(承前)
※追記。緊急事態宣言に伴い、会期を繰り上げ8月26日で終了となるそうです。29日に配信を計画中とのこと。詳しくは公式ツイッターなどをチェックしてください。
前項で書いたとおり、2階は「北の個体群」と題した展示です。
サイトには、川村喜一、小林大祐、川村芽惟、加賀田直子の4人がクレジットされています。
「知床をフィールドに活動を行う表現者による作品展示をおこないます。写真、音、テキスト、編み物など、異なるメディアが互いを越え出て交錯し、響き合う空間を創出します。」
とあります。
広い部屋の中にはさまざまな作品が配置されていますが、それぞれの題や作者は全く記されておらず、あくまで4人(というか、作家以外のメンバーも含めて)の共同作業ということで、インスタレーションとも呼びにくいです。
ちなみに加賀田さんは1997年鳥取県生まれ。東京芸大音楽学部を卒業して、現在は北大の大学院で文化人類学を学んでいます。
文化人類学のフィールドワークの対象は斜里町の猟師であるため、斜里在住ではないのですが、しばしば来訪しているそうです。
筆者が会場を訪れた際には1階のおもいでうろうろプロジェクトで、受付の席にいて、レコードをかけてくれました。
川村喜一さんは東京藝大の大学院を終えて斜里に移住し、写真集「UPASKUMA アイヌ犬・ウパシと知床の暮らし」をすでに上梓しています。
芽惟さんは東京藝大の先端芸術表現科卒業。
小林さんは札幌生まれ、東京都在住、早大大学院で建築を学んだそうです。
会場中央の天井に数百個のねじを打ち込み、細い糸でつるした白い布の作品は、斜里のシンボルともいえる斜里岳を立体化したもの。
上品な女性服などに使われる薄いオーガンジーという布が用いられており、稜線や谷間などが克明に再現された労作です。
さて、個人的には、この大がかりな展示の特徴として
・元々あった建物や什器
・元々壁に掛かっていた絵・美術品
・新たに設置したモノ
の3種類の物が分かちがたく層を成していることをまず挙げておきたいと思います。
建物自体の有する魅力と記憶については、すでに読者の方も感じておられるでしょうが、この部屋には図書館時代から展示されていた絵がそのままになっているのです(よく考えるといささかさびしい話ではありますが)。
部屋の奥には、大量の牧草が運び込まれています。手前の仕切りは、元からあったもので、そこに大きくプリントしたアイヌ犬や日蝕などの写真が貼り付けられています。
搬入や搬出の苦労を思うだけで疲れてきそうですが(苦笑)、中央に、暗い森の中に立つ裸婦や動物を配した幻想的な油彩の大作が掛かっていました。
ここで申しわけありませんが、ちょっと自慢モードになります。
作者や題を記したパネルがなく、誰の絵か分からないという実行委の方のお話でしたが、サインと画風から判明しました。
おそらく、二科展と全道展の会友だった熊谷邦子さんの絵です。
夫君も画家で、二科展と全道展の会員の熊谷善正さん(1918~87)です。お二人は室蘭で絵筆を執りましたが、善正さんが亡くなった後、邦子さんは札幌に移っているようです。
検索すると「二科61号」(pdf です)がヒットし、2011年11月に86歳で亡くなられた旨の訃報が掲載されています。
それによると、二科では60周年記念賞、61回展では「パリ賞」を受けておられるとのこと。
いかにも二科展らしい賞ですが、これをもらった熊谷邦子さん、賞金でパリへ行ってきたのかしら?
■第10回 二科(絵画)北海道支部展 (2010)の記事に、小さいですが熊谷邦子さんの作品画像が載っています。
ほかにも何点か絵が掛けてありましたが、筆者が知っている画家はいませんでした。
反対側のボイラーには、川原田悠子さんという方の「オホーツクの漁港」が掛かっています。オーカー系が主体の風景画です。
川原田さんは網走在住で、2002年にオホーツク美術協会の会員に推挙。全道展にも入選していました。
網走では「草創会」というサークルで活動していました。
北側の壁には、森亨「野生の頃 part2」という30号ぐらいの絵が掛けてあります。
狩猟のアイヌ男性2人を、冬眠からそろそろさめようとしているクマの視点で穴の奥から見た、ユニークな構図の絵です。
森さんは斜里町内の方だそうです。
ほかにも、江尻白鳥「斜里岳」など、穏やかな写実の風景画が3点ほど並んでいました。
思わず絵の話が長くなってしまいましたが、主役はやはり、4人が並べている写真などの作品です。
動物の頭骨にテキストを印字したものもあれば、毛皮が詰め込まれているリュックサックも置かれていました。
知床ほど野生の生物と人間の距離が近いところは日本にはほとんどありません。
ボーッとしていると(あるいは都会の感覚で漫然と歩いていると)、正しい距離感が取れなくなります。
写真プリントは山の中で撮ったものが多く、地衣類を真上から撮影したプリントもありました。
知床が北の果てであることを、あらためて感じさせます。
1枚ずつクリアファイルに挟められ、積んでありました。
テキストも、いろいろなスタイルで印字されていましたが、漢字の多くて硬い文章が多い上、タイトルがほとんど記されていないので、読むのに難儀しました(題がないと、当該文章がどこから始まってどこまで続くのかわからない)。こういう場でのテキストの発表は難しい要因がありますね。
最後の画像にある猫の刺繍は、斜里町内で6~7月に開かれていた「■DOTO Landscape ~7人の作家たちの道東」では「飛び越えるとき」という題で発表されていた川村芽惟さんの作品です。
2021年8月14日(土)~29日(日)午前10時~午後5時、会期中無休
斜里町旧役場庁舎=旧図書館(斜里町本町42-1)
入場無料
□公式サイト https://ashigei-art-fes.studio.site/
□twitter @ashigei_fes
□Instagram ashigei_fes
□フェイスブック https://www.facebook.com/ashigei.fes/
・JR知床斜里駅、斜里バスターミナルから約520メートル、徒歩7分
・「北のアルプ美術館」から約1.2キロ、徒歩16分
・町立知床博物館から約1キロ、徒歩14分
※追記。緊急事態宣言に伴い、会期を繰り上げ8月26日で終了となるそうです。29日に配信を計画中とのこと。詳しくは公式ツイッターなどをチェックしてください。
前項で書いたとおり、2階は「北の個体群」と題した展示です。
サイトには、川村喜一、小林大祐、川村芽惟、加賀田直子の4人がクレジットされています。
「知床をフィールドに活動を行う表現者による作品展示をおこないます。写真、音、テキスト、編み物など、異なるメディアが互いを越え出て交錯し、響き合う空間を創出します。」
とあります。
広い部屋の中にはさまざまな作品が配置されていますが、それぞれの題や作者は全く記されておらず、あくまで4人(というか、作家以外のメンバーも含めて)の共同作業ということで、インスタレーションとも呼びにくいです。
ちなみに加賀田さんは1997年鳥取県生まれ。東京芸大音楽学部を卒業して、現在は北大の大学院で文化人類学を学んでいます。
文化人類学のフィールドワークの対象は斜里町の猟師であるため、斜里在住ではないのですが、しばしば来訪しているそうです。
筆者が会場を訪れた際には1階のおもいでうろうろプロジェクトで、受付の席にいて、レコードをかけてくれました。
川村喜一さんは東京藝大の大学院を終えて斜里に移住し、写真集「UPASKUMA アイヌ犬・ウパシと知床の暮らし」をすでに上梓しています。
芽惟さんは東京藝大の先端芸術表現科卒業。
小林さんは札幌生まれ、東京都在住、早大大学院で建築を学んだそうです。
会場中央の天井に数百個のねじを打ち込み、細い糸でつるした白い布の作品は、斜里のシンボルともいえる斜里岳を立体化したもの。
上品な女性服などに使われる薄いオーガンジーという布が用いられており、稜線や谷間などが克明に再現された労作です。
さて、個人的には、この大がかりな展示の特徴として
・元々あった建物や什器
・元々壁に掛かっていた絵・美術品
・新たに設置したモノ
の3種類の物が分かちがたく層を成していることをまず挙げておきたいと思います。
建物自体の有する魅力と記憶については、すでに読者の方も感じておられるでしょうが、この部屋には図書館時代から展示されていた絵がそのままになっているのです(よく考えるといささかさびしい話ではありますが)。
部屋の奥には、大量の牧草が運び込まれています。手前の仕切りは、元からあったもので、そこに大きくプリントしたアイヌ犬や日蝕などの写真が貼り付けられています。
搬入や搬出の苦労を思うだけで疲れてきそうですが(苦笑)、中央に、暗い森の中に立つ裸婦や動物を配した幻想的な油彩の大作が掛かっていました。
ここで申しわけありませんが、ちょっと自慢モードになります。
作者や題を記したパネルがなく、誰の絵か分からないという実行委の方のお話でしたが、サインと画風から判明しました。
おそらく、二科展と全道展の会友だった熊谷邦子さんの絵です。
夫君も画家で、二科展と全道展の会員の熊谷善正さん(1918~87)です。お二人は室蘭で絵筆を執りましたが、善正さんが亡くなった後、邦子さんは札幌に移っているようです。
検索すると「二科61号」(pdf です)がヒットし、2011年11月に86歳で亡くなられた旨の訃報が掲載されています。
それによると、二科では60周年記念賞、61回展では「パリ賞」を受けておられるとのこと。
いかにも二科展らしい賞ですが、これをもらった熊谷邦子さん、賞金でパリへ行ってきたのかしら?
■第10回 二科(絵画)北海道支部展 (2010)の記事に、小さいですが熊谷邦子さんの作品画像が載っています。
ほかにも何点か絵が掛けてありましたが、筆者が知っている画家はいませんでした。
反対側のボイラーには、川原田悠子さんという方の「オホーツクの漁港」が掛かっています。オーカー系が主体の風景画です。
川原田さんは網走在住で、2002年にオホーツク美術協会の会員に推挙。全道展にも入選していました。
網走では「草創会」というサークルで活動していました。
北側の壁には、森亨「野生の頃 part2」という30号ぐらいの絵が掛けてあります。
狩猟のアイヌ男性2人を、冬眠からそろそろさめようとしているクマの視点で穴の奥から見た、ユニークな構図の絵です。
森さんは斜里町内の方だそうです。
ほかにも、江尻白鳥「斜里岳」など、穏やかな写実の風景画が3点ほど並んでいました。
思わず絵の話が長くなってしまいましたが、主役はやはり、4人が並べている写真などの作品です。
動物の頭骨にテキストを印字したものもあれば、毛皮が詰め込まれているリュックサックも置かれていました。
知床ほど野生の生物と人間の距離が近いところは日本にはほとんどありません。
ボーッとしていると(あるいは都会の感覚で漫然と歩いていると)、正しい距離感が取れなくなります。
写真プリントは山の中で撮ったものが多く、地衣類を真上から撮影したプリントもありました。
知床が北の果てであることを、あらためて感じさせます。
1枚ずつクリアファイルに挟められ、積んでありました。
テキストも、いろいろなスタイルで印字されていましたが、漢字の多くて硬い文章が多い上、タイトルがほとんど記されていないので、読むのに難儀しました(題がないと、当該文章がどこから始まってどこまで続くのかわからない)。こういう場でのテキストの発表は難しい要因がありますね。
最後の画像にある猫の刺繍は、斜里町内で6~7月に開かれていた「■DOTO Landscape ~7人の作家たちの道東」では「飛び越えるとき」という題で発表されていた川村芽惟さんの作品です。
2021年8月14日(土)~29日(日)午前10時~午後5時、会期中無休
斜里町旧役場庁舎=旧図書館(斜里町本町42-1)
入場無料
□公式サイト https://ashigei-art-fes.studio.site/
□twitter @ashigei_fes
□Instagram ashigei_fes
□フェイスブック https://www.facebook.com/ashigei.fes/
・JR知床斜里駅、斜里バスターミナルから約520メートル、徒歩7分
・「北のアルプ美術館」から約1.2キロ、徒歩16分
・町立知床博物館から約1キロ、徒歩14分
(この項続く)