テスラの成長の秘密の一端が元パナソニック副社長の山田喜彦氏によって語られています。❝会社が成長するためにはお金が必要だが、テスラは限りある予算を何に費やすのか、時間軸に応じてフレキシブルに変えることができる。それでいて、経営の軸はブレない。イノベーションが起こるのは、まさにこういう場所からだと痛感した。❞日本企業に巣ずく前例主義が諸悪の根源の気がします。日本が持続的に成長し続けるにはコロナ禍で一定の大企業の淘汰は致し方無いかもしれません。
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電動化や自動運転の技術で自動車業界の先端を走るアメリカ・テスラ。その独自性の1つが、もともとノートパソコンなどIT機器用に用いられていたリチウムイオン電池を車両の底に数千本敷き詰めるという設計。この電池を供給しているのがパナソニックだ(中国市場専用モデルを除く)。
2010年、当時は新興ベンチャーにすぎなかったテスラとパナソニックの協業を後押ししたのが、元パナソニック副社長の山田喜彦氏。2017年にはテスラに移籍し、テスラとパナソニックが共同で運営する北米ギガファクトリーのバイスプレジデントとして工場の立ち上げを指揮した(2019年7月に退職)。
テスラもパナソニックも知る男が語る、電池の未来とは。
「テスラに対する大方の予想は見事に外れた」
――パナソニックがテスラに出資したのは2010年のこと。当時のテスラはまだ新興のベンチャー企業でした。
当時、テスラが成功するとは誰も思っていなかった。もちろん今もテスラに半信半疑の人はいるが、当時は10人中10人が「うまくいくはずがない」と答えたことだろう。それでもパナソニックがテスラと組んだのは、同社のような成長のポテンシャルがある企業と組むという外的刺激によって、パナソニックを成長させようと考えたからだ。
『週刊東洋経済』10月5日発売号は、「テスラvs.トヨタ」を特集。自動車業界が100年に1度の大変革期を迎える中で、核となるのはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代に向けた事業構造の確立だ。その最先端を走るテスラの実像と、CASE対応を模索するトヨタ自動車をはじめ日本勢の生き残り策を追っている。
結果的に、テスラに対する大方の予想は見事に外れた。ギガファクトリーは立ち上げから2年で軌道に乗り、EV(電気自動車)の販売台数は2019年に37万台弱まで拡大した。途中、テスラがモデル3の量産に苦しむなどのスケジュール遅延はあったが、イーロン・マスクCEOが2006年に掲げたテスラの経営目標「マスタープラン」は、今見てもまったくブレていない。
――テスラの凄さとは?
イーロンという個人のカリスマ性もあるとは思うが、会社のミッションが明確で皆が一丸となって目標に向かっている点だろう。私がテスラで働いた期間は本当に面白く、退屈しない2年間だった。経営者として勉強させてもらうことがたくさんあった。
とくに感心させられたのが、予算の配分方法。会社が成長するためにはお金が必要だが、テスラは限りある予算を何に費やすのか、時間軸に応じてフレキシブルに変えることができる。それでいて、経営の軸はブレない。イノベーションが起こるのは、まさにこういう場所からだと痛感した。ただし、社員はすさまじい集中力で本当によく働くから、この状態を維持したまま何年も働ける人は少ないだろう。
「今の日本の大企業はスピードについていけない」
――型破りなテスラと、典型的な日本の大企業であるパナソニックは10年にわたって協業関係を続けてきました。その中では、テスラの生産スケジュールやマスクCEOの言動をめぐってパナソニックが振り回される局面もありました。
パナソニックに限ったことではないが、今の日本の大企業は、テスラのような企業のスピードについていけない。課題は、意思決定に慎重すぎる点にある。
日本の製造業には高い技術力があった。半導体も液晶もリチウムイオン電池も、すべて日本が技術的に先行していた。こうした設備産業の場合、市場が拡大期に入ると生産増強が必要だが、日本企業は目先のPL(損益計算書)を心配し、設備投資に慎重になる。そのうち、海外勢がエイヤで思い切った投資をする。中国勢は、政府による補助金もある。そして、いつの間にか生産量で抜かれている。その結果、投資した工場をフル稼働するだけの需要が得られず赤字になって、日本勢は敗北する。その繰り返しだ。
――車載用の電池も同じ道をたどる、と?
間違いなく、すでに電池も同じ構図に陥っている。非常に残念なことだが……。もちろん、これは今初めてわかったことではなく、だからこそ(パナソニックが)高い成長ポテンシャルを持つテスラと手を組むことで、その運命を変えようと思った。
ただ、今の日本企業では、よほどのカリスマ経営者がいるか、創業者が経営に関わっている企業でない限り、彼らについていくのは容易ではない。テスラの場合、北米のギガファクトリーはこれから軌道に乗っていくが、上海、ベルリン、テキサスとテスラの拠点はどんどん増えていくのだから。
――北米のギガファクトリーに対するパナソニックの投資額は2000億円程度といわれています。パナソニックは、今後もテスラの需要に応じて投資をしていく方針を示していますが、工場ができるたびにこの規模の投資をするのは現実的ではありません。
もちろん、新工場ができるたびにサプライヤーが巨額投資をするのはありえない話。だがもっとクリエイティブなやり方はある。
例えばテスラは、1つの工場を作ったら、2度と同じ価格で工場を作らない。1~2割減ではなく、もっと劇的なコストダウンをする。新しく工場やラインを作る際に、何か新しいアイデアを入れないと、イーロンの決裁はおりない。だから、上海のギガファクトリーのコストは、北米よりずっと下がっているはずだ。こうしたクリエイティブなコストダウンを、走りながら考えて実行する。
対して、日本企業の場合は「前回はこれだけかかりました。なので、次の予算はこれくらいです」というやりかた。ある意味で、前例主義だ。しかも、じっくりと慎重に考えてからではないと投資に踏み切らない。頭のいい人が多いから、リスクが見えすぎてしまうのだろう。慎重なのはけっして悪いことではない。ただ、その結果、日本の製造業が敗北してきたのは事実だ。
EV用電池は充放電回数や寿命を重視する方向に
――今後、日本の電池メーカーが付加価値を出して生き残る道はないのですか。
それができるか否かは、また別の話。これまでEV用の電池に求められてきたのは、車の航続距離を延ばすためにエネルギー密度を高めること。だからテスラは、当時世界でいちばん高密度だったパナソニックの電池を採用した。
ある程度航続距離が延びてきた今は、コストの安さ、エネルギー密度の高さは大前提として、何回充放電ができ、どれくらい電池が持つのかを重視する方向に軸足が移っている。電池メーカーは、こうした世の中の動きにいかに対応していくかが問われている。
すでに韓国勢は、電池の持ちを重視する路線に活路を見いだしており、中国勢も一生懸命追随している。このニーズに対応するか否かが、電池業界において今後の大きな分かれ目になるのではないか。