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一夜の恋

2016年12月15日 | 
少しサルサをかじると踊ってみたくなるのが人情だろう。


サンチャゴデクーバの街をぶらぶら歩いていると、

いたるところでキューバンバンドの音楽を聴くことができる。



思わず軽快なリズムに合わせて体が無意識に反応する。


そんな中、また興味深い看板に出くわした。



SALSA という文字に目が留まったのだ。

今日の夜8時半からとある。

建物の中を覗くとリハーサル中だった。



行ってみようと思った。


一旦CASAに帰ってシャワーを浴び、夕食を済ませる。

今夜のメインディナーは魚のフライだ。



食事しながらボクはCASAの旦那さんにちょっと不安に思っていることを聞いてみた。


「今夜はサルサを踊りに行くんですよ。

ところで、夜道は大丈夫なんでしょうか。

帰りは多分夜中になると思うんで」


一般的に、欧米においてはショーやパーティが始まる時間は遅い。

だいたい午後8時や9時ころからが多い。

日本は6時とか7時頃が一般的だが。

彼らは、日本人のように仕事が終わって直行はしない。

一旦家に帰り、シャワーを浴びたり着替えたりして行くのが常だ。


ただやはり心配なのは帰り道だ。

日本も物騒になってきているので、

特に女性の夜道の一人歩きは気を付けなければならない。

ましてや、海外においてはなおさらだ。


ニューヨークでミュージカルを見た後や、

スペインでフラメンコなどに行ったあとは

深夜近くになってよく夜道を歩いて帰ったものだが。

ただ、暗い道や、人気の全くない道は避けなければならない。

もちろん、タクシーを使うほうがいいが、

これも100%絶対安全とはいいがたい。


カンボジアでは、トゥクトゥクで全く反対方向に走られ、

危うく真っ暗な道に連れていかれそうになった。

ハワイでさえ同じようなことがあった。

ボクは、モロッコのカサブランカで

ナイフを持った二人組の暴漢に襲われ格闘した経験があり、

それ以来なおさら用心深くなった。

(結局荷物を奪われ、軽傷を負ったが)


その後は、昼間でさえ時折後ろを振り返る癖がついてしまった。

ずっとついてくる奴がいないかどうかを確かめるためだ。

それだけでも被害を未然に防ぐことができる。

事実、エジプトやインドといったところで、にらみつけるだけでそれらしき人間を退散させたこともある。

ケニアのナイロビでは、いざというときのために手にチェーンを持って歩いた。

チェーンは、荷物をくくりつけておくために南京錠とともに購入した。

もちろん置き引きに会わないようにバッグを括り付けておくためのものだが。

それから、ホイッスルを首からかけておくのもお勧めだ。


話が逸れたが、

CASAのご主人は、この町は大丈夫だよと笑いながら言ってくれた。


      CASAの優しい家族

いろいろ面倒を見てくれたり、相談に乗ってくれるのもCASAならではのいいところだ。


      比較的裕福な家だろう


ライブ会場はCASAから歩いても10分くらいのところにある。

8時過ぎに出かけたが、通りには街灯が道を明るく照らしている。

人通りもそこそこある。

だが、深夜近くなればどうなのだろう。

不安がよぎる。


こういう時は、極力荷物は持たない。

お金も最小限にする。

コンサートの入場料は$1と庶民向けなので、

ボクは小銭を$10ほどしかもたないで家を出た。

念のため、ナイフと小型の懐中電灯をポケットに忍ばせておいたが。


会場に着くとまだ10分ほど時間があった。

外には三々五々人が集まっている。

外で立って待っていると、一人の女性が声をかけてきた。

「どこから来たの」

「日本だよ。

君もこのコンサートに来たのかい?」

「そうよ。ダンスできる?」

「うーん、少しならね」

そんな会話を交わしながら、会場に入った。

ちょっと殺風景で小さなコミュニティセンターのようなところだ。

彼女は小柄でちょっと太った黒人だが、明るくて気立てはよかった。




彼女は当然のようにボクの横に並んで座った。

いよいよ演奏が始まった。



例によってオジサンバンドだ。

二曲目に入ると、彼女は「踊る?」と言ってボクの手を引っ張った。

それから3曲ほど踊った。

彼女は、キューバ人にしてはかなり控え目で、少し照れくさそうに踊った。

正直あまり上手ではなさそうだったが。

ボクもちょっとぎこちなかった。

それでもうっすらと汗をかく。


席に戻ると、「なにか飲む?」と聞く。

ボクは迷わずモヒートを注文した。

彼女の分も一緒に$6を払った。


観客も徐々に集まってきた。

地元の人が多いらしく顔なじみなのか挨拶を交わしている。

その中に、ちらりほらり白人の観光客が混じっている。

数組が横で踊ってはいるが、いまいち盛り上がりには欠ける。


少し退屈そうなボクを見て、彼女が言う。

「もう出る?」

そうだねと言ってボク達は外に出た。


彼女は、「どうする?」といった表情を浮かべてボクを見上げる。

どこか飲みにでも行きたさそうな顔つきだ。


「あんまりお金ないんだ」

ボクは正直に言った。

(実際$3しかない)

「うちに来る?」

エッ!と思ったが、

「近いの?」と聞いた。

「タクシーで5分くらい」

「そう、でもあまり遅くなれないんだ」

「どこに住んでるの?」

「CASAに泊まってるんだよ。

ここから歩いて10分くらいのところ」

「じゃあ、そこに行こうよ」


オイオイと思いつつ

「CASA Particular だよ」

と言ってそこのカードを見せた。

「知ってるわ」

というと彼女はボクの手を引っ張って嬉しそうに歩き始めた。

「ダメだよ、普通のお家だから」

「大丈夫よ、私が話するから」


夜道を一人で帰るよりいいかなと思いつつ

成り行きに任せることにした。

「何人家族?」とかたわいもない会話を交わしながら

あっという間に家の前まで来た。


「ここだよ」というと

彼女は一瞬困惑の表情を浮かべた。

「やっぱり私帰る」

こんな時間に普通の家に行くのはやはりいけないと思ったのだろうか。

時計の針はすでに11時を回っている。

「あ、ちょっと待って」

ボクは彼女を玄関先に待たせて家の中に入った。

リビングにはご主人がテレビを見ながら座っている。

ボクは、訳を話して彼女を招き入れた。


彼女は恥ずかしそうに中に入ると、

CASAのご主人と何やら話し始めた。


ボクは部屋から折り鶴とボールペンを持ってきて彼女に渡した。

彼女は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、遅いから帰るわ」



ボクは玄関先まで彼女を見送った。

「Me gusta Usted(あなたのことが好きよ)。

今度は私のうちに泊まってね」

そう言うと彼女はボクにハグをした。

ふくよかな胸がボクの心を締めつけた。


「夜道、大丈夫?」

彼女は、大丈夫よというように小さく手を振ると

ちょっと寂し気な背中を見せながら暗闇の中に消えていった。










12月14日(水)のつぶやき

2016年12月15日 | ライフスタイル