今回の宮崎県口蹄疫事件は、自然災害ではなく、経営努力と危機管理準備を怠った畜産事業家とその事業団体の怠慢が招いた「人災」だと思います。
1.口蹄疫は100年以上も前に病原体が発見されています。それ以降何度も世界的に流行してきた家畜の流行性疫病で、一旦発生すると畜産業に致命的な衝撃となります。
しかし、その病気に関する知見や予防方法等について過去の事例は多数蓄積されており、畜産専門家がそれを認識していないはずがない。もしその準備をしていないとすれば、事業をおこなう資格がないでしょう。
未知の病原、未知の病状である新型トリインフルエンザ等の事例とは、次元が違う話です。まして「パンデミック」という用語を、連想的に使用するマスコミ報道は不勉強で、不安だけを煽る存在と思います。

2.予防ワクチンも開発されていて、日本にもすでに備蓄が50万頭分があるとのこと。それを使用しない理由は経済上のことらしい。一旦使用すると、病気終焉後も3ヶ月は汚染地域とみなされる等。製品の価格低下の期間が長引くから。
3.今年の2月、4月に韓国、香港で発生したそうです(文末の新聞記事参照)。つまり、飛行機で人ものの移動が当然な時代ですから、いつ進入があるかもしれないと警戒を怠りなくするのが「専門家」の義務。また宮崎でも10年前に発生。
4.「大変貴重な」種牛数頭を同一の施設内で飼育していたのは、この疫病の発生とそのインパクトを軽視していた証拠です。ほかの業界では、事業継続性確保のため、致命的に重要な経営資源はコピー等を複数の場所に分離して保管するのが基本的な常識です。地震や台風、火事、落雷、ミサイルなどの災害対応。彼らはそのような「事業経営の基本」すら承知していない人たちです。
5.日本の肉牛飼育事業は、ほとんど工業生産に近いと思います。英国など欧米に多い牛や羊が草を食む牧場で飼育するわけではなくて、ブロイラー鶏飼育場と同様に、きっちりと仕切った檻の中に牛をいれ、運動は最小限にして、輸入飼料を中心にした調整食料を与える。できるだけ短期間に、つまり少ない飼料で、市場価値の高い太った大きな牛を作り出すこと。その資質のDNAを持つのが優秀な種牛です。経済原理が適用される純然たる「事業」でしょう。
自然保護とか、動物愛護とは無関係の世界。
6.今回の初期感染のルートはまだ解明されてはいないけれど、上記3.のようにすぐ隣国まで来ていたのに、あっさりと進入を許してしまいました。
今回の騒動以前に、飼育場の入り口にどのような殺菌設備がありどう実施されていたのでしょうか。そんなレポート報道はありません。
7.初期の診察をし結果的に感染を見落とした獣医が悪者にされていますが、すぐ近隣国にまで感染が迫っていたのに、検体を東京に送らないと精密検査すらできないなど、この病気の重大さを認識していない(軽視した)のは、この県の畜産業界自体でしょう。そんな検査機械と人材は多少の投資で整備できると思います。
ルパン3世の漫画、宝石を盗むことを予告されていたのに、あっさりそれを実行された宝石店の社長みたいなもの。
まだ、青森のりんご農家の台風被害のほうが、防ぎようのない天災で同情の余地があると思います。
工業的な事業、例えば、自動車製造業でエンジン工場が落雷で丸焼けになりました、半年間生産ができません、工員ともども食いはぐれます。天災なので国家補償してください、と主張したらどうなるでしょうか。
畜産事業の専門家としての反省や恥じらいはないのですか。
先ほどのテレビ報道では、畜産事業者は、処分する牛1頭あたり50万円の公的補償を要求しているそうです。宮崎の特等牛肉を口にすることもない多くの国民の税金から補填すべき事案だとは思えません。
口蹄疫の拡散を軽視しているわけではありません。宮崎の地場産業を蔑視しているわけでもない。発生した疫病の拡大を防止することは公共の役割ですから、そこに税金を投入することは了解できます。
しかし、畜産という専門事業の基本的経営管理を怠った危機管理能力のない経営者は、退場させるのが自由経済主義の原則だと思います。
余談ですが、奈良の鹿も口蹄類なので感染が心配ならば、この鹿にはワクチンを接種すればいいですね。奈良の鹿は食肉として流通するわけでないので、経済問題はありません。
参考資料:
=2010/05/08付 西日本新聞朝刊= (抜粋)
農水省は、4月に牛から採取した分離ウイルスを英国家畜衛生研究所などで分析した結果、香港で2月に、韓国で4月に、それぞれ確認された口蹄疫ウイルスと遺伝子配列が似ていることが分かったと発表。動物衛生課は「ウイルスが韓国から持ち込まれた可能性もある」として、宮崎県で感染経路を究明している疫学調査チームの報告を待つ構えだ。
一方、感染源や感染経路については「可能性は指摘できても特定するのは困難」との声が強い。2000年に宮崎県と北海道で口蹄疫が発生した際も、中国産の麦わらによる感染が指摘されたが、感染ルートは特定できなかったからだ。同課は「可能性だけでも分かれば、対策は取れる」と被害拡大の防止策を探る。
全国有数の畜産県での「非常事態」に政府も懸命。平野官房長官は7日の会見で、防疫措置の徹底、農家の経営維持・再建対策、自治体の財政支援策に重点的に取り組む考えを強調し「大事なのは感染を拡大させないこと。踏み込んだ対策が必要かも検討させている」と述べた。
1.口蹄疫は100年以上も前に病原体が発見されています。それ以降何度も世界的に流行してきた家畜の流行性疫病で、一旦発生すると畜産業に致命的な衝撃となります。
しかし、その病気に関する知見や予防方法等について過去の事例は多数蓄積されており、畜産専門家がそれを認識していないはずがない。もしその準備をしていないとすれば、事業をおこなう資格がないでしょう。
未知の病原、未知の病状である新型トリインフルエンザ等の事例とは、次元が違う話です。まして「パンデミック」という用語を、連想的に使用するマスコミ報道は不勉強で、不安だけを煽る存在と思います。

2.予防ワクチンも開発されていて、日本にもすでに備蓄が50万頭分があるとのこと。それを使用しない理由は経済上のことらしい。一旦使用すると、病気終焉後も3ヶ月は汚染地域とみなされる等。製品の価格低下の期間が長引くから。
3.今年の2月、4月に韓国、香港で発生したそうです(文末の新聞記事参照)。つまり、飛行機で人ものの移動が当然な時代ですから、いつ進入があるかもしれないと警戒を怠りなくするのが「専門家」の義務。また宮崎でも10年前に発生。
4.「大変貴重な」種牛数頭を同一の施設内で飼育していたのは、この疫病の発生とそのインパクトを軽視していた証拠です。ほかの業界では、事業継続性確保のため、致命的に重要な経営資源はコピー等を複数の場所に分離して保管するのが基本的な常識です。地震や台風、火事、落雷、ミサイルなどの災害対応。彼らはそのような「事業経営の基本」すら承知していない人たちです。
5.日本の肉牛飼育事業は、ほとんど工業生産に近いと思います。英国など欧米に多い牛や羊が草を食む牧場で飼育するわけではなくて、ブロイラー鶏飼育場と同様に、きっちりと仕切った檻の中に牛をいれ、運動は最小限にして、輸入飼料を中心にした調整食料を与える。できるだけ短期間に、つまり少ない飼料で、市場価値の高い太った大きな牛を作り出すこと。その資質のDNAを持つのが優秀な種牛です。経済原理が適用される純然たる「事業」でしょう。
自然保護とか、動物愛護とは無関係の世界。
6.今回の初期感染のルートはまだ解明されてはいないけれど、上記3.のようにすぐ隣国まで来ていたのに、あっさりと進入を許してしまいました。
今回の騒動以前に、飼育場の入り口にどのような殺菌設備がありどう実施されていたのでしょうか。そんなレポート報道はありません。
7.初期の診察をし結果的に感染を見落とした獣医が悪者にされていますが、すぐ近隣国にまで感染が迫っていたのに、検体を東京に送らないと精密検査すらできないなど、この病気の重大さを認識していない(軽視した)のは、この県の畜産業界自体でしょう。そんな検査機械と人材は多少の投資で整備できると思います。
ルパン3世の漫画、宝石を盗むことを予告されていたのに、あっさりそれを実行された宝石店の社長みたいなもの。
まだ、青森のりんご農家の台風被害のほうが、防ぎようのない天災で同情の余地があると思います。
工業的な事業、例えば、自動車製造業でエンジン工場が落雷で丸焼けになりました、半年間生産ができません、工員ともども食いはぐれます。天災なので国家補償してください、と主張したらどうなるでしょうか。
畜産事業の専門家としての反省や恥じらいはないのですか。
先ほどのテレビ報道では、畜産事業者は、処分する牛1頭あたり50万円の公的補償を要求しているそうです。宮崎の特等牛肉を口にすることもない多くの国民の税金から補填すべき事案だとは思えません。
口蹄疫の拡散を軽視しているわけではありません。宮崎の地場産業を蔑視しているわけでもない。発生した疫病の拡大を防止することは公共の役割ですから、そこに税金を投入することは了解できます。
しかし、畜産という専門事業の基本的経営管理を怠った危機管理能力のない経営者は、退場させるのが自由経済主義の原則だと思います。
余談ですが、奈良の鹿も口蹄類なので感染が心配ならば、この鹿にはワクチンを接種すればいいですね。奈良の鹿は食肉として流通するわけでないので、経済問題はありません。
参考資料:
=2010/05/08付 西日本新聞朝刊= (抜粋)
農水省は、4月に牛から採取した分離ウイルスを英国家畜衛生研究所などで分析した結果、香港で2月に、韓国で4月に、それぞれ確認された口蹄疫ウイルスと遺伝子配列が似ていることが分かったと発表。動物衛生課は「ウイルスが韓国から持ち込まれた可能性もある」として、宮崎県で感染経路を究明している疫学調査チームの報告を待つ構えだ。
一方、感染源や感染経路については「可能性は指摘できても特定するのは困難」との声が強い。2000年に宮崎県と北海道で口蹄疫が発生した際も、中国産の麦わらによる感染が指摘されたが、感染ルートは特定できなかったからだ。同課は「可能性だけでも分かれば、対策は取れる」と被害拡大の防止策を探る。
全国有数の畜産県での「非常事態」に政府も懸命。平野官房長官は7日の会見で、防疫措置の徹底、農家の経営維持・再建対策、自治体の財政支援策に重点的に取り組む考えを強調し「大事なのは感染を拡大させないこと。踏み込んだ対策が必要かも検討させている」と述べた。