役職定年制度を廃止する企業が増えている。それは、2024年9月に厚生労働省が発表した「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」からも明らかだ。少子高齢化や雇用流動化といった社会の大きな流れの中で、役職定年制はどのような未来を迎えるのか。シニア転職支援に取り組む著者が、支援の中で見聞きした事例を基に、役職定年の実情と今後を探る。
役職定年後の給料はいくらに?
まず、役職定年制について簡単に説明しよう。 役職定年制とは、役職に就いていた社員が一定の年齢に達すると、その役職から外れる制度である。 法律で定められたものではないので、役職定年の年齢、対象となる役職、役職定年後の処遇などは会社が独自に定めている。とはいえ、役職定年の年齢は、55歳など50代に設定されることが多いイメージだ。 役職定年を迎えると、当然役職手当はつかなくなるが、役職と等級が分かれている場合は等級が下がるなどして、基本給も下がることがある。また、マネジメント業務から外れ、スタッフの1人となることが多いほか、大きな配置転換を伴う場合もある。 役職定年制は、80年代に定年制度が55歳から60歳へと延長された際、ポストを若手に譲って新陳代謝を促すために導入され始めた。ポストを若手に譲るだけでなく、年功序列で給料が上がり続けることを防ぐ目的もあるだろう。 役職定年でどれくらい給料が減るのかというと、法律で決められているわけではないので企業次第だ。ただ、公務員の定年延長で60歳以降の給料が「役職に就いていた時の7割」まで下がる規定があるため、民間企業も同程度には下がりそうだ。もっとも、民間企業の給与体系はさまざまで、基本給が低く、役職手当が大きいような企業の場合、役職定年時の大幅な給与減も覚悟しなければならない。 また、民間企業の場合、公務員とは違い、役職定年時と60歳定年時の2回、給与減が発生する可能性もある。仮に役職定年でそれ以前の7割の金額になり、60歳定年後再雇用時に定年前の7割の金額になった場合、役職定年前の半分以下の金額になることも考えられる。
減りゆく役職定年制
役職定年制の導入企業は減少している。人事院が公表した令和5年(2023年)の民間企業の勤務条件制度調査結果によると、「役職定年制がある」という企業は16.7%だった。これは平成19年(2007年)の23.8%から減少していることが分かる。 役職定年制は大企業に多いイメージがあるが、実際には令和5年(2023年)の調査結果で、「役職定年制がある」企業の割合は、従業員「500人以上」で27.6%、「100人以上500人未満」で18.4%、「50人以上100人未満」で10.7%と、大企業での割合が高い。いずれの企業規模でも平成19年(2007年)と比較して減少している。 役職定年制の廃止は国も後押ししている。厚生労働省が2024年9月に公開した「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」では、役職定年制や定年制の見直しを行った14社の事例が示されている。そのうち9社は役職定年制廃止に言及しており、その他の会社でももともと役職定年制を導入していなかったり、役職を年齢で縛らない対応をしていたりする例が多い。 65歳までの雇用確保を企業の義務とし、70歳までの就業機会確保を努力義務として長く働き続ける世の中にシフトしていく中で、50代で役職を外すことが現実的ではないと見ているのだろう。 以前は若手にポストを譲る目的だったが、少子高齢化で若手の採用自体に苦戦する企業も多い。年功序列から成果主義へ、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へとシフトする企業が増える中で、年齢でポストを譲り渡すのではなく、全年齢から能力や成果で抜てきする制度の方が適しているだろう。 実際、前述の厚労省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」でも、役職定年制廃止だけではなく、人事評価制度の改革も実施している例が多く見られる。
役職定年で“アレ”を奪われた…
役職定年制がシニアのやりがいや給与に影響を与えている。 シニアの転職を支援する当社でも、役職定年で給料が下がったり、やりがいがなくなったことをきっかけに転職を目指すシニアは多い。役職定年制があっても完全に肩書がなくなるわけではなく、「参与」や「専任部長」として部下を持つ立場に残るケースもあるが、これまでと異なる仕事に戸惑いや無気力感を覚える人もいる。 特に銀行などでは、40~50代でグループ内の企業に転籍となる文化があり、金融業務からまったく異なる業務に変わることに戸惑うシニアも多い。カーディーラーに勤める自動車整備士などでも、腰痛などの理由で一定年齢以上の社員をフロント業務に転換する場合があるが、「車と触れ合う仕事がしたい」という人にとっては転職の動機になることがある。 役職定年の年齢は多くの企業で55歳である。これは55歳が転職の難易度が急激に上がる年齢であるためだ。そのため、役職定年を見越して、役職が最高潮の50代前半までに転職したいと考える求職者も増えている。 転職先には、希望給与が実現する会社や自分がやりたい仕事の求人がある会社が挙がるが、それ以外にも役職定年制がない会社や定年制そのものがない会社、または定年が70歳などで長く働ける会社が候補に挙がる。
役職定年のない企業に転職するには?
こうした中高年の仕事探しの希望条件からは、役職定年がモチベーションを下げている実態がうかがえる。 役職定年のない企業に転職するために、役職定年制を廃止した大企業を希望するシニアもいるかもしれない。しかし、こうした大企業は社内にシニア社員が多く、新たにシニアを中途採用することが少ないため、求人には出会いにくい。さらに、成果主義・能力主義の人事評価が導入されていることが多く、競争は激しいかもしれない。 一方で、中小企業には役職定年制を導入している会社が少なく、仮にあったとしても「特例」を設ける柔軟な対応が多い。中小企業の方が転職先として現実的かもしれないが、「特例」を認める会社は労働者を守るルールを守らない可能性もあるため、注意が必要だ。
役職定年の意味はなくなる断言理由
役職定年制は今後、どうなるのだろうか。 一部では廃止した役職定年制を復活させたり、類似の制度を設けたりする企業もあるが、筆者は役職定年制が意味を失うと考えている。理由の1つは少子高齢化と働き続ける年齢の上昇であり、70歳まで働くことが一般的になる中で、15年も前から役職を外すことに合理的な意味はない。2つ目は、解雇規制緩和などの雇用流動化の流れであり、解雇のハードルが下がれば、役職定年制を使って自主退職を促す必要がなくなる。 役職定年というきっかけがなければキャリアを見つめ直す機会がない人もいるため、役職定年制がなくなると準備がゼロのままシニア転職に突入して不幸になるケースも危惧している。役職定年制の有無にかかわらず、長く働く覚悟と計画的なキャリアの構築が、今の時代には不可欠だろう。
執筆:シニアジョブ 代表取締役 中島 康恵
感想;
前に勤めていた会社が8年ほど前に役職定年制度を導入しました。
流れに逆行していたようです。
若手の活躍場面を提供するためなら、抜擢すれば良いし、組織長として相応しくなければ外せばよいだけで、そこに”定年”なども受ける必要はありません。
人事部の能力がないために採用した制度だと思います。
年齢に関係なく力ある人には頑張ってもらえる、頑張ろうと思う制度にするのが人事部の力ではないでしょうか。
ある製薬会社のQA長が55歳役職定年制度があり、その制度がない会社に55歳で転職されました。そして新しい会社で組織長をされていました。
優秀な人材が出ていってしまいました。