。
ここでは環境への影響の一つとして、同鉱山下部にある塩川の汚濁の問題を検討してみたい。塩川は塩水が常に流れているという珍しい川(このような川は世界でも2ケ所しかないという)で、1972年に国の天然記念物に指定されている。古生代から生息しているとされるムカシエビなどの原始的な動物や、チカヌマエビなど新種の動物も確認されているという。
ところが最近、この塩川が降雨後などに赤く濁るようになってしまったのだ。塩川上部にある広大な採石場の影響が疑われるのは当然だろう。
(降雨後に濁る塩川 2020.7.2)
塩川の集水域には広大な採石場が広がっている。これらの採石場の開発行為は、当然、塩川の水量・水質に影響を及ぼしていると考えられる。
塩川では、何故、塩水が湧いて流れているのかについての調査・研究は本格的には行われていないが、それでもいくつかの論文が発表されている(「天然記念物塩川の湧出機構」2015 筑波大学・山中勤、「天然記念物塩川の水質形成と地下水汚染」2014 琉球大学等)。
山中らは下図のように、降水タンク・地下水タンク・洞穴タンク・海水タンク等のモデルを作って計算した結果、塩川は降水・地下水・海水が地下洞穴内で混合し、湧出したものであると説明している。地下水面と湧出口との高度差や海水と汽水部分の密度差の微妙なバランスで湧出口から塩水が湧いているという。
そうであるなら、採石場の開発がさらに拡大し、地下水の供給量・地下水面の高さ等が変化すると、このバランスが崩れ、塩水の湧出も止まってしまう可能性がある。過去に調査を行った研究者らも、再三、採石場の影響に懸念を示している。
沖縄県、そして本部町は、ただちに塩川の湧出機構について総合的な調査を実施し、集水域の開発行為の影響を調べ、保存策を検討するべきである。