イギリス人語学教師女性をストーカーのように追いかけ回し殺した事件をニュースで見ていよいよ日本も欧米のようになってきたかとわたしに起きた遠い日の事件を思い出して嘆息した。
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それでもそれを愛と呼べるのだろうか…。
古い表現だがまるで万力で締め付けられるような気がした。
背中から突然羽交い締めにあったのだ。 頭の中ではジャック・ポットのようにつぎつぎにそんな冗談をしそうな友の顔が回転した。そのジャック。・ポットはついに止まって特定の像を結ぶことがなかった。 わたしはふりほどこうともがいたがどうにもならない。相手の顔を覗こうとしたが見えない。時刻はそろそろ午前三時過ぎである。仕事が二時に終わって楽器類を片づけて店を出たのが二時半頃。ハーバー・フリーウェイからサンタモニカ・フリーウェイに乗り換える頃、おかしいなと感じた。後ろについていた車が離れない。不気味なものを感じた。 スピードをあげていつものランプ(降り口)に達した。 フリーウェイを降りるとさっきの車はついてこなかった。安心して家の前に停車した。後ろの座席に置いたギターを取りだそうとした、そのときだった。
だれかが突然わたしを後ろから羽交い締めしたのである。フリーウエイを降りてからもきちんとつけられていたのだ。こうなれば必死で戦うしかない。友だちの可能性を捨ててむちゃくちゃに暴れた。やっと相手の腕がゆるんだ。そのすきに回転して向き直る。
対峙すると相手は見知らぬ白人であることがわかった。今度はこっちの攻撃する番だ。 わたしが態勢を立て直したのを見て相手は怯えた。
”I don’t wanna hurt you”「おれはおまえを傷つけたくない」 などと口走る。その上、「おまえはキムではないのか」などとわけのわからないことを喚いてごまかした。東洋人と見ればキムと呼ぶらしい。わたしは黙って近づいた。 男は慌てて駆け出した。そばに停車しておいた車に飛び乗って逃げていった。わたしはまだ男の目的がなんだったのかわからず、呆然とその車を見送った。
あれはstalkerだったのか…。 ストーカーとは目を付けた獲物にっそり忍び寄って突然襲う獣である。 そんな犯罪は日常茶飯事だった。対象が男でも女でもおかまいなしだった。フリーウェイでわたしを見かけて、かよわい女性にでも見えたのだろうか。 「夜目、遠目、笠の内」という美人に見違える条件をすべて満たしていた。まさか、ごつい男とは思わなかったのだろう。
一度、ある店で同じくらい髪の長いバンド仲間とトイレで手を洗っているとき、入ってきた客がエキスキューズ・ミー(失礼) と言って慌てて出ていったことがある。並んだ二人の長い髪を後ろから見て婦人用トイレと思ったらしい。
情けないことだがあの男はあの方法で女性に対して、あるいは男性に対してのレイプを重ねていたのだろう。あのとき、凶器を持って襲われていれば今頃のんびりこんな回想をしたためていられなかった。
あれはアメリカでの出来事だったが、相手を思いやるという愛の基本を知らない者たちの歪んだ衝動が生む犯罪が日本社会にまで蔓延し顕在化してきた。日本は安全という神話を終わらせてはいけない。
fumio
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