何とか防衛。
先後が決まっていなかったこともあって、具体的に戦形予想はしていませんでしたが、横歩取り8五飛車戦法(中座飛車)には、意表を突かれました。07年4月の朝日オープン(朝日杯の前身)決勝第2局の阿久津五段(当時)戦以来です(敗局)。
第1日目終了時点では、先手のほうが選択肢(▲4六角、▲1六桂、▲7四桂)が多く、先手有望な変化が多いように感じました。
また、封じ手番も深浦王位だったので、封じ手に1時間あまり熟考し指し手を決定した後、一晩かけてその手を検討できる利があります(渡辺竜王理論)。対する羽生名人は、封じ手局面での深浦王位の指し手を絞れず、ある程度、幅を持たせて検討しなければならない。
なので、ちょっとまずい展開だなあと思っていました。(封じ手は▲4六角)
二日めの午前中も両者とも指し手が早い。華々しく大駒が交錯し、激しい変化を内包しているにもかかわらず、20手も進む。予定通りなのか、開き直っているのか。不安だ。
羽生名人の指し手のほうに、苦心の跡が感じられる。
60手目、△3三歩(第2図)。控え室の予想は△3三銀。羽生名人は▲3三同角成△同金▲2一飛を警戒したのかもしれない。しかし、後手玉の右辺から攻められることが予想されるので、左辺の金・銀・歩の凝り形が気になる。
72手目、△5二金打(第3図)。控え室もびっくりの手。金を手放してしまっては、先手玉へのプレッシャーがなくなり、先手は落ち着いて攻めることができる。受け一方の展開になりはしないのだろうか。
△5二金打に▲7二角成△5四桂(第4図)と進む。
先の金打の狙いは先手の4六の角の捕獲にあった。
中継の解説によると
「△5四桂以下、▲7三馬△4六桂▲同歩△6一桂が進行例。後手は△3八角や△6九角~△4七角成と攻める楽しみがある。▲7二角成△5四桂に(2)▲5五角△6三桂(変化1図)▲7三馬△5五桂▲6二桂成△同金寄▲同馬という攻め合いは△4六桂打で先手玉が詰む」
とある。
ここで、ひとつ疑問の変化が。
それは、変化1図で、▲7三馬ではなく、▲6四角△同銀▲6二桂成(参考2図)と指す手はなかったかということ。
銀は手に入らないが、1手速くなる。それに、6三の桂が5五に跳ねてないのが大きく、先手陣に詰む変化がなくなっている。
変化2図で、△5五桂と跳ねる手が成立すればいいのだが、▲5二成桂△同玉▲6三金△4二玉▲5一飛成がある。
変化2図では△3一玉▲5二成桂△2一玉と遁走するしかなさそう。どうなんでしょう?
ともかく、深浦王位は中継の変化を嫌って、第4図で▲3五角とかわす。この手に対し、△3四歩には▲5三角成△同金▲7三馬と手順に詰めろをかける順があるので、羽生名人も△7四銀と取られそうな銀を切る。
これには▲7四同歩と取り、難解な変化が調べられていたが、深浦王位は▲7三馬と指す。あとで▲5三角成が切り札になる(△同金は▲5一飛成なので、△4二金左と頑張る)と考えたようだが、手順に△6五銀とされて、桂を食い逃げされることになってしまったのは変調のようで、以下は後手が良くなったように思える。
このシリーズ、目下羽生名人にとって、渡辺竜王と並ぶ最強の深浦王位を挑戦者に迎え、しかも、第2、第3局を連敗し、負け方も変調だったので、王位戦の雪辱の絶好の機会だとは言え、これは危ないかもしれないと思ってしまいました。
さらに、深浦王位に七番勝負で3連敗、竜王戦での大逆転に続いての敗退となると、羽生ファンとしては相当つらいなあ。
ところが、深浦王位も完調でなかったらしく、A級陥落、王将戦での敗局も第一局を除いて何かあっさりしていたように思えます。
逆に羽生名人はNHK杯では、当時絶好調であった久保八段に完勝、森内九段にも際どく逆転勝ちして優勝。王位戦リーグでも2連勝など復調してきています。
そんな対照的な状態にあっても、最終局までもつれ込むと言うのは、やはり相性なのでしょうか。
そんな推測を払拭するためにも、王位リーグを勝ち抜いて、三たび深浦王位と戦って、雪辱を果たしていただきたいものです。