北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■池田緑展 (2020年12月19日~21年3月21日、帯広)

2021年03月20日 16時07分39秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 帯広美術館の池田緑展は、北海道を代表する現代美術家の全貌をあらためてとらえた好企画で、行けなかった人はせめて図録だけでも入手したい(年譜など、驚嘆すべき充実ぶりです)ところです。

 展覧会の会場は作家が用いる「素材」ごとに
「ジーンズ」
「プラスチックテープ」
「マスク」
「言葉」
「映像」
の五つのセクションにわかれています。
 筆者の個人的な思いでいえば、やっぱり、池田緑さんといえば「マスク」なんですよねえ。

 十勝管内サホロの森にマスクをかけて、定点観測を始めたとき、作者には地球環境への漠然とした不安や懸念はあったのでしょうが、後にこれほどまでにマスクが現実味を帯びた存在(あるいは記号)として浮上するようになるとはゆめにも考えていなかったと推測されます。
 確かにサホロの木々の枝に4年間掛けられたマスクは汚れていましたが、それは一種の比喩のようなものであり、汚れの正体は土ぼこりなどだったと思われます。それ自体はなんら不自然なものでも有害なものでもありません。
 しかし、2001年、ニューヨーク滞在時に遭遇した「米中枢同時多発テロ」の現場では、瓦礫の散乱と舞い上がるほこりから身を守るためにマスクを着ける人々が登場し、越後妻有トリエンナーレ(大地の芸術祭)に参加する少し前には地元・新潟県で水害が起きたためマスクがそれを連想させるとあって総合プロデューサー北川フラムさんからマスク以外の素材による作品を打診されます。
 そして、池田さんの作品歴にとっては、2011年の東日本大震災が決定的な意味を持っています。図録によれば
「自然の巨大な力に圧倒され、救助や復旧に携わる人々のマスク姿からマスクが象徴する意味が変化したことを感じ、このプロジェクトを終えることにしたのである」
とのことです。
 大震災は国内のことでしたが、昨年から全世界的にマスクが大きな意味を持ち始めていることは、ここであらためて述べるまでもないでしょう。
 もちろん、池田緑さんが、新型コロナウイルスの感染拡大を予言していたなどと話を単純化するつもりはありません。
 また作者としては、マスクばかりが注目されるのは本意ではないでしょう。
 なのですが、やはりアーティストとはなにがしかの予言者なのではないかということを、今回のウイルス騒動に際して強く感じ入りました。

 冒頭画像は
≪A World Masked, 1999~2010≫。
 図録には176枚の写真が載っています。
 すごいですよね、とにかく世界じゅうあちこちにマスクを掛けているんですから。
 国名を列挙すると

ノルウェー、スイス、英領グランドケイマン島、米国(ハワイ含む)、ドイツ
オーストリア、オーストラリア、ベトナム、中国、マレーシア
トルコ、カンボジア、台湾、英国、カナダ
ハンガリー、フランス、韓国、クロアチア、ロシア

となります。
 2012年以降の
≪My Day, My Place≫
ではスリランカやニュージーランドも撮影地になっています。
 ≪A World Masked, 1999~2010≫で個人的に好きなのは、帯広のシカの彫刻にマスクをかけた1枚。バックのビルの看板がアルファベットだらけなので、ちょっと見ると日本国内には見えません。やっぱり美術家って、瞬間的におもしろい情景をとらえるのだなあと感服します。

 で、ここでいいたいのは、池田緑さんはマスクを世界に掛けていたわけですが、

マスクのある情景がグローバルになってしまった要因によって、世界に旅立てなくなってしまった

ということです。
 これ、すごく皮肉じゃないでしょうか。
 世界中でマスクを着用するような時代が突然やって来て、そのせいで、池田さんは世界にマスクを掛けられなくなったのです。


 長くなったので、次項に続きます。

2020年12月19日(土)~21年3月21日(日)午前9時半~午後5時、月曜(1月11日を除く)、12月29日~1月3日、12日休み
道立帯広美術館(帯広市緑ケ丘2、緑ケ丘公園)

一般520(410)円、大学生300(220)円、高校生以下・障害者手帳所持者は無料
かっこ内は、10人以上の団体、前売り、リピーター(道立の美術館で開かれた特別展の半券を提示した人)、神田日勝記念館のチケット半券を提示した人の割引

コレクションギャラリーとの共通料金は一般680円、大学生380円



□ブログ「緑の風」 http://imgreen.exblog.jp/

過去の関連記事へのリンク
【告知】池田緑展(2020年12月19日~21年3月21日、帯広) IKEDA Midori Exhibition
神田日勝没後50年 躍動する十勝の美術作家展 (2020、鹿追)

500m美術館 vol.26「最初にロゴス(言葉)ありき」 (2018、札幌)

池田緑展 I WAS BORN. Part II (2016)
池田緑展 FOUR WORD STORIES「四つの言葉」の物語 (2015)

防風林アートプロジェクト(2014)

【告知】18人の写真表現-焼きつけられたイメージ(2013、釧路)

置戸コンテンポラリーアート(2012)

池田緑「マスク・プロジェクト<最終章>-サホロ1999~ハルカヤマ2011- ハルカヤマ藝術要塞
真正閣で池田緑作品を見る 帯広コンテンポラリーアート(2011)
北海道新聞の6月29日「ひと 2011」欄は池田緑さんが登場

あおもり国際版画トリエンナーレ2010で池田緑さん、風間雄飛さん入賞
池田緑展 Silent Breath―沈黙の呼吸(2010)
池田緑展-六つのこと・444の日- (2010)

池田緑さんによるマスクイベント アジアプリントアドベンチャー

池田緑 1993-2008現代美術展(2008年6月)■続き
深川駅前にマスクの花(同)
田園都市のコンテンポラリーアート 雪と風の器(2008年3月)

越後妻有(つまり)アートトリエンナーレ(2006)

十勝千年の森=水脈の森・万象の微風 自然=人間=大地(2003年10月8日の項)

十勝の新時代 池田緑展(2002年、道立帯広美術館)
池田緑展アーティストトーク(同上)
とかち環境アート(02年)




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。