ジャーナリストが「弱者の悲惨な実態を告発」するような本は、「告発」する対象が抽象的だったりステレオタイプで結局ジャーナリスト自身が取材対象を利用しているだけじゃないか、という印象を受けるものが多いので、正直言ってあまり好きではないです。
この本も前半8割は若干そういう感じもします。
確かに自殺した人たちが自分を責める必要はなかった、逆に周りが自殺に追い込むような状況があった、という問題提起はそのとおりですが、それが郵政民営化とか学校とか自衛隊という特定の組織のせいであるような書き方は、もう少し深堀りしてほしかったと思います。
僕自身は、どのような組織でも、人を自殺に追い込むような圧力をかけるような構造とか構成員の心理は潜在的にあるんじゃないか、と思っていて、それを利用して生産性や効率を上げる(たとえば「ノルマ」とか「連帯責任」)というものも一概に否定はできないと思ってます。
ただ、そのメカニズムがdark side of the forceを発揮しだしたときにどうやって止めるかが問題なんじゃないかなと漠然と考えています。
本書の大半は告発調で進むのですが、最後の2割、特に最終章のインタビューが、救いになっています。
たとえば自殺対策支援のNPO法人「ライフリンク」代表の清水康之氏
(「自殺白書」について)従来はたとえば病苦と経済的理由が切り離されていました。しかし現実の自殺の要因は一つではない。平均で四つは抱えて自殺に追い込まれていく実態が分かったのです。
自殺に追い込まれていく人々は、いくつもの要因を抱えているにもかかわらず、各要因に対応する支援策にたどりつくまでのコストが非常にかかる。精神科に行って、弁護士事務所に行って、行政の窓口に行ってと、自分の抱える問題を自分自身で分析しつつ、いちいち手続しなければならないんです。専門家同士が繋がっていないので、セーフティネットじゃなくて格子になってしまっている。
横断的な取り組みで自殺者を減らすことに成功している岐阜県の担当者
・・・多重債務に陥る方々は皆さん、根底に生活苦を抱えておいでです。多くの場合は法律の専門家に繋ぐのですが、プライベートな事情にも踏み込まないわけにはいかないので、デリケートな部分まで聞き出して相談カードを作成し、行政としての紹介状を添えて、予約もこちらで取ります。そこまでお膳立てしてあげないと、弁護士は敷居が高くて行かずじまいという結果になりがちなんですよ。それでは救済したことにならないし、とにかく普通の生活に戻るまでのケアを行政でやろうじゃないかということになって--
最後の部分からつながる続編に期待したいです。