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ネタバレ注意 白濱雅也「Star & Gold(スターとゴールド どうしていいかわからない)」

2021年07月30日 09時09分09秒 | つれづれ読書録
 札幌のTO OV cafe / gallery(ト・オン・カフェ)
で8月1日まで開かれている白濱雅也さんの原画展で、「Star & Gold(スターとゴールド どうしていいかわからない)」を買って読んでみました。
 分類すると「絵本」ということになるのでしょうが、物語の展開は、ふつう想像される冒険譚を鮮やかに裏切っています。

 飼い慣らされて外の世界を知らない牛が2頭、牧場から脱出する―。
 それ自体はありそうな舞台設定です。
 こういう物語ではよく、自由の尊さが強調されます。
 ところが、2頭のうち1頭は
「お腹がすくのもいやだし、どうしたらいいのかわからないのもいやだもん」
といって牧場へ帰ってしまうのです。
 そもそも自由とは何なのかを考えさせる筋書きです。
「どうしていいかわからない」といういいまわしは、自由を勝ち取ったはずの人間がわざわざ拘束的な状況に自らを追い込む現代を、鋭く照らしだしているようです。

 スターのほうは海を渡り森を抜けて
「僕はなぜ南に行きたいんだろう」
と、メタ的な自問を織り交ぜながら進みます。
 ところが、冒険物語自体は大団円を迎えません。
「この気持ちはどこへ行くんだろう」
という問いをきっかけに物語は、気持ちの行方のほうへと急にカーブしていき、ほどなくして最終ページに至るのです。

 ほとんどの物語にはそれにふさわしい結末が用意されています。
 結婚や失恋だったり、陸地の果てへの到達だったり、死だったり。
 しかし、それは整序された物語だからそういうふうになっているだけであって、私たちの実人生は、そんなにドラマチックに分かりやすい終幕がやって来るわけではないでしょう。
 幕が降りた後にも人生は続いてゆくし(The show must go on!)、一方で、大団円になる前にたいていの人生は終わります。
 筆者は森鷗外の史伝「渋江抽斎」を想起します。あれも、主人公は途中で世を去っても、夫を亡くした妻の人生は続いていく話でした。
 スターがこれからどうなっていくのかわからない。元いた牧場に帰らないことはおそらく間違いないでしょう。しかし、自分の人生の完結を見届けることは誰にもできません。
「いつも死ぬのは他人」
 現代アートの鼻祖たるマルセル・デュシャンが気に入っていた言葉だと、どこかで読んだ覚えがあります。

 ただ
「あそこへ行ってみたい」
という遠いあこがれは、次の世代へと引き継がれていくのでしょう。

 月並みな言葉になってしまいますが、実にいろいろなことを考えさせられる本なのでした。


スターとゴールド予告編take2


スターとゴールド トーク



□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□動画作品サイト「北舟公開」 https://arkvoyage.art

□美術作家 白濱雅也の関心事 https://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□ツイッター @shirahamamasaya


過去の関連記事へのリンク
白濱雅也「スターとゴールド」(2021年7月20日~8月1日、札幌) 7月22、23日(10)

【告知】白濱雅也「スターとゴールド」(2021年4月24日~5月9日帯広、5月13日~6月21日根室市厚床、7月20日~8月1日札幌)

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