(承前)
4. もうひとつの問題
ところで、前項で「全37点と銘打っている」と書きました。
これでピンときた方は、かなりフェルメールに詳しい方でしょう。
実際、いろいろな作が展示されています。
左は「絵画芸術」。
左のカーテンの質感は見ごたえありです。
右は「天文学者」。ルーブルの所蔵品。
ところで、この「光の王国展」、じつは2012年末から13年初頭に、旭川の西武でも開かれています(参考→ http://www.liner.jp/event/4899/ )。
当時のサイトを見ると「「全35点のリ・クリエイト作品を展示します。」とあります。
あれ? 2点増えている!?
実は「光の王国展」にあるのは、すべてがフェルメールの作品かどうか、専門家の間でも決着がついていないのです。
たとえば「レースを編む女」(左)については、真作かどうかの議論はありません。
しかし、冒頭に掲げた画像の「赤い帽子の女」、そのとなりの「フルートを持つ女」については、他の作品がキャンバスに描かれているのに、この2点のみ板に描かれていることや、画風がやや異なるように見えることから、「フェルメール作ではない」という意見が根強くあります。とくに「フルートを持つ女」は、「赤い帽子の女」に比べても質が劣ります。修正の筆跡もあるとのことです。
(追記。複製で見ても「なんか、ほかの作品にあるような気品が感じられないな~」「モデルの女性のタイプがぜんぜん違うな~」という印象を持つ人は多いと思います)
このほか、初期の「ディアナとニンフたち」にも異論を唱える専門家もいます。
2番目に展示されていた「聖女プラクセデス」は、会場の資料には「個人蔵」となっていますが、じつは東京・上野の国立西洋美術館に寄託されており、常時日本で見られる唯一のフェルメール作品となっています。
(この作品については、有名ブログ「弐代目 青い日記帳」に詳しいです)
ただ、これについても、疑義を唱える専門家は多いとのこと。真作説を採る人は、別の作家をフェルメールが模写したと考えているようですが。
いちばんあやしいといわれているのは、次の画像の右端、「ヴァージナルの前に座る若い女」。
20世紀初頭よりも前には来歴がさかのぼれないことなどもあって、これを真作とみる専門家は少ないようです。
おそらく「ヴァージナルの前に座る若い女」「聖女プラクセデス」が、比較的新しくフェルメール作だとみなされたので、新たに「光の王国展」の中に加わったのだと思います。
筆者は、見解の分かれる絵、疑わしい絵を展示したことを批判しているのではありません。
あれだけ絵の具や、当時のデルフト、フェルメールの師匠と思われる画家などを詳しくパネルで紹介しているのに、真作かどうか議論があることには一切ふれていないのは、いかがなものでしょうと言っているのです。
贋作の疑いがあるからといって、「光の王国展」からは排除すべきではありません。
ただ、ひとこと断ってほしかった。音声ガイドではふれていたのでしょうか。
(追記 音声ガイドでは少し言及していたとのことです)
※参考文献 朽木ゆり子「フェルメール全店踏破の旅」(集英社新書)
小林頼子「フェルメールの世界」(NHKブックス)
5.まとめ
フェルメールともなると、本物は近くまで寄れなかったり、ものすごい人ごみだったり、見る側も緊張して平常心ではいられなかったり、なかなかすんなりとは鑑賞できません。
こういう複製画のほうが、むしろ気楽に見られていいのかもしれません。
6.おまけ
なお、筆者が実物を見たことがあるのは「マルタとマリアの家のキリスト」「ディアナとニンフたち」「小路」「ワイングラスを持つ娘」「リュートを調弦する女」「ヴァージナルの前に座る若い女」「手紙を書く婦人と召使」「天文学者」「真珠の首飾りの少女」「レースを編む女」「絵画芸術」の11点。
2015年12月4日(金)~16年1月3日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 エスタ11階)=ビックカメラのいちばん上
一般800円、中高大生500円、小学生以下無料
□公式サイト http://msbrain.net/vermeer/
4. もうひとつの問題
ところで、前項で「全37点と銘打っている」と書きました。
これでピンときた方は、かなりフェルメールに詳しい方でしょう。
実際、いろいろな作が展示されています。
左は「絵画芸術」。
左のカーテンの質感は見ごたえありです。
右は「天文学者」。ルーブルの所蔵品。
ところで、この「光の王国展」、じつは2012年末から13年初頭に、旭川の西武でも開かれています(参考→ http://www.liner.jp/event/4899/ )。
当時のサイトを見ると「「全35点のリ・クリエイト作品を展示します。」とあります。
あれ? 2点増えている!?
実は「光の王国展」にあるのは、すべてがフェルメールの作品かどうか、専門家の間でも決着がついていないのです。
たとえば「レースを編む女」(左)については、真作かどうかの議論はありません。
しかし、冒頭に掲げた画像の「赤い帽子の女」、そのとなりの「フルートを持つ女」については、他の作品がキャンバスに描かれているのに、この2点のみ板に描かれていることや、画風がやや異なるように見えることから、「フェルメール作ではない」という意見が根強くあります。とくに「フルートを持つ女」は、「赤い帽子の女」に比べても質が劣ります。修正の筆跡もあるとのことです。
(追記。複製で見ても「なんか、ほかの作品にあるような気品が感じられないな~」「モデルの女性のタイプがぜんぜん違うな~」という印象を持つ人は多いと思います)
このほか、初期の「ディアナとニンフたち」にも異論を唱える専門家もいます。
2番目に展示されていた「聖女プラクセデス」は、会場の資料には「個人蔵」となっていますが、じつは東京・上野の国立西洋美術館に寄託されており、常時日本で見られる唯一のフェルメール作品となっています。
(この作品については、有名ブログ「弐代目 青い日記帳」に詳しいです)
ただ、これについても、疑義を唱える専門家は多いとのこと。真作説を採る人は、別の作家をフェルメールが模写したと考えているようですが。
いちばんあやしいといわれているのは、次の画像の右端、「ヴァージナルの前に座る若い女」。
20世紀初頭よりも前には来歴がさかのぼれないことなどもあって、これを真作とみる専門家は少ないようです。
おそらく「ヴァージナルの前に座る若い女」「聖女プラクセデス」が、比較的新しくフェルメール作だとみなされたので、新たに「光の王国展」の中に加わったのだと思います。
筆者は、見解の分かれる絵、疑わしい絵を展示したことを批判しているのではありません。
あれだけ絵の具や、当時のデルフト、フェルメールの師匠と思われる画家などを詳しくパネルで紹介しているのに、真作かどうか議論があることには一切ふれていないのは、いかがなものでしょうと言っているのです。
贋作の疑いがあるからといって、「光の王国展」からは排除すべきではありません。
ただ、ひとこと断ってほしかった。音声ガイドではふれていたのでしょうか。
(追記 音声ガイドでは少し言及していたとのことです)
※参考文献 朽木ゆり子「フェルメール全店踏破の旅」(集英社新書)
小林頼子「フェルメールの世界」(NHKブックス)
5.まとめ
フェルメールともなると、本物は近くまで寄れなかったり、ものすごい人ごみだったり、見る側も緊張して平常心ではいられなかったり、なかなかすんなりとは鑑賞できません。
こういう複製画のほうが、むしろ気楽に見られていいのかもしれません。
6.おまけ
なお、筆者が実物を見たことがあるのは「マルタとマリアの家のキリスト」「ディアナとニンフたち」「小路」「ワイングラスを持つ娘」「リュートを調弦する女」「ヴァージナルの前に座る若い女」「手紙を書く婦人と召使」「天文学者」「真珠の首飾りの少女」「レースを編む女」「絵画芸術」の11点。
2015年12月4日(金)~16年1月3日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 エスタ11階)=ビックカメラのいちばん上
一般800円、中高大生500円、小学生以下無料
□公式サイト http://msbrain.net/vermeer/
素人のために、ありがたい掘り下げ方です。
言われてみると、「サイズが本物と同じ」というのは重要ですね。
確かに、実物を見て「こんなに大きいの?」とか「小さい!」と思うことは多いですからね。
それから、表層的な色ではなくて、角度を変えて重層的に見ると色が違うというのも、なるほどでした。
しかし、フェルメールを11点も見ていらっしゃるとは驚きです。
日本に過去に何点来ていたのでしょうかね?
最後になりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
じつは、この前の記事は、SHさんの意見を若干踏まえたところがありまして…。
「タッチ(筆触)」は、かなり再現できていると思うんですよね。ただ、絵の具の重なり具合だけは、明示的なものではないだけに、どうすることもできない。
このことは、あまりものの本には書いてないので、私のような部外者にはよくわからない。画家の間の口伝のようなものではないかと邪推します。
ただ、たとえば新道展の今荘さんや工藤さん、香取さんなどの絵を見ると「すげー」と思うのは、たぶんそこではないかと。
「フェルメール」は2008年の東京都美術館に7点来ていましたので、そこで見たのが多いです。あと、ルーブルで2点見ました。
私は絵の具の盛り上がりも含めて「タッチ」と言ってしまっているので、そりゃ間違えているのかしら…。
日本で同時に7点も見ることができ他とは、知りませんでした。