monologue
夜明けに向けて
 



サム・クックはアンクル・トム型のアフリカ系アメリカ人ではなく黒人の権利を主張する急進的なマルコムXやモハメッド・アリとの親交も有名で新時代の旗手だった。音楽出版社やレコード会社を立ち上げこれまで白人の会社にいいようにされてきた著作権や原盤権を管理し始めた。かれは人種平等社会を目指す黒人の代表として活躍してヒーロー視されていた。既得権益を守るために歴史の潮流を押しとどめようとする勢力は、かれのあとに続こうとする活動家への見せしめの意味も含めてヒーローを地に落とす方法としてセックスス・キャンダルを選んだ。普通に殺害するのではなく社会的名声をも抹殺しようとしたのだ。

 検事は審問において事件関係者の姓名、年齢、職業を訊くぐらいは当然と思われるのになぜエリサ・ボイヤーの職業を訊くのを邪魔したのだろう。初めから売春婦であることを知っていたのだろうか。そして新聞はなぜ欧亜系歌手(Eurasian vocalist)であるとしたのだろうか。歌手ならサムは女たらしのようで娼婦であれば強姦と騒ぐのはおかしい。サム・クックに着せた汚名ををなるべく汚くしたかったようにさえみえる。それでもサムの死から丁度ひと月後にみんなで隠したボイヤーの職業、売春婦がばれたのはサムの無言の怒りを感じる。

 イタリアレストラン、マルトニズ(MArtoni's)でターゲットであるサムが食事しているとき仕掛け人達はPJ's ナイトクラブに連絡していたのだろうか。PJ's ナイトクラブはマフィアが経営していると噂されるクラブだった。そこでエリサ・ボイヤーと事件の遂行者達は待っていた。

 第三者の関与が明らかなのはフェラーリの中にスコッチのボトルがあったことである。午前2時過ぎに派手な高級車に乗ってロサンジェルス市内を走っていると必ずパトカーに停められて運転免許証とピンクスリップ(法的車両所有者証明書)の提示を求められる。その時、車内にアルコール類があれば飲酒運転とされる。アルコール類を運ぶ時はトランクに入れて運ばなければいけない。戸外での飲酒は禁止でどうしても酒を飲みたい時はマーケットの買い物袋に入れたまま飲んでごまかす。シカゴ出身だがロサンジェルスで仕事をし慣れているサムがスコッチのボトルを車内に置いたままにしておくとは考えられない。極力飲酒運転の疑いがかからないようにアルコール類は買ってもトランクに入れておくのだ。だれかがなんらかの偽装工作のためにスコッチのボトルを置いた可能性が高い。ナイトクラブから出てきて飲み足りないので車の中で飲んだというのはあちらの生活ではあまりにも不自然なのである。レストランで目撃された千ドルほどの紙幣のカタマリと運転免許証とクレジットカードを入れた札入れが見つからなかったことも金に目がくらんだ実行部隊の仕業だろう。有名歌手が1文なしではおかしいので108ドル程度をクリップにして残したようだ。よってたかって遂行者達がさまざまな工作をして事件の真相は闇に封じられたのだ。それでもいつか事件の封印も解かれる日が来ることだろう。わたしの出した結論はこの事件は何者かによる暗殺あるいは謀殺である。

 この1964年12月11日のサム・クックの不可解な死後、急進派マルコムXは1年後の1965年2月21日、そして穏健派マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (Martin Luther King, Jr.)牧師は1968年4月4日に暗殺されている。しかしながら歴史の流れは止めようもなくサム・クックが 「A Change is Gonna Come 」と予言したように2009年1月20日正午、バラク・フセイン・オバマ・ジュニア( Barack Hussein Obama, Jr.)は、建国以来初めてのアフリカ系アメリカ人(アフリカ系と白人との混血)の大統領となったのである。ついに変革(チェンジ)は達成されたのである。サムの早過ぎる死は無駄ではなかった。

 サム、高校時代わけがわからなかった不名誉な死に方さえもきみを怖れた者達のあがきだったことがわかった。きみはやっぱり時代を開くヒーローだった。ありがとう。こじ開けてくれて…。合掌。
fumio

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