『名も無く豊かに元気で面白く』

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ジム・シモンズ・人間の非合理的な行動が 多くの損失を生む、そこにつけ入られるな!

2020-10-15 08:45:58 | 日記
ウォール街で桁外れの利益を出し続ける謎のヘッジファンド「ルネサンス・テクノロジーズ」彼らは❝人間という役者は以前の人間と同じように反応するっていうのが、俺たちの大前提だ。❞そこにつけ入ることで巨額の利益を生み出していたのです。要は我々が学習すれば裏をかけるのです。『人の往く裏に道あり花の山』という筆者の好きな相場格言がありますが、AIが弱気になった時がチャンスなのです。
以下抜粋コピー
ウォール街で桁外れの利益を出し続ける謎のヘッジファンド「ルネサンス・テクノロジーズ」。創始者のジム・シモンズは、40歳で数学者からトレーダーに転身した。なぜ、素人集団のルネサンスが市場で勝ち続けてきたのか。人間の感情を一切排除したアルゴリズム投資の裏で繰り広げられる、科学者たちの喜怒哀楽のドラマを描いた『最も賢い億万長者 上巻・下巻』(グレゴリー・ザッカーマン著、水谷淳訳)の日本版が刊行された。これを記念して、内容の一部を公開しよう。
時は1990年代、シモンズとともにヘッジファンドを運営してきた仲間が去り、シモンズが会社とファンドの指揮をとるようになってからのこと。新たな助っ人として、数学者のヘンリー・ラウファーやニック・パターソンらが加わり、シモンズのヘッジファンド「メダリオン」は短期トレードに改良され、取引の精度を高めていった。
 それまでシモンズらは、数を増やしつづける自分たちのアルゴリズムがなぜこれほどまで正しく価格を予測できるかについては、あまり時間を割いて考えることがなかった。彼らはあくまでも科学者や数学者であって、アナリストやエコノミストではなかった。あるシグナルが統計的に有意な結果を導けば、それだけでトレーディングモデルに組み込む理由としては十分だった。
「どうして惑星が太陽の周りを回っているかなんて分からない。だからといって惑星の動きを予測できないわけじゃない」とシモンズはある同僚に語った。つまり、市場にパターンが存在する理由を突き止めるのに時間を割く必要はない、という意味だ。
 それでも収益は急速に積み上がり、信じられないくらいに増えていった。メダリオンは1994年6月だけで25パーセント以上、年間では71パーセントの収益を上げ、シモンズでさえこの結果を「驚くばかりだ」と形容した。しかも、この年には連邦準備制度理事会が何度も金利を引き上げて、多くの投資家が大きな損失をこうむっていた。そんな中でメダリオンはこれほどの収益を上げたのだ。
 ルネサンスのチームは、投資者の多くと同じく好奇心をそそられた。いったい何が起こっているのかと考えずにはいられなかったのだ。メダリオンがほとんどの取引で収益を上げているとしたら、逆に損失を重ねているのは誰なのか?
 やがてシモンズは次のような結論に達した。損を出しているのはけっして、買い持ち型の個人投資家や、会社の事情に応じて外貨のポートフォリオをときどき調節する「多国籍企業の財務部」といった、頻繁に取引をしない人たちではなさそうだ。
 どうやらルネサンスは、規模の大小にかかわらず、同業の投機家の弱点や落ち度につけ込んでいるようだったのだ。
「フランス国債市場の動向を頻繁に推測しているような、グローバルなヘッジファンドのマネージャーのほうが、つけ入る隙は多いだろう」とシモンズは語っている。
 しかしラウファーは、メダリオンの目を見張る運用成績の理由を少し違うふうにとらえていた。自分たちがどこから金を奪い取っているのかぜひ知りたい、とパターソンから尋ねられたラウファーは、市場動向の予測に過度な自信を持っていて過剰に取引しているトレーダーたちだと指摘した。
「よくいる歯医者みたいなもんだよ」とラウファーは言った。
 口から出任せのようにも聞こえるが、ラウファーのこの見方はシモンズと同じく深遠で、革新的でもあった。当時ほとんどの学者は、市場は本来効率的であって、市場を上回る収益を上げる確実な方法など存在せず、お金に関する一人一人の意思決定はおおむね合理的であると信じ切っていた。だがシモンズと同僚たちは、そのような学者の考えは間違っていると感じ取った。投資家は認知バイアスに流されやすく、パニックやバブル、ブームや不況を引き起こしかねないと考えたのだ。
シモンズは知らなかったが、ちょうどこの頃、のちにこの直観を裏付けることになる新たな系統の経済学が産声を上げていた。1970年代にイスラエルの心理学者エイモス・トべルスキーとダニエル・カーネマンが、個人がどのように決定をおこなうかを研究し、ほとんどの人は非合理的に行動しがちであることを明らかにしていた。その後、経済学者のリチャード・セイラーが、心理学の発想に基づいて投資家の異常な行動を説明し、個人や投資家の認知バイアスを探究する「行動経済学」という分野の発展の口火を切った。
 特定された認知バイアスには次のようなものがある。投資家は一般的に損失の痛みを利益の喜びの2倍強く感じるという「損失回避」。最初に持っていた情報や経験によって判断が歪められるという「固着」。投資家はすでに自分のポートフォリオに含めている投資商品の価値を過剰に見積もるという「授かり効果」などである。
 カーネマンとセイラーはのちにこの研究でノーベル賞を受賞する。そうして、投資家は思ったよりも不合理に行動して、似たような間違いを繰り返し犯すものだという共通認識が広がった。投資家はストレスに過剰に反応して、感情的な決定を下す。金融市場が大混乱しているさなかにメダリオンが最高の収益を上げたというのは、おそらく偶然ではなく、その後何十年にもわたって同じことが繰り返されていく。
 シモンズもほとんどの投資家と同じく、ファンドが荒波をくぐり抜けている最中には神経質になった。稀ではあるが何度かは、衝動的に会社のポジション全体を減らすこともあった。しかしたいていは、直観に頼って投資していた頃の失敗を思い返して、トレーディングモデルを信じつづけた。モデルを覆すことは断固として避け、メダリオンの運用成績や社員の感情がファンドの行動に影響を与えないよう努めた。「PLは入力にしない」とパターソンは言う(PLとは、投資業界の言い回しで「損益」という意味)。「俺たちはトレーダーとしては二流だが、俺たちのシステムがいわば恋人を乗せてオールを漕ぐことは絶対にない。そういう行動が市場にパターンを生み出しているんだ」 
以前のシモンズは、経済学者や心理学者が編み出したからといって統計学的な方法論を取り入れることもなかったし、投資家のバイアスを避けたり、そこにつけ込んだりするためのアルゴリズムをプログラミングすることもなかった。しかしやがて、自分たちが収益を上げている一因はそのような投資家の過ちや過剰反応にあって、開発中のシステムを使えば同業トレーダーたちに共通する過ちにうまくつけ込めるだろうと考えるようになった。
「実際にモデリングしているのは人間の行動だ」と、ルネサンスの研究者ペナビックは説明する。「ストレスが高いときの人間の行動が一番予測しやすい。直観的に行動してパニックになるからだ。人間という役者が以前の人間と同じように反応するっていうのが、俺たちの大前提だ。そこにつけ入ることを学んだのさ」
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