1980年代を中心に抽象絵画の制作・発表を行うかたわら、「北海道現代作家展」の開催に尽力し、84~85年には札幌発の隔月刊誌「美術ノート」の編集・刊行を手がけた佐佐木方斎さん。
90年代以降の長い沈黙を経て、ゼロ年代後半からぽつぽつと個展を開いています。
このたび、陶芸家の蔦井乃理子さんと染色家の蔦井美枝子さん姉妹が自らのコレクションを時折公開しているスペース「tuus」などの札幌市内4カ所で同時に、彼の画業にスポットを当てる展示が企画されています。
いずれの会場も、いわゆるギャラリーではありません。「日常の場でアートを楽しみ、氏の作品に触れてほしい、暮らしの中にアートを取り入れてほしい」と蔦井乃理子さんは話します。
宮の森地区の本郷新記念札幌彫刻美術館に近い「tuus」では油彩を中心に展示しています。
冒頭と2枚目の画像は「格子群」シリーズ。
2枚めの中央だけは「逆絵画」シリーズの一枚です。
いずれも入り口近くの部屋で、ここには9点が展示されています。
そのうち1点が「余剰群」シリーズで、回転して斜めになった矩形が多彩な色で描かれています。
残る8点はすべて白と黒だけで描かれています。大半は垂直と水平のラインだけで構成されており、非常に禁欲的な「冷たい抽象」といえそうです。
奥の部屋には、さまざまなタイプの作品がちらばって置かれています。
画像は「メタ絵画」と呼ばれる2点。
写真ではほとんどわかりませんが、実物を見ると、白い地に白い矩形が浮かび上がってきます。
おそらくは、ロシア革命期に活躍し、カンディンスキーやモンドリアンとともに抽象絵画の創始者とされるウクライナの画家カジミール・マレーヴィチの「白の上の白」を踏まえているものと思われます。
絵画についての絵画、あるいは、自己言及的な絵画ということなのでしょう。
この2点は、光が入って失敗写真になってしまいましたが、「nature」と題した2点。
1970~77年という長い時間を費やして描かれ、78年の北大黒百合会展に出品されました。
初期作とあって、ジャクソン・ポロックからの影響は明らかです。
こちらは「逆絵画」シリーズ。
垂直と並行だけからなる「格子群」シリーズから45度傾いて、中央に一つ正方形が小さく描かれています。
このほか、編集発行に奔走した「美術ノート」誌の全9冊や、佐佐木さんが北海道の現代美術に関する評論を寄稿した「美術旭川」誌や月刊文芸誌「北方文芸」のバックナンバー、「北海道現代作家展」の図録などが置いてあり、自由に読むことができます。
これらをみると、あらためて、1980年代の精力的な活動ぶりがうかがえます。
(ちなみに「美術旭川」は、先日亡くなった平間文子さんが発行していた雑誌です)
画像で、左側手前に置いてある灰色の表紙のノートは、数学の証明が書いており、筆者が見てもちんぷんかんぷんでした。
このほか
「ulmus」には、油彩(格子群)、立体、レリーフ
「アンプラグド」には版画(格子群)
「抽斗」には版画(余剰群、自由群)
が、それぞれ展示してあり、会期終了後も一部展示の予定とのことです。
最後に、書かずもがなの筆者の感想を付け加えておきます。
展示作のうち多くが描かれたのは1980年代です。いまとなっては「懐かしい」というのが、はじめに抱く印象です。
これらの作品が美術のシーンで先端的な意味合いを有することができたのは、おそらく1960~70年代までのことです。当時、美術の概念を拡張させようとした「前衛美術」が、長い時をへて、「暮らしの中で」インテリアとしての役割をもっぱら果たすようになっているとするなら、これは、前衛の無害化を嘆くべきではなくて、むしろ喜ばしい事態といえるのかもしれません。
ただ、佐佐木方斎展のレビューで漏らしても詮方ないことなのは承知でいいますが、いまや現代アートって「モノ」や「表現」が前提ではないんですよね…。この話は別の機会にあらためて書くことにしますか(いや、筆者が書くほどのことでもないと思うんですけどね。たとえば大通西13丁目の「一石を投じる」のどこらへんがアートなのかを考えればわかることではないでしょうか)。
2024年10月5日(土)~10日(木)正午~午後6時
※以下、@以下は Instagram のアカウントとリンク
tuus(札幌市中央区宮の森3の11 @tuus___ )
ulmus(札幌市中央区北3西12 @ulmus_sapporo )
抽斗(札幌市中央区南6西24 @kakushibeya.sapporo)
10月5~10日午後1~8時
general autiques unplugged(札幌市中央区南3西8 @unplugged.sapporo )
過去の関連記事へのリンク
■佐佐木方斎展 逆絵画 #2 (2021)
■佐佐木方斎展ー部分群 (2019)
■佐佐木方斎展 Hosai's early works (2015)
■佐佐木方斎展「メタレリーフ」 (2009)
■佐佐木方斎/版画展 抽象画家「格子群」(2006年)
90年代以降の長い沈黙を経て、ゼロ年代後半からぽつぽつと個展を開いています。
このたび、陶芸家の蔦井乃理子さんと染色家の蔦井美枝子さん姉妹が自らのコレクションを時折公開しているスペース「tuus」などの札幌市内4カ所で同時に、彼の画業にスポットを当てる展示が企画されています。
いずれの会場も、いわゆるギャラリーではありません。「日常の場でアートを楽しみ、氏の作品に触れてほしい、暮らしの中にアートを取り入れてほしい」と蔦井乃理子さんは話します。
宮の森地区の本郷新記念札幌彫刻美術館に近い「tuus」では油彩を中心に展示しています。
冒頭と2枚目の画像は「格子群」シリーズ。
2枚めの中央だけは「逆絵画」シリーズの一枚です。
いずれも入り口近くの部屋で、ここには9点が展示されています。
そのうち1点が「余剰群」シリーズで、回転して斜めになった矩形が多彩な色で描かれています。
残る8点はすべて白と黒だけで描かれています。大半は垂直と水平のラインだけで構成されており、非常に禁欲的な「冷たい抽象」といえそうです。
奥の部屋には、さまざまなタイプの作品がちらばって置かれています。
画像は「メタ絵画」と呼ばれる2点。
写真ではほとんどわかりませんが、実物を見ると、白い地に白い矩形が浮かび上がってきます。
おそらくは、ロシア革命期に活躍し、カンディンスキーやモンドリアンとともに抽象絵画の創始者とされるウクライナの画家カジミール・マレーヴィチの「白の上の白」を踏まえているものと思われます。
絵画についての絵画、あるいは、自己言及的な絵画ということなのでしょう。
この2点は、光が入って失敗写真になってしまいましたが、「nature」と題した2点。
1970~77年という長い時間を費やして描かれ、78年の北大黒百合会展に出品されました。
初期作とあって、ジャクソン・ポロックからの影響は明らかです。
こちらは「逆絵画」シリーズ。
垂直と並行だけからなる「格子群」シリーズから45度傾いて、中央に一つ正方形が小さく描かれています。
このほか、編集発行に奔走した「美術ノート」誌の全9冊や、佐佐木さんが北海道の現代美術に関する評論を寄稿した「美術旭川」誌や月刊文芸誌「北方文芸」のバックナンバー、「北海道現代作家展」の図録などが置いてあり、自由に読むことができます。
これらをみると、あらためて、1980年代の精力的な活動ぶりがうかがえます。
(ちなみに「美術旭川」は、先日亡くなった平間文子さんが発行していた雑誌です)
画像で、左側手前に置いてある灰色の表紙のノートは、数学の証明が書いており、筆者が見てもちんぷんかんぷんでした。
このほか
「ulmus」には、油彩(格子群)、立体、レリーフ
「アンプラグド」には版画(格子群)
「抽斗」には版画(余剰群、自由群)
が、それぞれ展示してあり、会期終了後も一部展示の予定とのことです。
最後に、書かずもがなの筆者の感想を付け加えておきます。
展示作のうち多くが描かれたのは1980年代です。いまとなっては「懐かしい」というのが、はじめに抱く印象です。
これらの作品が美術のシーンで先端的な意味合いを有することができたのは、おそらく1960~70年代までのことです。当時、美術の概念を拡張させようとした「前衛美術」が、長い時をへて、「暮らしの中で」インテリアとしての役割をもっぱら果たすようになっているとするなら、これは、前衛の無害化を嘆くべきではなくて、むしろ喜ばしい事態といえるのかもしれません。
ただ、佐佐木方斎展のレビューで漏らしても詮方ないことなのは承知でいいますが、いまや現代アートって「モノ」や「表現」が前提ではないんですよね…。この話は別の機会にあらためて書くことにしますか(いや、筆者が書くほどのことでもないと思うんですけどね。たとえば大通西13丁目の「一石を投じる」のどこらへんがアートなのかを考えればわかることではないでしょうか)。
2024年10月5日(土)~10日(木)正午~午後6時
※以下、@以下は Instagram のアカウントとリンク
tuus(札幌市中央区宮の森3の11 @tuus___ )
ulmus(札幌市中央区北3西12 @ulmus_sapporo )
抽斗(札幌市中央区南6西24 @kakushibeya.sapporo)
10月5~10日午後1~8時
general autiques unplugged(札幌市中央区南3西8 @unplugged.sapporo )
過去の関連記事へのリンク
■佐佐木方斎展 逆絵画 #2 (2021)
■佐佐木方斎展ー部分群 (2019)
■佐佐木方斎展 Hosai's early works (2015)
■佐佐木方斎展「メタレリーフ」 (2009)
■佐佐木方斎/版画展 抽象画家「格子群」(2006年)