シカゴほどのキャリアがあるバンドで、カヴァー曲が少ないのはとても不思議ですね。
王道の「素直になれなくて」は別格として、他を見渡してみてもせいぜい「長い夜」「サタディ・イン・ザ・パーク」くらいでしょう。おっと!忘れてはいけない。
この曲がありました。
シカゴ初の全米1位。グラミー賞にも輝いた70年代のシカゴ代表曲の一つ「愛ある別れ」IF YOU LEAVE ME NOW
ハードで政治的メッセージ色濃厚なブラスロックからソフトなポップ路線、ひいては後の第2期黄金期AOR時代への橋渡しにもなった名バラード。
ピーター・セテラのペンによる傑作ですが、当初「シカゴⅩ(邦題:カリブの旋風)」レコーディング完了時点で「もう1曲追加するように!」という上からの希望により付け加えられたものなのだそうですよ。
切なくも甘いメロディーにのった流麗なるオーケストレーションが秀逸で、煮え切らない男心の描写に一際彩りを添えています。
写真のレコードは「ロックンロール&ロック・スーパーヒット・ベスト・セレクション24」2枚組24曲入り
ウィンディ・シテイがカバー。バンド名はシカゴ市がミシガン湖から吹き上がる風に晒されて厳しい寒さに見舞われるために「空っ風の街」と呼ばれているところから命名。オリジナルテイクを参考に無難な感じでこなしています。このアルバムには謎の覆面バンド達が50年代から70年代にかけてのロック・スタンダードをカバー収録しています。たぶんスタジオ・ミュージシャンたちによる企画プロジェクトなのでしょう。ほかに収録されているバンド名を見るだけでもニヤリとしてしまいます。
特別編としてDVD「ハッピーフィート」
2006年公開のアニメ映画です(108分収録)。主人公のペンギン、マンブルが「愛ある別れ」をユーモラスかつしんみり可愛らしく歌い上げています。
ただし、パンフレットにもサウンド・トラックにもそのことには一切ノータッチ。契約の関係なのでしょうかねえ?
ポール・モーリア・グランド・オーケストラもカバーしています。
「イエスタディ・ワンス・モア/アメリカン・ヒッツvol、1」16曲入り
タイトルが示しているとおりアメリカン・ヒット・ポップロック集。
そつなく華麗にまとめあげられています。
もう一つの大御所ザ・ロイヤル フィルハーモニック・オーケストラもカヴァーしてくれています
「オーケストラで聴くクラシック・ラブ・ソングス」15曲入り(58:08)
インストウルメンタルでもクリス・レイによる哀愁のエレクトリック・ギターとストリングス・アンサンブルによるアルバムも発表されています。
「哀愁のザ・エレクトリック・ギター ザ・インストウルメンツ」
17曲入り。56:38
1995年にはジョン・オバニオンもカヴァーを発表しています。彼のデビュー時からの盟友ジョーイ・カルボーンをプロデューサーに迎えて久々に「ハーツ」というアルバムを携えて復活したもの。
相変わらずのジャジーでセクシーな歌声を聞かせてくれています。
10曲入りで全てが大人のセンス溢れる珠玉のスタンダード作品ばかり。
ここでの「愛ある別れ」はオリジナルにたいして2音上げで収録。
構成は同じです。
STAがライブで披露できる今現在唯一のバラードがこれなのですが、ジョン・オバニオンのテイクでアルト・サックス・メンバーのジュンが感情豊かに聴かせてくれています。
最後に紹介するのは1998年発表「EMMA」
ボーナストラック含む13曲入り
1972年生まれの本名エマ・バウンディーによるデビュー作品。彼女はいつかプロの歌手になりたい、という夢を胸に化粧品売り場の店員として勤務しながら日々レッスンに明け暮れていたそうです。
そんな彼女にある日チャンスが訪れます!
彼女を主役にすえたテレビ・セミ・ドキュメンタリー番組の依頼が舞い込んだのです。
ずばりそのままに彼女が化粧品売り場で勤務しながらも、ゆくゆくはスターになる夢を実現するために孤軍奮闘努力するというサクセス・ストーリー。
その姿をリアルにカメラが延々と追うのです。
これが放映された途端に大当たりで各レコード会社からの契約が殺到。結果としてこのデビュー作への製作にこぎつけたというわけです。まさに現代のシンデレラ・ストーリーですが、もちろん彼女はただのお人形さんではなく実力もしっかりと兼ね備えています。
さて、この内容はといいますと一部のオリジナルを覗いてほとんどが音楽史に燦然と輝く名曲ばかり。
それらをなんと3組の一流プロデューサーたちが振り分けられて担当しているのです。
ですからデビュー作にも拘らず完成度満点。
エマも新人とは思えないような見事なボーカルを聞かせてくれます。
「愛ある別れ」も女性ならではの視点でこれはこれで美しい仕上がりとなっております。
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