わびぬれば みをうきくさの ねをたえて さそふみづあらば いなむとぞおもふ
わびぬれば 身をうき草の 根を絶えて さそふ水あらば 去なむとぞ思ふ
小野小町
つらい気持ちで過ごしているうちに自身の身がいやになってしまいましたので、根のない浮草が水に流れて行くように、私も誘ってくれる人があるならば、都を去ろうかと思っています。
詞書には「文屋康秀、三河掾(みかはのぞう)になりて、県見(あがたみ)にはえ出で立たじやと、言ひやれりける返事(かへりごと)によめる」とあります。「県見」は地方を視察することで、文屋康秀が地方官として赴任するに際して、「視察に行くことはできませんか?」と小町をやんわりと誘っているのですね。それに対する返答の歌が本歌で、実際に同行はできないものの、「わが身がつらく、都を去っても良いほどです」と返したというわけです。六歌仙に名を連ねる二人のやりとりとしても興味深いですね。