東京から帯広を経て十勝の豊頃町に移ったのちも精力的な活動を続けている白濱雅也さん。
今春には1年間の期限つきながら突然礼文島に転居して周囲を驚かせました。
個人的には絵画やポップな立体造形のイメージが強い白濱さんが木彫だけの個展を開くのは意外な感じがしました。
ただし、札幌国際芸術祭(SIAF2017)の関連プロジェクトではクマのお面のような木彫を発表していますし、本郷新記念札幌彫刻美術館を借りて自ら道外の作家に声をかけて開いた好企画「Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で 」でも円空仏を想起させる木の彫刻を出品しています。
案外、白濱さんにとっては、昔からなじみの技法なのかもしれません。こういう作風の彫刻家は、ちょっと思い当たらないですが。
作者は、細長い形から、ジャコメッティに似ているのではないかと心配していましたが、重なる要素はほとんどないのではと思います。あるいは、西洋の古典建築にみられるカリアティード(柱が人物彫刻になっている)にも似ているかもしれませんが、やはり違うようです。
その細長いものは「柱人シリーズ」で、そのほか「ヒトミマンシリーズ」があり、それぞれ数点並んでいました。
画像は柱人シリーズの「Moonchild」。
白濱さんのもとには、古材や廃材をくれる人がいて通常はまきストーブで燃やしているそうです。
ほぞが刻んであったりする角材の形がおもしろいと感じ、それを生かしながら人の形に刻み、アルキド樹脂絵の具により着色をほどこしています。
この絵の具は「不透明でつやがなく、木へのノリも良い」とのこと。
あまり他の作家がしないであろう、さまざまなことを試みているようです。
全体を着彩したり削ったりするのではなく、一部の表面はまったく手を入れずにそのまま残していること。
削らない部分に着彩したり、彫り込んだ部分に着彩したりしていること。
直接色を塗った部分もあれば、輪郭や地にあたる部分をつくってからさらにそこに模様などを描き入れている部分もあるなど、絵柄の作り方にも違いがあること。
…などです。
そもそも、彫刻なのか、あるいは支持体が不定形な絵画なのか、どちらとも解釈できる作品だともいえます。
それにしてもこの人、青ざめた顔をして頭を抱えているようで、なにか悩みでもあるのでしょうか。
「ヒトミマンシリーズ」の「大切なもの」。
ちなみに「瞳マン」ではなく「ヒト未満」です。
節の部分を生かして色をつけており、どこか宇宙人を思わせます。
ただし、シリーズの他の作品は、スーツを着ているなどもっと人間っぽい仕上がりです。顔の描き方などあえて素朴派ふうにしているのか、技巧的な人形めいたところはありません。
大切なものなのに大事に扱われず、使い捨てにされていく廃材に、作者は、あちこちの現場で働く人たちの姿を重ねたそうです。
個展のタイトルは、せめて廃材を森にかえしてあげたい―という思いから、最初は、森に帰りたい―といったものを考えていたそうです。
ジャン=ジャック・ルソーが言ったとされる「自然に帰れ」の掛け声とともに18世紀末から19世紀前半の欧洲にロマン主義の潮流が文芸や音楽、美術などに幅広く起こりました。その思潮は明治の日本にも流入しました。
文芸思潮としてのロマン派は過去のものになりました。ただし、わたしたちがネイチャーフォトやアースワークなどに接するとき、あるいはアウトドアを目指すとき、どこかにロマンを求める心がひそんでいるのではないかと思います。
しかし「自然に帰れ」というキャッチフレーズ自体、すでに自分たちが自然の側にはいないということを示しているのではないでしょうか。
わたしたちの暮らしはどんどん人工化が進んでいます。ヘンリー・ソローのように湖畔に小屋を建てて自給自足の生活を夢見ようとしても、エアコンディショナーなしでは生きていけない人が多そうです。
オール・オア・ナッシングで「自然か人工か」と二者択一を迫るのも好きではないのですが、とはいえ、もう森や自然には帰ることのできないひ弱な現代人になってしまったなあと、筆者は自らを省みて思うのです。白濱さんは、筆者なんぞよりはまだしも、森に近い位置で生きているような感じがしますが。
2024年9月9日(月)~11日(水)、16日(月)~18日(水)午前10時半~午後3時半
黒い森美術館(北広島市富ケ岡09-22)
□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□動画作品サイト「北舟公開」 https://arkvoyage.art
□美術作家 白濱雅也の関心事 https://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□ツイッター(X) @shirahamamasaya
過去の関連記事へのリンク
【告知】かつて、ここには (2022年5月1~8日、十勝管内豊頃町)
■フィギュールの森 2022 北翔大学北方圏学術情報センター プロジェクト研究美術グループ成果報告作品展 (3月)
ネタバレ注意 白濱雅也「Star & Gold(スターとゴールド どうしていいかわからない)」
■白濱雅也「スターとゴールド」(2021)
■竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」 (2020)
真鍋庭園にあった白濱雅也「FREE ME」
■ こころのにわ (2019)
■Retro Machinism_暖かな機械 (2019)
■Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で (2019)
■(4)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」―最終日に行った会場のこと
(2017)
■裏物語 ヘンゼルとグレーテル ー帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
■「北風太陽神」ー防風林アートプロジェクト
・JR北広島駅あるいは地下鉄東豊線福住駅から中央バス「広島線」の「輪厚ゴルフ場経由」に乗り「竹山」降車。約600メートル、徒歩8分。北広島駅と福住駅はいずれも始発・終点
末尾に「Moonchild」の元ネタ? をあげておきます。
英国のアルバムチャートであのビートルズの「アビーロード」を抜いて1位になったことで話題を呼んだロックバンド King Crimson(キング・クリムゾン)のデビューアルバム「In The Court of Crimson King」(1969年)の収録曲です。
抒情性と前衛的な即興性とを両立させた不思議な曲です。
ちなみに King Crimson はメンバーを入れ替えて活動続行中です。
King Crimson - Moonchild (Including "The Dream" And "The Illusion")
あと、これはネタです。
坂本冬美 - また君に恋してる
もう一本。ぜんぜん関係ないです。
「ねこの森には帰れない」 谷山浩子 歌詞付き
今春には1年間の期限つきながら突然礼文島に転居して周囲を驚かせました。
個人的には絵画やポップな立体造形のイメージが強い白濱さんが木彫だけの個展を開くのは意外な感じがしました。
ただし、札幌国際芸術祭(SIAF2017)の関連プロジェクトではクマのお面のような木彫を発表していますし、本郷新記念札幌彫刻美術館を借りて自ら道外の作家に声をかけて開いた好企画「Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で 」でも円空仏を想起させる木の彫刻を出品しています。
案外、白濱さんにとっては、昔からなじみの技法なのかもしれません。こういう作風の彫刻家は、ちょっと思い当たらないですが。
作者は、細長い形から、ジャコメッティに似ているのではないかと心配していましたが、重なる要素はほとんどないのではと思います。あるいは、西洋の古典建築にみられるカリアティード(柱が人物彫刻になっている)にも似ているかもしれませんが、やはり違うようです。
その細長いものは「柱人シリーズ」で、そのほか「ヒトミマンシリーズ」があり、それぞれ数点並んでいました。
画像は柱人シリーズの「Moonchild」。
白濱さんのもとには、古材や廃材をくれる人がいて通常はまきストーブで燃やしているそうです。
ほぞが刻んであったりする角材の形がおもしろいと感じ、それを生かしながら人の形に刻み、アルキド樹脂絵の具により着色をほどこしています。
この絵の具は「不透明でつやがなく、木へのノリも良い」とのこと。
あまり他の作家がしないであろう、さまざまなことを試みているようです。
全体を着彩したり削ったりするのではなく、一部の表面はまったく手を入れずにそのまま残していること。
削らない部分に着彩したり、彫り込んだ部分に着彩したりしていること。
直接色を塗った部分もあれば、輪郭や地にあたる部分をつくってからさらにそこに模様などを描き入れている部分もあるなど、絵柄の作り方にも違いがあること。
…などです。
そもそも、彫刻なのか、あるいは支持体が不定形な絵画なのか、どちらとも解釈できる作品だともいえます。
それにしてもこの人、青ざめた顔をして頭を抱えているようで、なにか悩みでもあるのでしょうか。
「ヒトミマンシリーズ」の「大切なもの」。
ちなみに「瞳マン」ではなく「ヒト未満」です。
節の部分を生かして色をつけており、どこか宇宙人を思わせます。
ただし、シリーズの他の作品は、スーツを着ているなどもっと人間っぽい仕上がりです。顔の描き方などあえて素朴派ふうにしているのか、技巧的な人形めいたところはありません。
大切なものなのに大事に扱われず、使い捨てにされていく廃材に、作者は、あちこちの現場で働く人たちの姿を重ねたそうです。
個展のタイトルは、せめて廃材を森にかえしてあげたい―という思いから、最初は、森に帰りたい―といったものを考えていたそうです。
ジャン=ジャック・ルソーが言ったとされる「自然に帰れ」の掛け声とともに18世紀末から19世紀前半の欧洲にロマン主義の潮流が文芸や音楽、美術などに幅広く起こりました。その思潮は明治の日本にも流入しました。
文芸思潮としてのロマン派は過去のものになりました。ただし、わたしたちがネイチャーフォトやアースワークなどに接するとき、あるいはアウトドアを目指すとき、どこかにロマンを求める心がひそんでいるのではないかと思います。
しかし「自然に帰れ」というキャッチフレーズ自体、すでに自分たちが自然の側にはいないということを示しているのではないでしょうか。
わたしたちの暮らしはどんどん人工化が進んでいます。ヘンリー・ソローのように湖畔に小屋を建てて自給自足の生活を夢見ようとしても、エアコンディショナーなしでは生きていけない人が多そうです。
オール・オア・ナッシングで「自然か人工か」と二者択一を迫るのも好きではないのですが、とはいえ、もう森や自然には帰ることのできないひ弱な現代人になってしまったなあと、筆者は自らを省みて思うのです。白濱さんは、筆者なんぞよりはまだしも、森に近い位置で生きているような感じがしますが。
2024年9月9日(月)~11日(水)、16日(月)~18日(水)午前10時半~午後3時半
黒い森美術館(北広島市富ケ岡09-22)
□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□動画作品サイト「北舟公開」 https://arkvoyage.art
□美術作家 白濱雅也の関心事 https://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□ツイッター(X) @shirahamamasaya
過去の関連記事へのリンク
【告知】かつて、ここには (2022年5月1~8日、十勝管内豊頃町)
■フィギュールの森 2022 北翔大学北方圏学術情報センター プロジェクト研究美術グループ成果報告作品展 (3月)
ネタバレ注意 白濱雅也「Star & Gold(スターとゴールド どうしていいかわからない)」
■白濱雅也「スターとゴールド」(2021)
■竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」 (2020)
真鍋庭園にあった白濱雅也「FREE ME」
■ こころのにわ (2019)
■Retro Machinism_暖かな機械 (2019)
■Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で (2019)
■(4)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」―最終日に行った会場のこと
(2017)
■裏物語 ヘンゼルとグレーテル ー帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
■「北風太陽神」ー防風林アートプロジェクト
・JR北広島駅あるいは地下鉄東豊線福住駅から中央バス「広島線」の「輪厚ゴルフ場経由」に乗り「竹山」降車。約600メートル、徒歩8分。北広島駅と福住駅はいずれも始発・終点
末尾に「Moonchild」の元ネタ? をあげておきます。
英国のアルバムチャートであのビートルズの「アビーロード」を抜いて1位になったことで話題を呼んだロックバンド King Crimson(キング・クリムゾン)のデビューアルバム「In The Court of Crimson King」(1969年)の収録曲です。
抒情性と前衛的な即興性とを両立させた不思議な曲です。
ちなみに King Crimson はメンバーを入れ替えて活動続行中です。
King Crimson - Moonchild (Including "The Dream" And "The Illusion")
あと、これはネタです。
坂本冬美 - また君に恋してる
もう一本。ぜんぜん関係ないです。
「ねこの森には帰れない」 谷山浩子 歌詞付き