歩けば楽し

楽しさを歩いて発見

  思い出を歩いて発掘

   健康を歩いて増進

微生物(大腸菌)に糖を目的別に使い分けさせる新技術でポリマー原料の生産性向上

2020-02-18 | 科学・技術
 神戸大学大学院工学研究科の藤原良介博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員DC1)、田中 勉准教授、理化学研究所 環境資源科学研究センターの野田修平研究員らの研究グループは、バイオ生産に利用する微生物を代謝工学により改変し、取り込んだ糖の種類を目的別に使い分けさせることで、生産性の向上に成功した。研究成果は、2020年1月14日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」に掲載。
 ポイント
 〇糖を使い分けることで微生物の増殖と物質生産を独立してコントロールする「Parallel Metabolic Pathway Engineering(PMPE)」という技術を開発し、ムコン酸収率の向上に成功。
 〇芳香族化合物やジカルボン酸などのさまざまな化成品原料や医薬品原料の生産にも利用が可能。
 〇実際のバイオマスなど複数の糖類が入っている原料も効率よく利用できると期待される。
 研究の背景
 私たちの社会では石油を原料として様々な製品が作られている。しかし、石油由来製品は大気中のCO2の量を増やし、地球温暖化などの様々な環境問題を引き起こしている。そこで、自然界に大量に存在する安価な草や木などの再生可能資源(バイオマス資源)を原料として、微生物を用いたモノづくりを行うバイオリファイナリー技術の開発が求められている。バイオマス由来の製品は大気中のCO2を増加させないカーボンニュートラルという特長をもっており、このバイオマスから様々な有用物質を生産する技術を開発することで、大気中のCO2を減らした低炭素社会の構築が期待できる。
 ムコン酸はナイロンの原料となるアジピン酸に容易に変換できる有用化合物であり、他にも様々な医薬品や化成品原料として利用できる。しかし、その生産は化石資源を原料に用いた化学合成に依存しているのが現状である。そこで、より穏和な反応条件で副生成物も少ない微生物による再生可能な植物資源からの発酵生産方法が望まれてきた。
 微生物を用いたモノづくりでは、原料のバイオマスを微生物が自身の増殖に利用してしまうことが問題となっている。微生物がバイオマスを取り込んでも、目的のモノが作られずに微生物自身が増えてしまうだけ、ということがよくある。しかし微生物が増えないように代謝を改変してしまうと、微生物は元気がなくなりモノを作らなくなる。この増殖とモノづくりの間のジレンマがこれまでの大きな問題であった。
 本研究では、糖を使い分けることで微生物の増殖とモノづくりをそれぞれ独立してコントロールする技術(PMPE: Parallel Metabolic Pathway Engineering)を新たに開発し、このジレンマの解決に取り組んだ。
 研究の内容
 食料生産と競合しないリグノセルロース系バイオマスは、主にグルコースとキシロースからできている。このグルコースをモノづくりに、キシロースは微生物の増殖に使えるような代謝デザインを施した大腸菌を構築した。
 通常の微生物では、取り込まれたグルコースとキシロースは同じ1つの代謝系で代謝され、目的物質を生産するとともに微生物が生きるために使われる。微生物はこの取り込んだ糖類を自分が生きるためのエネルギー生産や構成要素の合成、維持に使ってしまうため、目的生産物の生産量は低下する。
 そこで本研究では、PMPEという新しい技術を開発した。微生物の代謝を分けてそれぞれ独立させることにより、グルコースは全て目的物質の生産に、キシロースは微生物の生育、維持のために使われる。グルコースは生育、維持のためには一切使われないため、収率を大きく向上させることができる。
 本研究では、改変した大腸菌にムコン酸生産経路を導入し、グルコースとキシロースからムコン酸生産を行った。最終的にムコン酸を4.26 g/L生産することに成功し、その収率(理論上の最大収量に対する実収量)は0.31 g/g-glucoseとなった。この収率は世界最高値であり、本技術が有効であることを示している。
 さらに、PMPE技術をムコン酸以外の目的生産物への応用を検討した。その結果、芳香族化合物であり必須アミノ酸でもあるフェニルアラニンや、食品や医薬品の添加剤として用いられる1,2-プロパンジオールの生産性を向上することに成功した。これらの結果は、PMPE技術が様々な物質の生産性・収率の向上に有効である、汎用性の高い技術であることを示している。
 今後の展開
 本研究で開発されたPMPE技術を用いることで、ムコン酸以外にも芳香族化合物やジカルボン酸などの様々な医薬品、化成品原料の生産性・収率の向上が期待される。また、糖を使い分けさせることで微生物の代謝を制御するという本研究の成果は、様々な糖類が混在する実バイオマスの有効利用にも大きく貢献できると考えられる。
 ◆用語解説
 〇バイオフリファイナリー技術
 再生可能な資源であるバイオマスを原料として、バイオ燃料やバイオプラスチック、医薬品原料などを生産する技術。
 〇カーボンニュートラル
 化石燃料の代わりにバイオマスを使うことで二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロとなり、大気中のCO2の量は変化しないという概念。
 ◆人工遺伝子で大腸菌を作製、英研究所など
   (2019/5/26付日本経済新聞 より)
 英国の分子生物学研究所を中心とするグループは、塩基配列を全面的に組み換えた遺伝子をもつ大腸菌を作製した。
 合成するアミノ酸の種類を決める遺伝情報は通常61種類あるが、59種類にしてもこの大腸菌は生きていた。人工細菌を設計する研究に向け有望な手がかりになるという。
 大腸菌の遺伝子は約400万個の塩基対でできている。アミノ酸を合成する遺伝情報に重複があることに注目し、ゲノム編集技術を使って情報が重なった2種類の遺伝子を集約した。約100万塩基対の遺伝子を合成した酵母がすでに作製されている。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿