英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

広瀬新王位考

2010-09-05 12:42:09 | 将棋
 4勝2敗で広瀬六段(9月2日に七段に昇段)が王位を獲得した。
 逆の目が出てもおかしくない全局接戦だった。実はnanaponさんの『即席の足跡』「将棋界近況7.20」のコメントで4-0で新王位誕生と断言していたの内心冷や冷やだった。
 深浦王位大健闘だった←嘘です。
 開幕当初、深浦王位の調子がいまいちだったことと、広瀬六段の独特な将棋をつかみ切れないまま押し切られてしまうという読みでした。

 私が広瀬王位に注目したのは、約2年程前。とにかく、1手勝ちを読み切る正確な終盤力が強烈な印象を持った。新人王戦や羽生名人との記念対局でもその印象が強くなった。そして今回、その強さを世に知らしめることになった。


 改めて広瀬将棋を見て、いくつかの特徴(強さ)を感じることができた。

①将棋盤の1一から9九、9一から1九の対角線、これを「Xライン」と呼ばせていただくが、広瀬王位はこのXラインを重要視しているようだ。具体的には馬を5五や4六(6四)に置いてそのラインを制圧する(させない)。そして、その延長戦として「と金」を5三(5七)に製造する(持っていく)。

②現棋界は四間飛車穴熊の使い手は少ない。さらに、「四間飛車穴熊」対「居飛車穴熊」は「やや居飛車穴熊有利」というのが定説で、この対抗ならなんとかなるという思いがあり、研究が真剣にされていない。実戦で遭遇する率も低い。
 さらに、この戦型における広瀬王位の経験は突出している。たとえば「四間飛車穴熊使い手:居飛車穴熊の使い手」が「1:9」とすると、その経験値は広瀬王位は9倍となる。
 そんな訳で、研究量(当然広瀬王位は研究する)と経験値が突出する広瀬王位は、まさに自分の庭で戦っているようなものだ。
 ここに水たまりがあって、そこは地面が柔らかい、その奥には根っこが出ていると知りつくしているのだ。具体的には、「この形はどこかで詰めろがほどける」「この形は千日手になる」という見極めができているのだろう。

③これは②から発展しての要素だが、将棋のつくりが逆算的なのではないか。
 普通、仕掛け、あるいは中盤のねじりあいで、駒の捌きが一段落した終盤の入り口の局面を有利かどうかを判断して、その仕掛けを取捨する。
 ところが広瀬王位の場合、終盤の有利な形を想定して、その形になるよう指し手を決定しているように思える。また、序盤や中盤の入り口においても、この形の方が終盤に利いてくるとかいう判断があるような気がする。

 これを書いていて、2年前の竜王戦の第1局、羽生名人の将棋を思い出した。
 居飛車穴熊に十分捌かせて、穴熊も当面安泰。渡辺竜王もこれで悪いわけがないと読んでいた。しかし、その局面になって改めて考えると、不利であることがわかった。
 当時、羽生名人の傑出した大局観が賞賛されたが、もしかしたら、あの形の居飛車穴熊の耐久度(見た目より弱い)を知っていたのではないだろうか。で、あの形になったとき、自玉にどの程度の耐久性を残しておけば指せるかを考慮して将棋を作ったのではないか。

今回の王位戦とは離れるが、
⑤広瀬王位は他の戦型も十分に強い。

 タイトル保持者となり、他の棋戦でもシードされ、目に触れる機会が増えるので楽しみだ。
コメント (4)
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