まず、前日(その3)のおさらいから。
三浦八段の▲4六香から5四の角の頭を攻める構想が功を奏し、9六の僻地にいた飛車が中央で力を発揮しだした。
後手の羽生名人は中央のゴタゴタを解消すべく、先手の桂香と自角を交換し駒損ながら飛車取りを残し、先手陣に迫ろうとした。
しかし、ここで三浦八段の一着▲5七銀が好手で、後手の狙いである△7六歩を甘くしている。
第10図では、後手の玉飛の位置が悪く、▲8三角と打たれるのが相当の嫌味。先手と後手の飛車の価値は逆転した感がある。後手としては△7六歩と突いて飛車の価値を高めたいところだが、△7六歩に▲8三角と打たれて△8四飛とかわせられない(手順に▲7六飛と歩を払われてしまう。第10図周辺の詳しい変化は昨日の記事で名人戦第3局雑感 その3)。
というわけで、あっさり飛車を取らざるを得なかったのかもしれない。
△5六角▲同銀と進み、昨日も述べたが、▲6五桂が可能になり、玉の脱出路がひらけ、さらに△7六歩が甘くなった。形勢は相当難しくなっている。
ここで△4四桂と打つ。(第11図)
△4四桂は△5六角▲同銀の継続手で、先手の要所にある銀に働きかけるので、自然な手に見える。対する▲1二角はその銀に紐をつけた手。同じ角を打つのなら▲8三角と攻めたり、同じ銀に紐をつけるなら▲2三角の方が働きがありそう。実際は▲8三角は△8四飛▲6五桂△8三飛▲7四角に△6三香以下後手よし、▲2三角は△2二香がある。なので、銀に紐をつけただけの▲1二角は辛抱の一着と見られた。
しかし、この2手の交換は、後の進行を見ると後手の損のように思えた。
これについては、後述するとして、後手は△7六歩と突いて飛車を働かして先手に迫るしかないが、その前に△2七歩▲3九銀を利かせたのは流石で、金気1枚分の価値がある。
△7六歩に▲6五桂(第12図)。
「バシッ」。三浦の駒音が鳴り響いた(中継サイトより)。それはそうだろう、取られそうな桂馬が5三の銀取りになる跳躍だ。先の飛車に続いて、桂馬も捌けたのだ。
もう行くしかない△7七歩成(空成り、2手すき)に、▲5三桂成(王手、銀を取る)△同銀。そして、▲4五角成(第13図)。
銀に紐をつけただけの▲1二角だったが、4五に成り返ると玉の上部を制圧する圧倒的な存在になった。▲6三角の厳しい狙いもある。これに対して銀取りに打った△4四桂は銀を取れずにいる。
こうなってくると先の2手(△4四桂▲1二角)の交換は、先手の得だったのではないか。
まず、この2手の交換を入れないで、単純に実戦と同様に進んだとすると変化図になる。
(もちろん、△4四桂と打っていないと銀を取られる制約が先手にはないし、先手の持ち駒も角が2枚あるので、同じ手順で進むとは限らない。最後の▲4五角も未確定)
第13図と変化図の違いは、馬と角の違いと4四の桂の有無で、これがどのように影響するかというと、
①先手玉の広さはあまり変わらない
②6三と5四への角(馬)の利きは変わらない
③5四に駒を打った際の響きが違う(後手玉を5三に呼んでも、▲5四同角は王手に成らない)
④△5六桂と銀を取る手がある
⑤後手の持ち駒にあと銀がもう一枚あれば、△5六桂と銀を取る手が詰めろになる
と、④⑤まで考えると、後手にとっては第13図の方が良いような気がする。
さらに、
⑥先手が後手玉を攻めて4五の角(馬)が消えた時、後手の4四の桂が先手玉の動きを制する可能性が強い。
⑦4五が角だと、本譜のように5四でバラして▲5四飛と迫る順にはならないが、もしそうなったとすると、4四の桂がいないと4二に逃げても即詰みがある
リアルタイムで見ていた時、△4四桂▲1二角の2手の交換は、後手がかなり損をしたのではないかと思ったが、改めて考えると、名人ならでの深い読みがあったのだ!(たぶん)
おかしい……
簡単に『雑感』として感想を述べるつもりだったのに、どんどん、深みに嵌っているような気がする。
三浦八段の▲4六香から5四の角の頭を攻める構想が功を奏し、9六の僻地にいた飛車が中央で力を発揮しだした。
後手の羽生名人は中央のゴタゴタを解消すべく、先手の桂香と自角を交換し駒損ながら飛車取りを残し、先手陣に迫ろうとした。
しかし、ここで三浦八段の一着▲5七銀が好手で、後手の狙いである△7六歩を甘くしている。
第10図では、後手の玉飛の位置が悪く、▲8三角と打たれるのが相当の嫌味。先手と後手の飛車の価値は逆転した感がある。後手としては△7六歩と突いて飛車の価値を高めたいところだが、△7六歩に▲8三角と打たれて△8四飛とかわせられない(手順に▲7六飛と歩を払われてしまう。第10図周辺の詳しい変化は昨日の記事で名人戦第3局雑感 その3)。
というわけで、あっさり飛車を取らざるを得なかったのかもしれない。
△5六角▲同銀と進み、昨日も述べたが、▲6五桂が可能になり、玉の脱出路がひらけ、さらに△7六歩が甘くなった。形勢は相当難しくなっている。
ここで△4四桂と打つ。(第11図)
△4四桂は△5六角▲同銀の継続手で、先手の要所にある銀に働きかけるので、自然な手に見える。対する▲1二角はその銀に紐をつけた手。同じ角を打つのなら▲8三角と攻めたり、同じ銀に紐をつけるなら▲2三角の方が働きがありそう。実際は▲8三角は△8四飛▲6五桂△8三飛▲7四角に△6三香以下後手よし、▲2三角は△2二香がある。なので、銀に紐をつけただけの▲1二角は辛抱の一着と見られた。
しかし、この2手の交換は、後の進行を見ると後手の損のように思えた。
これについては、後述するとして、後手は△7六歩と突いて飛車を働かして先手に迫るしかないが、その前に△2七歩▲3九銀を利かせたのは流石で、金気1枚分の価値がある。
△7六歩に▲6五桂(第12図)。
「バシッ」。三浦の駒音が鳴り響いた(中継サイトより)。それはそうだろう、取られそうな桂馬が5三の銀取りになる跳躍だ。先の飛車に続いて、桂馬も捌けたのだ。
もう行くしかない△7七歩成(空成り、2手すき)に、▲5三桂成(王手、銀を取る)△同銀。そして、▲4五角成(第13図)。
銀に紐をつけただけの▲1二角だったが、4五に成り返ると玉の上部を制圧する圧倒的な存在になった。▲6三角の厳しい狙いもある。これに対して銀取りに打った△4四桂は銀を取れずにいる。
こうなってくると先の2手(△4四桂▲1二角)の交換は、先手の得だったのではないか。
まず、この2手の交換を入れないで、単純に実戦と同様に進んだとすると変化図になる。
(もちろん、△4四桂と打っていないと銀を取られる制約が先手にはないし、先手の持ち駒も角が2枚あるので、同じ手順で進むとは限らない。最後の▲4五角も未確定)
第13図と変化図の違いは、馬と角の違いと4四の桂の有無で、これがどのように影響するかというと、
①先手玉の広さはあまり変わらない
②6三と5四への角(馬)の利きは変わらない
③5四に駒を打った際の響きが違う(後手玉を5三に呼んでも、▲5四同角は王手に成らない)
④△5六桂と銀を取る手がある
⑤後手の持ち駒にあと銀がもう一枚あれば、△5六桂と銀を取る手が詰めろになる
と、④⑤まで考えると、後手にとっては第13図の方が良いような気がする。
さらに、
⑥先手が後手玉を攻めて4五の角(馬)が消えた時、後手の4四の桂が先手玉の動きを制する可能性が強い。
⑦4五が角だと、本譜のように5四でバラして▲5四飛と迫る順にはならないが、もしそうなったとすると、4四の桂がいないと4二に逃げても即詰みがある
リアルタイムで見ていた時、△4四桂▲1二角の2手の交換は、後手がかなり損をしたのではないかと思ったが、改めて考えると、名人ならでの深い読みがあったのだ!(たぶん)
おかしい……
簡単に『雑感』として感想を述べるつもりだったのに、どんどん、深みに嵌っているような気がする。
確かに、▲5七銀辺りからは、難解でぎりぎりの攻防でした。奇しくも生中継がその局面と重なり良かったです。
今夜の記事はその辺りのところを書きましたので、よろしかったらお読みください。
生中継がいいところで切れたのは残念でしたが、△3三角と打ったところは観なくてすんで、良かったです。
残念ながら、指し手がリアルタイムでなかなか入ってこなくて終盤の△33角!辺りでは手順がかなり怪しかったのですが・・・。
最後は詰まないながらも三浦八段に勝つ順はあったみたいですが、その辺の分析が楽しみ!?です^^。
>直後という事もあり必ずしも全て正しい内容とは限らず、後日の将棋世界や新聞の観戦記で初めて指摘される場合もある
はい。中継サイトの解説も、感想戦での検討内容が示されていますが、さらに翌日以降に加筆されていることもあります。油断できません(笑)。
この第3局の感想戦は、駒が片付けられてからも検討が続いたようです。
ペンクラブブログ、教えていただきありがとうございました。大変興味深い内容でした。
私もああいう事を言いたかったのですが…。うまく言えませんでした。
興味深く拝見しました。
「感想戦」という言葉の響きと実際の「対局者による終局直後の検討」で違和感がある方もいるのですね。
ただし、直後という事もあり必ずしも全て正しい内容とは限らず、後日の将棋世界や新聞の観戦記で初めて指摘される場合もあると思いますよ。
もしかしたらご存知かもしれませんが、下記のブログ記事に関連した記述があるので私が意見述べるより分かりやすいと思い載せました。参考までにどうぞ。
「将棋ペンクラブログ 感想戦の個性」
http://silva.blogzine.jp/blog/2010/05/post_7501.html
それでは失礼致します。
今まで疑問に思ったことはありませんでしたが、そういえば「感想戦」というのは変かもしれませんね。
感想戦の様相は、対局者やその舞台によって趣は様々なんでしょうね。
真理を追究するモノ、ぼやき節に終始するモノなど。
「感想戦」に代わる言葉?う~ん
次の局やライバルの目を意識して戦法の是非にかかわることぼかすこともあるので、「検討戦(会)」とか「分析戦」というのも少し違うかもしれませんね。
「この仕掛けはどうだった?」とか「中盤の分かれは?」とか感想(判断)を求めるところから、始まったのであれば「感想戦」かも。
でも、「戦」だけ浮いてしまいますね。
「戦い」の「感想」で、「感想戦」とか。
負けず嫌いの二人が、局後の検討でも熱くなり、主張を譲らず、もう一局指すような感じになってしまったとか?
遠い昔の棋士は、そうだったのかもしれませんね。実戦で勝って、感想戦でも勝つとか。
今回の記事は「BS中継のファンファーレのようなオープニング曲を何とかしろ」というような、徒然の思いを書こうと思って書き始めたんです。
だから、「雑感」と銘打ったのですが。
書いているうちに熱中して、くどくど長い感想になってしまいました。「分析」と見てくださるのは、うれしいです。