ふと、懐かしい記憶が自分を訪ねます
一緒に流れている人生で出会った忘れがたい記憶への憧れ。
形のない大切な繫がりを求めて、
生きていく不思議を表現することができればと思います。
八重樫眞一さんの小品展の会場に掲げられてあったパネルの文章から一節を書き写した。
この短い文からも分かるように、八重樫さんの絵画の鍵は「記憶」だと思う。
あえて分類すれば、風景画になるだろうか。
しかし八重樫さんの絵は、実際の風景をそのまま写生したものではない。
かといって、シュルレアリスム絵画のように奇抜さを前面に出したものでもなければ、印象派のようにタッチに重きを置いて空気感を表現したものでもない。
記憶のなかの風景があいまいな像をしか結ばないように、八重樫さんの絵もどこか不分明で、記憶のなかのようだ。
今回の個展は、これまでの個展で発表したものと新作あわせて13点の油彩を展示している。
冒頭画像の右側は「彼方の空より」(2013)、中央は「川面を行く」(2018)。
左側は「青の肖像」。
続いて、右側は、今個展の副題にもなっている「透音譜 ―ハンゴンソウの森へ―」。
透音譜というのは造語。ハンゴンソウが咲き乱れていた後志管内ニセコ町をかつて訪れたときの記憶がテーマになっているという。
もっとも、画面を見ても、右手前の草地にその花が咲いているのかなと思える程度で、全体には、空想上の廃墟のような建物や階段の存在感が際立つ。
そのとなりは「銀河ステーション」。
八重樫さんの大作で多い、交叉点の角に視座を置いて、両側の道路を奥まで見渡している構図だ。
もっとも、単純かつ正確なパースを描いていたら、建物の正面がこんなにはっきりと見える絵にはならないのではないかと思う。
そして、八重樫さんの絵の、もうひとつの隠されたテーマは「水」ではないかと思った。
「ゆき ふる」という縦構図の作品は、高く暗い木と木のあいだにある家、その手前の階段が題材。階段を下りた先にあるのは、明瞭には描かれていないが、堤防下の川だろう。
あるいは「二月の水辺」。
道産子からすると、2月の川べり(頭首工のような塔があるので、おそらく川岸だろう)が緑なしていること自体、ふしぎな作品である。
八重樫さんの大作でも、おつゆがきのような手法で、白い絵の具が雨や水しぶきを表現しているように見えることが少なくない。
雨が降っていないときは、雪や川が画面に登場している。
この川は発寒川や新川がモチーフのもとになっているのではないかと邪推する。
特定の場所と日時を描くのではなく、あいまいな景色を描くことで、八重樫さんの絵画世界は、いろいろな人のところに届くものになっているのではないかと思うのだ。
他の作品は
「遠く、近く」「呼ぶ声」「九月の庭」「昨日の地図」「風の駅」。
八重樫さんは道展会員。
小樽のグループ展「Wave」のメンバーでもある。
2018年3月5日(月)~24日(土)午前11時~午後8時(土曜は正午~午後5時)、日曜休み
喫茶いまぁじゆ(中央区北1西18)
□喫茶いまぁじゆ ままりんのブログ https://ameblo.jp/imaajiyu/
□喫茶いまぁじゆのツイッター @imaajiyu
関連記事へのリンク
■Wave 13人展 (2016)
■第81回道展 第51回北見移動展 (2012)
■八重樫眞一個展 (2008)
■八重樫眞一個展(2001)
=以上画像なし
・地下鉄東西線「西18丁目」から約360メートル、徒歩5分
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※手稲、小樽方面に行くすべてのバスが止まります。小樽、岩内方面行きの都市間高速バスも全便が止まります
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