一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『フィクサー』

2008-05-06 | キネマ

GWは「安近短」を決め込んで、久しぶりに劇場で映画など。
ERⅠの頃は単なるあやしげな二枚目役者とおもっていたらみるみる出世して最近はプロデューサーとしても問題提起型の作品で話題のジョージ・クルーニーの『フィクサー』

※以下ネタバレあり


所属する弁護士事務所の扱う30億ドルにものぼる集団訴訟をめぐるトラブルの解決に乗り出した「フィクサー=もみ消し屋」ジョージ・クルーニーが事件に巻き込まれていく、という話です。
120分の長尺作品ですが、本線のストーリーが面白く、助演のトム・ウィルキンソン(事件の主任弁護士役)、ティルダ・スウィントン(被告企業の法務部長役)、シドニー・ポラック(弁護士事務所のトップ役)の好演もあり、長さを感じさせません。
(ラストシーン近くになると先が読めちゃいますが)


ただ問題は、予告編などをみると「フィクサー」は「裏のエース」風な法律事務所のキーマンのような先入観を持ってしまいかえってわかりにくくなってしまうのではないかということ。

実際にやっていることは雑務っぽいことが多く、本人も「『フィクサー』でなく『掃除屋』だ」という自虐的に言っています。
それに水際立った事故処理のエピソードなどもありません。
上司や同僚などは「この件を処理できるのは君を置いてはいない」などとおだててますが、雑用をやらせるために体よくおだてている風です。

劇中で明らかになる経歴も(少なくとも僕の知らない)あまり有名でない大学・ロースクールを卒業し、ブロンクスの検察官補を経て法律事務所に入り在籍17年でパートナー(共同経営者)になれず"special councel"のまま。ちらっと出てくる仕事の電話も(大金持ちでなさそうなクライアントの)離婚がらみの財産分与とぱっとしない感じです。
また、給料もそれほど高給というわけではなさそうです。

ポータルサイトの映画解説でもYahoo!映画は「弁護士事務所に所属し、裏で暗躍するもみ消し屋“フィクサー”の苦悩と焦燥を描きながら・・・」と書いてますが「暗躍」というほどかっこよくはありません。
goo映画の「NYの大手弁護士事務所に勤めるマイケル・クレイトンの専門は不始末をもみ消すこと。そんな仕事に嫌気が差していた時・・・」というほうが正確です。

処遇に不満を持ち、私生活にもトラブルを抱えながらも「ダメな大人になるな」と息子に諭すなど主人公も奥行きのある人物として描かれているのですが、ジョージ・クルーニが演じるとちょっとかっこよくなりすぎてしまうのかもしれません。


ところで映画の舞台になった法律事務所は弁護士が600人いるという設定です。
そうなると年功序列で全員がいつかは共同経営者になれるというわけにもいきません。
また、普通の会社で言う総務とか人事をやるのも共同経営者かその下請けの弁護士ということになるのでしょう。コンサルタントを雇うことはあるかもしれませんが専任のスタッフはいないので、どうしても面倒な雑務やサポート業務をする人が必要になってきますし、エース級の高い報酬を稼げる弁護士には仕事に集中出来る環境を作ることが合理的なわけです。(このへん全部教授会で物事を決めて経営から雑務まで分担する大学と似ていますね)

普通の会社なら人事ローテーションがあったり、勤めているうちに「○○畑」風になったり、そのうち先が見えてきたりで不満の大小はあるにしてもそれぞれのポジションで仕事をしています。
一方弁護士はスペシャリストというプライドがあったりするのでなかなか自分が雑務に回ることは潔しとしないのかもしれません。
なら逆に資格があるので転職するなり独立すればいいと思うのですが、アメリカでは特に競争が激しいので、主人公のような40台半ば(多分)のさほど目立った実績もない人には難しいのかもしれません。
その反面、給料は高くないにしても(レストランの共同経営に失敗し、そもそもその資金も街金から借りているし返済の7万ドルの資金繰りが出来ない)、大手事務所に勤務しているというステータスや、事務所からメルセデス・ベンツのSクラスを貸与されたりしていると、なかなか辞めづらいのかもしれません。

映画の中でも主人公が経営トップに「俺もいい仕事が出来るのだから訴訟チームに戻せ」と言うと「この事務所には600人も弁護士がいて、その全員が優秀だ(だからお前しかできない今の仕事をちゃんとやれ)」と切りかえされる場面があります。


あれ、これって日本の大企業のサラリーマンが今の処遇に不満でも福利厚生が充実してるから辞める踏ん切りがつかないのと同じような・・・

平たく言ってしまうと、この映画は「うだつがあがらず大きな事件を持たず雑用専門のロートル弁護士が集団訴訟をめぐる陰謀に立ち向かう」という話だということに気づきました。

そういうよくある話ながらきっちりと作られていて楽しめる映画なのですが、アメリカの法律事務所における「フィクサー」の仕事が明らかになると期待していると期待はずれになります。

コメント
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