母の施設は毎年この時期に創業祭があり 例年ですと 施設前の駐車場に
テントを張り 高知大生のよさこい踊りがあったり 高校生のクラブ活動演奏が
あったりで 入所者もその家族も 毎年楽しみにしています。
昨日がその日でしたが 天気予報では雨とのことで 余興らの 外部からの
催し物を断り 施設内で入所者と家族でふれあう 地味なものになりました。
施設前のハナミズキが 血赤サンゴのような 実をつけていました。
1-2階で18名の入所者は 階がちがうと会う機会も少なく 話ができることは
滅多にありません。
このおばあちゃんは母とはちがう階で まず かわいい髪飾りに目がいきました。
歳を聞くと本人からは72歳とのことですが となりに座った息子の嫁が
「ほんとは 88歳なんですよ」と小声で言います。
色白で肌もなめらか 72歳でも十分通じる魅力的ばあちゃんは 美しさを
ほめると本人が言うには 若い頃 大映の映画女優をしており 映画では
いつもお姫さま役で 相手役は長谷川一夫であったと言います。
そりゃ すごい! 美人は歳を重ねても いつまでも美しいと感心し
女優時代の芸名を聞いたら あれれ~~ 昔のことで忘れたそうです。
となりの嫁が 話してくれました。
おばあちゃんは若い頃から女優にあこがれ トーキー映画や ドサ回りの
芝居を見にいっては 女優になるべく 練習を積んでいました。
練習を積むといっても 村の集会所へ若い男女が集まって 将軍さまと
お姫さまが必ず出てくる時代物の 映画通りの設定で 毎度 姫さま役は
おばあちゃん 将軍役はのちに結婚する おじいちゃんでありました。
学芸会の練習のような そんな楽しいひとときも戦争で中止となり 男は
出征し 女は銃後の守りに就かねばならん 青春時代を送ったことになります。
戦争が終わり 幸い生きて帰った二等兵のおじいちゃんと結婚し その後
次々生まれた子を育てるため 昼夜働く日々となり 女優の夢は消えました。
20数年前おじいちゃんを見送って 1人で暮らしていましたが 認知が進み
3年前に入所し 今現在 要介護度2とのことです。
この日の入所者の昼食は 模擬店が作った 焼きそばや散らし寿司
プリンもたらふく食べて ごきげんの母が娘に言うには
「あんた 久しゅう会わざったけんど 元気じゃったかね」
おいおい母ちゃん おとといも いっしょに注射に行ったろう
とは口には出さず 女優ばあちゃんも母ちゃんも 満足 満足と
いった表情を しばらくながめたのち帰ってきました。