一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

裁判員制度における裁判官の誘導

2007-04-11 | 法律・裁判・弁護士

昨日の朝日新聞の1面トップの記事です。

裁判員、目立つ市民誘導 模擬制度で課題
(2007年04月10日06時12分 朝日新聞)  

市民の「健全な社会常識」を裁判に反映させるために09年までに導入される裁判員制度で、プロの裁判官が、ふつうの市民から選ばれた裁判員の考えを誘導しすぎるおそれがないかという懸念が強まっている。法曹三者が、全国で行われている模擬裁判の検討を進める中で、課題として浮上してきた。

新聞には具体的なやり取りがのっていました。

裁判員C「胸ぐらをつかんで平手をあげるという状況は想像できない」
裁判長「でも、坂西さんはそう見たって言っているんだよね」
裁判員D「私も、平手で殴ったという証言は疑問なんですよね」
裁判長「よほど不自然だというのなら別だけど」「たたいたと考えるのが自然じゃないですかね」

素人でも、刑事事件では合理的な疑いが残らないレベルの立証がされないと被告人を有罪にできない、というあたりの知識はTVドラマなどで仕入れていると思います。なので、逆に「間違って有罪にしてはいけない」という気持ちが先にたつので、証言の吟味も慎重になりがちなのではないかとふと思いました。

裁判員制度についての最高裁のHPで裁判員制度Q&Aを見ると、つぎのように書いてあります。

Q:法律を知らなくても判断することはできるのですか。
A:裁判員は,事実があったかなかったかを判断します。裁判員の仕事に必要な『法律に関する知識』や『刑事裁判の手続』については,裁判官が丁寧にご説明します。 皆さんも日常生活の中で,何らかの根拠から事実があったかどうかを判断することがあると思います。
例えば,壁にらくがきを見つけたお母さんが,このいたずらは兄と弟のどちらがやったのかと考える場合,「こんなに高いところには弟は背が届かないな。」とか,「このらくがきの字は弟の字だな。」とか,らくがきを見てどちらがやったのかを考えると思います。
刑事裁判でも証言を聞いたり,書類を読んだりしながら,事実があったかなかったかの判断をしていくので,日常の生活で行っていることと同じことをしていると言えます。

へぇ、そうなんですね。
だとすれば、証言とか証拠については一般常識で考えていいよ、と最初に言ってもらうと裁判員としても安心できるのではないかと思います。
今日の朝日新聞では(シリーズ記事なんですね)、裁判員になった人に示されるガイドラインでこういうことは説明されることになったようです。


一方で「意見の主張」と「誘導」の違いを区別するのは難しいと思います。

Q: 法律の専門家でない国民が加わると,裁判の質が落ちたり,信頼が損なわれたりしないでしょうか。
A:そのようなことはありません。
法律的な判断はこれまでどおり裁判官が行いますし,必要な場合には裁判員のみなさんにもご説明します。
裁判員のみなさんには,「事実認定」と「量刑」について判断していただきます。これについては,法律的な知識は必要ありません。
さまざまな人生経験を持つ裁判員と裁判官が議論することで,これまで以上に多角的で深みのある裁判になることが期待されます。

Q: 裁判官の意見に誘導されるおそれはないのでしょうか。
A:そのようなことはありません。事件について裁判員と裁判官が議論(評議)する際,裁判長は,裁判員に対して必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに,評議が裁判員に分かりやすいものとなるように整理し,裁判員が発言する機会を十分に設けるなど,裁判員がその仕事を十分に行えるように配慮しなければならないとされています。裁判員制度には,法律の専門家ではない裁判員の経験,感覚を裁判に生かすという目的がありますので,裁判官は,評議において,裁判員が気軽に意見を言えるような雰囲気を作るとともに,裁判員の意見を先に聴くなど,裁判員に意見を十分に述べてもらえるような工夫をすることになります。

Q:意見が一致しなかったら評決はどうなるのですか。
A:評議を尽くしても,意見の全員一致が得られなかったときは,多数決により評決します。裁判員の意見は裁判官と同じ重みを持ちます。ただし,この場合裁判員だけあるいは裁判官だけによる意見では,結論を決めることはできず,裁判員,裁判官のそれぞれ1人以上が賛成していることが必要です。

つまり、裁判官と裁判員は十分に議論をして意見の全員一致をめざす(多数決の際も少なくとも裁判官と裁判員1名ずつの合意は必要)一方、裁判官は裁判員を誘導してはいけない、というしくみになっています。
そうなると裁判官のスタンスは難しいですね。


ちょっとうがって考えてみます。

裁判員裁判においては、裁判官同士は意見の不一致を一般人である裁判員には見せたがらないでしょうし、裁判官としても上席者に反対すると出世に響いたりするかもしれない?ので、おそらく裁判官の間では常に意見が一致するのではないかと思います。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律を見ると、

(構成裁判官による評議)
第六十八条 構成裁判官の合議によるべき判断のための評議は、構成裁判官のみが行う。
2 前項の評議については、裁判所法第七十五条第一項及び第二項前段、第七十六条並びに第七十七条の規定に従う。
3 構成裁判官は、その合議により、裁判員に第一項の評議の傍聴を許し、第六条第二項各号に掲げる判断について裁判員の意見を聴くことができる。

そして裁判所法では

第七十五条 (評議の秘密)  合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。
とあり、つまり裁判官は「構成裁判官の合議によるべき判断」のついでに、裁判員を含めた評議の場以外で非公開で意見交換をすることができるわけですから、意見調整もしやすいですよね。

そうすると、原則として裁判員6人裁判官3人で構成される裁判員裁判においては、裁判官はあと裁判員を2人味方につければいいわけです。

こう考えると、「誘導」への誘惑も出てくるかもしれませんね。



ところで、Q&Aでちょいとひっかかったところがあります。

Q:裁判員裁判の手続は今までの裁判と違うところはあるのですか。
A:裁判員裁判の手続は,裁判官のみによる現行の裁判手続と基本的に同じです。しかし,法廷での審理が始まる前に,裁判官,検察官,弁護人の三者で,ポイントを絞ったスピーディーな裁判が行われるように,事件の争点及び証拠を整理し,明確な審理計画を立てるための手続(公判前整理手続)が行われる点が異なります。また,これまでの裁判は,約1か月おきに間隔をあけて行われることが多かったのですが,裁判員裁判においては,公判前整理手続の中であらかじめ訴訟の準備を行うことができるため,公判が始まってからは,連日的に開廷することが可能になり,多くの裁判員裁判は数日で終わる計算になります。 さらに,裁判員にわかりやすいように,メリハリのある裁判を行うように様々な工夫がされ,例えば,証拠調べは,厳選された証拠によって行われますし,争いのない事実については,その事実や証拠の内容・性質に応じた適切な証拠調べがされるようになります。また,当事者(検察官又は弁護人)双方の尋問は,原則として,連続して行われますし,論告・弁論も,証拠調べ終了後できる限り速やかに行われることになります。

この公判前整理手続って、ホリエモンの裁判のときにも使われましたよね。
なので、裁判員制度のためだけの手続きではないはずです。

今までの裁判は「ポイントを絞らずにだらだらとした審理」だったんでしょうか?
だとしたら、裁判員制度の前にそっちを改革すべきだと思います。


PS
でも朝日新聞の「市民」という言い方もいやですねぇ。「裁判員」って普通に書けばいいのにと思います。
何か「市民」と書くと無条件に正しいんだという押し付けがましさを感じてしまいます。

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ドクター・中松の慧眼

2007-04-11 | まつりごと

都知事選の開票結果のもうひとつの味わい方

石原慎太郎   2,811,486
浅野史郎      1,693,323
吉田万三        629,549
黒川紀章        159,126
ドクター・中松    85,946

ドクター・中松氏:討論番組に出演させないテレビ朝日告訴
(2007年4月5日 0時49分 毎日新聞)

この番組は、今月1日放送された「サンデープロジェクト」。知事選の候補者14人のうち吉田万三(59)、石原慎太郎(74)、浅野史郎(59)、黒川紀章(73)の4氏が出演し、ドクター・中松氏には出演依頼がなかった。

黒川紀章氏は選挙活動というより奇行に近い振る舞いが印象に残りましたが、ドクター・中松は、すでにこの時点で黒川紀章と自分がキャラがかぶっていることを見抜いていたのかもしれません。

逆にテレビ局は、出馬表明の早さのためか建築家という肩書きのためか妻が若尾文子だからか、泡沫政治家としての経験皆無な候補たちの中では別扱いをしていましたね。

しかしテレビで露出したにもかかわらずこの程度の得票だというあたりは、さすがに東京都民も見識を見せたというところでしょう。

なのでなおのこと、ドクター・中松は黒川紀章に倍近い差をつけられて、さぞかし悔しがっているのではないかと思います。

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