自然科学研究機構基礎生物学研究所の野田昌晴教授(総合研究大学院大学教授、東京工業大学教授(併任))らの研究グループは、食塩(塩化ナトリウム)の過剰摂取により体液中のナトリウム(Na+)濃度が上昇すると、脳内のNa+濃度センサーであるNaxがこれを感知し、交感神経を活性化して血圧上昇が起こることを初めて明らかにした。
高血圧は、日本の成人のうち約4300万人が罹患していると試算される。
食塩の過剰摂取が高血圧の原因となることは知られており、その仕組みは、体液中のNa+濃度が上昇することによって交感神経系が活性化し、その結果として血圧が上がる、という説が有力となっている。しかし、脳がどのようにしてNa+濃度を感知し、その情報をどのような仕組みで交感神経まで伝えられているのかは不明であった。
研究グループでは、これまでに細胞外液のNa+濃度上昇に応じて開口するNaチャンネルであるNaxを見いだし、その機能や生理的役割を明らかにしてきた。今回、Nax遺伝子を欠損したマウスは、野生型マウスと異なり、体液中のNa+濃度が上昇しても交感神経の活性化による血圧上昇を起こさないことを発見した。さらに、神経活動の活性化や抑制を光によってコントロールする技術などを用いて、Naxが感知したNa+濃度上昇のシグナルが交感神経の活性化につながる仕組みを分子レベル、および神経回路ネットワークレベルで解明した。
この成果は、Na+濃度と血圧上昇をつなぐ脳内の仕組みを詳細に明らかにしたものであり、高血圧に対する新しい治療法の開発に役立つものと期待される。
◆用語
〇Nax
ナトリウムチャンネルの1つ。生理的な細胞外ナトリウム濃度付近のナトリウム濃度の上昇に応答して開口し、細胞内にナトリウムを流入させる機能を持つ。
〇交感神経
中枢神経(脳・脊髄)ではなく、末梢組織に張り巡らされている末梢神経系の1つ。脊髄を経由して脳からのシグナルを受け取っている。交感神経が活性化すると、血管の収縮が起こることで血圧が上昇する。
〇脳脊髄液
脳内や脊髄にある腔(脳室など)の中を満たす体液。
〇終板脈管器官(OVLT)
交感神経や血圧の制御に関与する脳内器官の1つ。脳内で例外的に血液-脳関門(血液中の成分が脳内へ非特異的に侵入するのを防ぐためのバリア構造)を持たず、また、脳室に面した位置にあるため、血液と脳脊髄液の成分を感知するのに適した構造を持つ。
〇視床下部室傍核(PVN)
交感神経や血圧の制御に関与する脳内器官の1つ。吻側延髄腹外側野(RVLM)を経由して、あるいは直接、脊髄にシグナルを伝えている。
〇グリア細胞
神経系を構成する細胞のうち、神経細胞ではない細胞の総称。長い間、神経細胞の補助的細胞であると考えられてきたが、情報伝達においても重要な役割を持つことが分かってきている。
〇光遺伝学
光によって活性化する特殊なたんぱく質を作る遺伝子を細胞に発現させることで、その細胞機能を光によって操作できるようにする技術。神経細胞を活性化させる実験では、青色光によって活性化する陽イオンチャンネルであるチャネルロドプシン(ChR2)などが使用される。神経細胞の活動を抑制する実験では、黄色光によって活性化するクロライド(Cl-)ポンプであるハロロドプシン(eNpHR)などが使用される。
〇酸感受性イオンチャンネルASIC1
細胞外の酸性化(pHの低下)に応答して開口する性質を持つ陽イオンチャンネルであるASICファミリーに属するチャンネルの一種。ASIC1aはASICファミリーの中でも特に酸に対して高い感受性を持つ。
〇本態性高血圧
高血圧のうち、明らかな原因(腎臓や副腎の疾患、薬剤など)があって発症している高血圧(二次性高血圧)以外のものを指す。高血圧全体の約90%を占めるとされている。明らかな原因が特定できず、遺伝的因子と環境因子(食習慣や飲酒、喫煙、ストレスなど)により複合的に発症していると考えられている。
◆成人における血圧値の分類(日本高血圧学会)
分類 収縮期血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg)
至適血圧 < 120 かつ < 80
正常血圧 < 130 かつ < 85
正常高値血圧 130~139 または 85~89
I 度高血圧 140~159 または 90~99
II 度高血圧 160~179 または 100~109
III 度高血圧 ≧180 または ≧ 110
高血圧は、最大血圧が140以上または最小血圧が90以上と定義される。
高血圧は、日本の成人のうち約4300万人が罹患していると試算される。
食塩の過剰摂取が高血圧の原因となることは知られており、その仕組みは、体液中のNa+濃度が上昇することによって交感神経系が活性化し、その結果として血圧が上がる、という説が有力となっている。しかし、脳がどのようにしてNa+濃度を感知し、その情報をどのような仕組みで交感神経まで伝えられているのかは不明であった。
研究グループでは、これまでに細胞外液のNa+濃度上昇に応じて開口するNaチャンネルであるNaxを見いだし、その機能や生理的役割を明らかにしてきた。今回、Nax遺伝子を欠損したマウスは、野生型マウスと異なり、体液中のNa+濃度が上昇しても交感神経の活性化による血圧上昇を起こさないことを発見した。さらに、神経活動の活性化や抑制を光によってコントロールする技術などを用いて、Naxが感知したNa+濃度上昇のシグナルが交感神経の活性化につながる仕組みを分子レベル、および神経回路ネットワークレベルで解明した。
この成果は、Na+濃度と血圧上昇をつなぐ脳内の仕組みを詳細に明らかにしたものであり、高血圧に対する新しい治療法の開発に役立つものと期待される。
◆用語
〇Nax
ナトリウムチャンネルの1つ。生理的な細胞外ナトリウム濃度付近のナトリウム濃度の上昇に応答して開口し、細胞内にナトリウムを流入させる機能を持つ。
〇交感神経
中枢神経(脳・脊髄)ではなく、末梢組織に張り巡らされている末梢神経系の1つ。脊髄を経由して脳からのシグナルを受け取っている。交感神経が活性化すると、血管の収縮が起こることで血圧が上昇する。
〇脳脊髄液
脳内や脊髄にある腔(脳室など)の中を満たす体液。
〇終板脈管器官(OVLT)
交感神経や血圧の制御に関与する脳内器官の1つ。脳内で例外的に血液-脳関門(血液中の成分が脳内へ非特異的に侵入するのを防ぐためのバリア構造)を持たず、また、脳室に面した位置にあるため、血液と脳脊髄液の成分を感知するのに適した構造を持つ。
〇視床下部室傍核(PVN)
交感神経や血圧の制御に関与する脳内器官の1つ。吻側延髄腹外側野(RVLM)を経由して、あるいは直接、脊髄にシグナルを伝えている。
〇グリア細胞
神経系を構成する細胞のうち、神経細胞ではない細胞の総称。長い間、神経細胞の補助的細胞であると考えられてきたが、情報伝達においても重要な役割を持つことが分かってきている。
〇光遺伝学
光によって活性化する特殊なたんぱく質を作る遺伝子を細胞に発現させることで、その細胞機能を光によって操作できるようにする技術。神経細胞を活性化させる実験では、青色光によって活性化する陽イオンチャンネルであるチャネルロドプシン(ChR2)などが使用される。神経細胞の活動を抑制する実験では、黄色光によって活性化するクロライド(Cl-)ポンプであるハロロドプシン(eNpHR)などが使用される。
〇酸感受性イオンチャンネルASIC1
細胞外の酸性化(pHの低下)に応答して開口する性質を持つ陽イオンチャンネルであるASICファミリーに属するチャンネルの一種。ASIC1aはASICファミリーの中でも特に酸に対して高い感受性を持つ。
〇本態性高血圧
高血圧のうち、明らかな原因(腎臓や副腎の疾患、薬剤など)があって発症している高血圧(二次性高血圧)以外のものを指す。高血圧全体の約90%を占めるとされている。明らかな原因が特定できず、遺伝的因子と環境因子(食習慣や飲酒、喫煙、ストレスなど)により複合的に発症していると考えられている。
◆成人における血圧値の分類(日本高血圧学会)
分類 収縮期血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg)
至適血圧 < 120 かつ < 80
正常血圧 < 130 かつ < 85
正常高値血圧 130~139 または 85~89
I 度高血圧 140~159 または 90~99
II 度高血圧 160~179 または 100~109
III 度高血圧 ≧180 または ≧ 110
高血圧は、最大血圧が140以上または最小血圧が90以上と定義される。
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