monologue
夜明けに向けて
 



 こうしてこの事件は新時代の寵児、新進人気ソウル歌手、サム・クックが女性をモーテルに連れ込み強姦に失敗して裸で追いかけてモーテルの管理人に正当防衛で射殺されたという一大スキャンダルとして報道されたのである。

 強姦未遂の被害者、エリサ・ボイヤーは審問で「バーでサム・クックに会って家に連れていってくれると期待して一緒に出た。ところがそのかわりにかれはモーテルにドライブしてあの部屋に引きずり込んだの」と話した。クックの家族が雇った弁護士がエリサ・ボイヤーがなにをして暮らしているのか、尋問しようとすると検事は「われわれはこの女性の職業に関心がない」とうち切った。陪審員たちは15分であの射撃が生命財産を守るのに正当と裁定した。ボイヤーの職業について新聞はボイヤーが欧亜系歌手(Eurasian vocalist)であることを示唆した。しかし事件からひと月後の1月11日にボイヤーは電話で40ドルでセックスの約束して覆面警官にハリウッドのモーテルにおいて売春罪で逮捕された。しかし、売春容疑はおとり捜査だったので裁判所は結局とりあげなかった。ボイヤーは部屋から脱出するのに急いだので思わずクックの服をとっていったと申し立てた。

 サム・クックの事件の夜の足取りを地図上で辿ってみるとまずハリウッドフリーウエイの下のカウエンガ・ブルヴァード( Cahuenga Boulevard) 1960番地のイタリアレストラン、マルトニズ(MArtoni's)で食事して1000ドルほどの紙幣のカタマリの中から支払いを済ませて愛車フェラーリでフランクリンアヴェニューを東に走りヒルハーストアヴェニューで右折してキングスウエル通りまで走ってヒルハーストアヴェニュー( Hillhurst Ave,)1751番地にあるPJ's ナイトクラブでエリサ・ボイヤーに出会った。ここからボイヤーの証言のようにモーテルにドライブしたのならまず東に走りフィゲロア通り( Figueroa Street)で右折して南下して9137番地のハシエンダモーテル( Hacienda Motel)まで走ったことになる。ハシエンダモーテルは取り壊されてもう検証のしようがないがみすぼらしい一晩3ドルの安モーテルだったという。その駐車場にフェラーリは似合わなかっただろう。ハリウッドからはかなりの距離があるのだ。途中にはまともなモーテルがたくさんあったはずである。だれもがなにか不自然なことが多すぎると感じる事件であったようだ。その裏になにが隠されていたのだろうか。
fumio

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