第3図は封じ手前の局面。ここで森内九段は森内九段は2時間17分の長考で封じ手を決めています。消費時間の通計は羽生名人4時間28分、森内九段3時間22分となっています。
この直前に▲2四歩△同歩として▲2四同角となったのですが、この▲2四歩で▲4六角とした将棋を森内九段は先手を持って指した経験があり、▲森内-△中田宏戦(2004年10月、朝日オープン)では▲1五香△同香▲1四桂△1二玉▲1三歩△2一玉▲4六角と進行しています(後手の勝ち)。
第4局と離れた66手目の△5六歩以後も75手目の封じ手の局面まで、上記の一局がベースにあったと考えられ、森内九段はほとんど長考しませんでしたが、この局面で長考に入りました。
第4局で指しやすかった森内九段が△5六歩と手を変えたのは、意外な気がしますが、これこそ、森内名人の狙い「羽生名人の読みが手薄な変化に引き込む」だったように思います。
さて、封じ手局面での長考の理由は二つ考えられます。
①奥の手を用意していたが、一日目には明かしたくないので、時間調整のための長考だった
②想定手順で進んできたが、▲2四歩△同歩▲2四同角も想定の範囲だったが、局面を前にして改めて考えると、予定の△8六歩が入らない可能性が高く、それが利くかどうかを検討するのに時間がかかった
あとの展開などを考えると、②が理由と考える方が妥当だと思います。
封じ手は△2三銀。8筋の突き捨ては利かないと判断したようです。その辺りは前回記事『名人戦第6局 第1日』で書きましたが、再掲載します。
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封じ手としては、A△8六歩、B△2三銀、C△1一歩が考えられますが、
Aの△8六歩は利かない可能性があるとのこと。△8六歩に手抜きで、▲1五角と香を取り、以下△8七歩成▲同金△9五桂に▲8三歩△同飛▲2三歩△同金▲2六香△2四歩▲同香△同金▲同角△3二玉▲1二歩成が一例。香を補充したことにより、△8七歩成▲同金の時、△同飛成を防いでいます(▲8八香がある)。
後手としては、この△8六歩が利かず、先手の穴熊玉がほぼ健在のまま、先手の攻めを受け続けなければならなく、後手を持つ気にはなれないみたいです。
Cの△1一歩は逆に利かされで、先手に悠々▲1五角と香を取られると、本当に一方的に攻め潰されそうです。
というわけで、Bの△2三銀ということになりますが、先述したように先手玉に嫌みのないまま攻め続けられるというので、後手としては面白くない展開という控室の評価だそうです。
しかし、私の棋力では、△2三銀と受けられると、先手としても相当急かされます(1四の桂が取られてしまう)。ただ、先手は4枚以上の攻めなので、第4局の終盤みたいに、うまく攻めをつないでいけるのではないかと見ています。
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上でも書きましたが、2日目開始からは△8六歩が利かず、先手穴熊に嫌味がないまま、(第1日午後からずっと)先手が一方的に攻める展開になり、控室は「先手が快調」というムードであったようです。
確かに△8六歩が利かないのは先手としては安心できる展開ですし、先手の攻め駒も角桂歩が急所に利いているうえ持ち駒の銀、さらに1五の今日も補充できそう。先手の飛も働く可能性があり、先手の攻めは厚みがありそう。
しかし、△2三銀と受けられると、角桂当たりでもあり、急かされている感もあります。私も一日目の夕方、二日目の午前中とあれこれ考えたのですが、なかなかうまく攻めきることができません。
一日目のBS中継では△2三銀以後の展開はほとんど触れられず、ネット中継でも「▲1二歩成△同玉▲1三銀△2一玉▲4二角成△同飛▲2二銀△同金▲同桂成△同飛▲同銀成△同玉▲4一飛(参考図1)」という控室の研究が紹介されたのみです。
飛車は手に入りましたが、先手の攻め駒は飛車の他は持ち駒の金と歩(2枚)、桂香は補充できそうですが、後手の角や香が良く利いていて、3八の飛は働きそうもありません。対照的に後手は持ち駒が山のようにあります。
私が先手なら、この図も自信ありませんし、封じ手の△2三銀の局面も自信がありません。
ちなみに、局後の羽生名人の感想は
「封じ手前後は心細い攻めで、ずっと悪いと思っていた。▲1三歩(127手目)でよくなったかなと思った」
でした。
実戦は△2三銀▲1二歩成に△同玉ではなく、△同銀と取りました。
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