相聞歌2019年(9/1~9/10)
9/1(土)
130
身軽さと淋しさつれてひょうひょうと仕事は遊びと夫のたまふ(た)
131
本部付き退職前の文化祭喧噪の中に寂しさを聴く(ま)
9/2(日)
132
もし一人取り残されたとしたならば寒い風が吹きすぎる夜(た)
133
台風で吹き寄せる風ごうごうと焼き尽くせかしこの憂鬱を(ま)
9/3(月)
134
二人で為すことが次の道つくると夫は言う心に小さなともしび灯る(た)
135
一夜明け祭りの後の夢の跡名残りを惜しみ秋の風吹け(ま)
9/4(火)
136
湿り気味の重き心を乾燥す大型ランドリーの回転軽やか(た)
137
温泉に親子三代逗留すこれが最後と幾度目の笑み(ま)
138
高原の温泉宿に親子孫窓打つ雨の音も心地よし(ま)
139
買わなくてよいものを買う道の駅老母の旅はそれが楽しみ(ま)
140
道の駅どちらにするか両方か迷いつついく高原の朝(ま)
141
「施設」なら買わずともよい食材を選ぶも最後かインゲン安し(ま)
9/5(水)
142
天災にあっけなく奪われる命あり生き延びる苦しみ画面に重く(た)
143
文化祭のペンキの跡残る長廊下を豆テストを持ちクラスへ急ぐ(ま)
144
雨降の日は何をしているのかとワイパー動かしつつきみ想う(ま)
9/6(木)
145
水を運びろうそくの灯火囲む夜人の暮らしとぬくもり抱く(た)
146
退職を半年繰り上げ一人去る部屋は静かな空気を抱きて(ま)
9/7(金)
147
台風と地震一色のチャンネルに通常番組が混じる三日目(た)
148
退職の日を夢見てた若い頃甘さと淋しさ教えてあげたい(ま)
9/8(土)
149
山崩れ生と死を分かつものは何答えのなさに時ばかり過ぐ(た)
150
母を連れ施設の面談する前に入った店のラーメン旨し(ま)
9/9(日)
151
嫁ぎゆく姪の荷物をあれこれと姉とそろえる重陽の節句(た)
152
抗がん剤は四度目が辛いと言った妻四年後の今は黙って受けている(ま)
9/10(月)
153
ロードスター手放す淋しさせわしなく軽自動車のパンフをめくる(た)
154
残る日々二人で生きていこうねと誓う我らは幼子のごとし(ま)
155
悔いもなし望みも持たぬ我なれど二人して生きる時よ長くあれ(ま)
156
望みなど無くただ二人もう少しもう少しだけ生かされていたい(ま)
157
憐憫に浸る暇無く行く日々を幸いとみる我を言祝げ(ま)
2018年の9月~10月にかけては、台風21号による北海道を中心とする大きな災害(9/5)、職場の高校の文化祭(9/2)、私の退職(9/30)、母の施設入居(10/1)、姪の結婚(9/9)、呼吸苦による夜間の受診(9/25)など、様々なことがあった。
歌を見ていると、一つ一つ当時のことを思い出す。
153にもあるマツダロードスター、妻のクルマだったが、この歌で初めてそんなにも気に入っていたのだと知った。
阿蘇の草千里も伊勢神宮も白神山地もこのロードスターで行った思い出のクルマだ。
妻は亡くなる三日前までドライブに出かけていた。もちろん運転は私だが、窓の外の流れる風景を見ていたかったらしい。
二人の退職を機に手放し、燃費の良い軽自動車を買うことになっていた。
今考えるとそんなことをしなくても良かったのかな、とも思うが。
132,134,136は、彼女の気持ちが、見えてきて泣きたくなる。妻の歌はどれもそうなのだが、このあたり、読むのが少し辛い。
仕事を辞めて二人で24h一緒にこれから生きていく、という寄り添いの気持ちと、まだ治療に期待しつつしかし先の見えない切なさを二人とも抱えていたのが、よみがえってくる。
9/1(土)
130
身軽さと淋しさつれてひょうひょうと仕事は遊びと夫のたまふ(た)
131
本部付き退職前の文化祭喧噪の中に寂しさを聴く(ま)
9/2(日)
132
もし一人取り残されたとしたならば寒い風が吹きすぎる夜(た)
133
台風で吹き寄せる風ごうごうと焼き尽くせかしこの憂鬱を(ま)
9/3(月)
134
二人で為すことが次の道つくると夫は言う心に小さなともしび灯る(た)
135
一夜明け祭りの後の夢の跡名残りを惜しみ秋の風吹け(ま)
9/4(火)
136
湿り気味の重き心を乾燥す大型ランドリーの回転軽やか(た)
137
温泉に親子三代逗留すこれが最後と幾度目の笑み(ま)
138
高原の温泉宿に親子孫窓打つ雨の音も心地よし(ま)
139
買わなくてよいものを買う道の駅老母の旅はそれが楽しみ(ま)
140
道の駅どちらにするか両方か迷いつついく高原の朝(ま)
141
「施設」なら買わずともよい食材を選ぶも最後かインゲン安し(ま)
9/5(水)
142
天災にあっけなく奪われる命あり生き延びる苦しみ画面に重く(た)
143
文化祭のペンキの跡残る長廊下を豆テストを持ちクラスへ急ぐ(ま)
144
雨降の日は何をしているのかとワイパー動かしつつきみ想う(ま)
9/6(木)
145
水を運びろうそくの灯火囲む夜人の暮らしとぬくもり抱く(た)
146
退職を半年繰り上げ一人去る部屋は静かな空気を抱きて(ま)
9/7(金)
147
台風と地震一色のチャンネルに通常番組が混じる三日目(た)
148
退職の日を夢見てた若い頃甘さと淋しさ教えてあげたい(ま)
9/8(土)
149
山崩れ生と死を分かつものは何答えのなさに時ばかり過ぐ(た)
150
母を連れ施設の面談する前に入った店のラーメン旨し(ま)
9/9(日)
151
嫁ぎゆく姪の荷物をあれこれと姉とそろえる重陽の節句(た)
152
抗がん剤は四度目が辛いと言った妻四年後の今は黙って受けている(ま)
9/10(月)
153
ロードスター手放す淋しさせわしなく軽自動車のパンフをめくる(た)
154
残る日々二人で生きていこうねと誓う我らは幼子のごとし(ま)
155
悔いもなし望みも持たぬ我なれど二人して生きる時よ長くあれ(ま)
156
望みなど無くただ二人もう少しもう少しだけ生かされていたい(ま)
157
憐憫に浸る暇無く行く日々を幸いとみる我を言祝げ(ま)
2018年の9月~10月にかけては、台風21号による北海道を中心とする大きな災害(9/5)、職場の高校の文化祭(9/2)、私の退職(9/30)、母の施設入居(10/1)、姪の結婚(9/9)、呼吸苦による夜間の受診(9/25)など、様々なことがあった。
歌を見ていると、一つ一つ当時のことを思い出す。
153にもあるマツダロードスター、妻のクルマだったが、この歌で初めてそんなにも気に入っていたのだと知った。
阿蘇の草千里も伊勢神宮も白神山地もこのロードスターで行った思い出のクルマだ。
妻は亡くなる三日前までドライブに出かけていた。もちろん運転は私だが、窓の外の流れる風景を見ていたかったらしい。
二人の退職を機に手放し、燃費の良い軽自動車を買うことになっていた。
今考えるとそんなことをしなくても良かったのかな、とも思うが。
132,134,136は、彼女の気持ちが、見えてきて泣きたくなる。妻の歌はどれもそうなのだが、このあたり、読むのが少し辛い。
仕事を辞めて二人で24h一緒にこれから生きていく、という寄り添いの気持ちと、まだ治療に期待しつつしかし先の見えない切なさを二人とも抱えていたのが、よみがえってくる。