(承前)
昨年秋、70歳で急逝した、岩見沢と札幌を拠点に活動していた美術家の林教司さんは、1998年以来、北海道抽象派作家協会の同人でもあった。
会場で配られている図録を開くと、その喪失感の大きさが伝わってくる。
同人の三浦恭三さん(小樽)によると、会場で遺作を見て初めて、彼の早すぎる死を知り驚く人も少なくないという。
道内の美術界にとってはそれなりに大きな話だったと思うのだが、新聞には出なかったし。
今回は、同人12人のうち佐々木美枝子さん(札幌)と鈴木悠高さん(同)が出品していない。昨年に続き2年連続の欠席である。佐々木さんは「作品A」「作品B」「作品C」と、図録に題も記されている。
推薦作家は2人で、昨年を下回って史上最少を更新。會田千夏さん(同)と田中郁子さん(日高管内浦河町)。
その會田さんと、同人の宇流奈未さん(札幌)、三浦さん、後藤和司さん(同)が、図録に彼の死を悼む短い文を寄せている。
ベテラン同人にとっては仲間であり、會田さんや宇流さんにとっては励ましてくれる優しい先輩であったようで、読んでいるこちらも粛然とする。
林さんの遺作「種子」。
もっとも、インスタレーションなので、このとおりの構成の作品を彼が生前に構想していたとは思えない。
題字のところに「2018」と制作年が記されていた。
今回の会場でいちばん心に沁みた。
林さんは亡くなっても、作品は現在進行形であるということなのかもしれない。
ほかに、「無題」と、題が付されていない小品が2点(図録に印刷されているものとは異なる)。
林さんの葬儀のようすはこちら、死亡記事はこちらを、ぞれぞれご覧ください。
林さんの過去の展示へのリンクは、後者の記事を参照願います。
宇流さんの作品「未知」。180×450、墨・水彩。
屏風のように自立している。
図録には
「林さんがとても好きだと言ってくれた作品『未知』を追悼の意を込めて展示したい」
とある。
背景が白く抜いてあるところは日本画・水墨画を思わせるし、同時に宇宙的・SF的な広がりを感じさせる。
左は田中季里さん(千歳)「たたずむ」(アクリル、色鉛筆。180×70)。
小さな作品を数多く壁面で組み合わせるのは、近年の田中さんの特徴である。
右は後藤和司さん「軌跡 '18-3」(ミクストメディア、S20×9)。
図録には「軌跡」とだけ記されている。
昨年夏の個展で、さまざまな画風を試みていたが、そのうちのひとつで、色の重ね具合の豊かさと、薄いグレーを基調としたまとめ方のうまさはさすが。
図録には「奏」(S8×4)とあったが、こちらは3点しか展示されていない。
三浦恭三さんは、油彩のF60が3点。
「連立 I」「連立 II」「連立 III」。
円や曲線、斜めの直線を、寒色で軽快にまとめる熟練の技。
図録には記されていないが、このほか、題のない小品が数点展示されていた。
手前は田村純也さん(苫小牧)のインスタレーション「城」。
壁面左手は、佐々木さんとともに、協会創設時のメンバーである今荘義男さんの「古里」。
近年多いスタイルである、三つの部分を横につなげたもの。
ほかに小品「古里」が2点。
右手は名畑美由紀さん(札幌)のF100油彩。「蒼」と「桃」。
推薦作家の田中郁子さん「No.52 phase」。
S50×3、ミクストメディアと図録にある。
流れるようなダイナミックな構図と、絵の具の重なり具合のおもしろさは、抽象絵画の醍醐味だと思う。
このほか「ツユノツキ」「ハルノヒ」。
カメラが不調で、画像がない作品があります。ごめんなさい。
冒頭画像、左側の壁面のいちばん奥が、會田千夏さん「KATARIJIMA 2018.4.16」。
油彩、200×300。
数字の「4」にも見える亀裂のような線と、淡い色の濃淡。
ほとばしる思いを、静かに封じ込めているようにも感じられる。
「KATARIJIMA」というタイトルで制作したのはおよそ10年ぶりのことらしい。
図録には、最後に林さんと会ったとき「あなたのkatari-jimaは好きだったなあ」とつぶやいたことが、制作のきっかけになったという意味のことが書いてあった。
その手前、青い3点が、小川豊さん(小樽)「心のひだ」。F100の油彩。
図録にはF100、2点とあるが、どう見ても1点多い。
しかもこれ以外に小品が6点、展示されている。
青の半円形のようなものをひたすら描き足していく手法は変わらないが、ところどころに異なる系統の色が差し挟まれており、変化がうかがえた。
左から3、4点目は宮部美紀さん(石狩)の水彩F60「流れる」。
この向かい側の壁には近宮彦彌さん(旭川)の作品があった。
図録には「シリーズI 風」「シリーズII 風」「シリーズIII 風」とあり、いずれもアクリル、F30とある。
それ以外にも、題のないF30が1点、小品が2点展示されていた。
筆者はまったく違和感なく見ていたが、彦宮さんは2011年に退会しており、久しぶりの復帰である。そのあたりの事情は今荘さんから聞いたが、ここには記さない。ただ、創作上の意見対立などではなかったとのことで、まずは復帰を歓迎したいと思う。
人事の話を書き添えれば、2016年に同人になったばかりで、精力的に制作を続けている丸藤真智子さん(札幌)が退会している。
2018年4月17日(火)~22日(日)午前10時~午後5時(初日午後1時~、最終日~4時)
札幌市民ギャラリー (中央区南2東6)
関連記事へのリンク
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
【告知】第42回北海道抽象派作家協会展 (2015)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
・2011年の告知
■第37回(2010年) ■続き
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■北海道抽象派作家協会 同人と2009年展推薦者による小品展 (2009年7月)
■第36回北海道抽象派作家協会展 ■続き ■続々 (2009年4月)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■第35回展(2008年5月)
■第34回
■第33回
■第32回
■第31回
■03年秋季展(画像なし)
■第30回(画像なし)
■02年の秋季展(画像なし)
■第29回
■01年の秋季展
■第28回
昨年秋、70歳で急逝した、岩見沢と札幌を拠点に活動していた美術家の林教司さんは、1998年以来、北海道抽象派作家協会の同人でもあった。
会場で配られている図録を開くと、その喪失感の大きさが伝わってくる。
同人の三浦恭三さん(小樽)によると、会場で遺作を見て初めて、彼の早すぎる死を知り驚く人も少なくないという。
道内の美術界にとってはそれなりに大きな話だったと思うのだが、新聞には出なかったし。
今回は、同人12人のうち佐々木美枝子さん(札幌)と鈴木悠高さん(同)が出品していない。昨年に続き2年連続の欠席である。佐々木さんは「作品A」「作品B」「作品C」と、図録に題も記されている。
推薦作家は2人で、昨年を下回って史上最少を更新。會田千夏さん(同)と田中郁子さん(日高管内浦河町)。
その會田さんと、同人の宇流奈未さん(札幌)、三浦さん、後藤和司さん(同)が、図録に彼の死を悼む短い文を寄せている。
ベテラン同人にとっては仲間であり、會田さんや宇流さんにとっては励ましてくれる優しい先輩であったようで、読んでいるこちらも粛然とする。
林さんの遺作「種子」。
もっとも、インスタレーションなので、このとおりの構成の作品を彼が生前に構想していたとは思えない。
題字のところに「2018」と制作年が記されていた。
今回の会場でいちばん心に沁みた。
林さんは亡くなっても、作品は現在進行形であるということなのかもしれない。
ほかに、「無題」と、題が付されていない小品が2点(図録に印刷されているものとは異なる)。
林さんの葬儀のようすはこちら、死亡記事はこちらを、ぞれぞれご覧ください。
林さんの過去の展示へのリンクは、後者の記事を参照願います。
宇流さんの作品「未知」。180×450、墨・水彩。
屏風のように自立している。
図録には
「林さんがとても好きだと言ってくれた作品『未知』を追悼の意を込めて展示したい」
とある。
背景が白く抜いてあるところは日本画・水墨画を思わせるし、同時に宇宙的・SF的な広がりを感じさせる。
左は田中季里さん(千歳)「たたずむ」(アクリル、色鉛筆。180×70)。
小さな作品を数多く壁面で組み合わせるのは、近年の田中さんの特徴である。
右は後藤和司さん「軌跡 '18-3」(ミクストメディア、S20×9)。
図録には「軌跡」とだけ記されている。
昨年夏の個展で、さまざまな画風を試みていたが、そのうちのひとつで、色の重ね具合の豊かさと、薄いグレーを基調としたまとめ方のうまさはさすが。
図録には「奏」(S8×4)とあったが、こちらは3点しか展示されていない。
三浦恭三さんは、油彩のF60が3点。
「連立 I」「連立 II」「連立 III」。
円や曲線、斜めの直線を、寒色で軽快にまとめる熟練の技。
図録には記されていないが、このほか、題のない小品が数点展示されていた。
手前は田村純也さん(苫小牧)のインスタレーション「城」。
壁面左手は、佐々木さんとともに、協会創設時のメンバーである今荘義男さんの「古里」。
近年多いスタイルである、三つの部分を横につなげたもの。
ほかに小品「古里」が2点。
右手は名畑美由紀さん(札幌)のF100油彩。「蒼」と「桃」。
推薦作家の田中郁子さん「No.52 phase」。
S50×3、ミクストメディアと図録にある。
流れるようなダイナミックな構図と、絵の具の重なり具合のおもしろさは、抽象絵画の醍醐味だと思う。
このほか「ツユノツキ」「ハルノヒ」。
カメラが不調で、画像がない作品があります。ごめんなさい。
冒頭画像、左側の壁面のいちばん奥が、會田千夏さん「KATARIJIMA 2018.4.16」。
油彩、200×300。
数字の「4」にも見える亀裂のような線と、淡い色の濃淡。
ほとばしる思いを、静かに封じ込めているようにも感じられる。
「KATARIJIMA」というタイトルで制作したのはおよそ10年ぶりのことらしい。
図録には、最後に林さんと会ったとき「あなたのkatari-jimaは好きだったなあ」とつぶやいたことが、制作のきっかけになったという意味のことが書いてあった。
その手前、青い3点が、小川豊さん(小樽)「心のひだ」。F100の油彩。
図録にはF100、2点とあるが、どう見ても1点多い。
しかもこれ以外に小品が6点、展示されている。
青の半円形のようなものをひたすら描き足していく手法は変わらないが、ところどころに異なる系統の色が差し挟まれており、変化がうかがえた。
左から3、4点目は宮部美紀さん(石狩)の水彩F60「流れる」。
この向かい側の壁には近宮彦彌さん(旭川)の作品があった。
図録には「シリーズI 風」「シリーズII 風」「シリーズIII 風」とあり、いずれもアクリル、F30とある。
それ以外にも、題のないF30が1点、小品が2点展示されていた。
筆者はまったく違和感なく見ていたが、彦宮さんは2011年に退会しており、久しぶりの復帰である。そのあたりの事情は今荘さんから聞いたが、ここには記さない。ただ、創作上の意見対立などではなかったとのことで、まずは復帰を歓迎したいと思う。
人事の話を書き添えれば、2016年に同人になったばかりで、精力的に制作を続けている丸藤真智子さん(札幌)が退会している。
2018年4月17日(火)~22日(日)午前10時~午後5時(初日午後1時~、最終日~4時)
札幌市民ギャラリー (中央区南2東6)
関連記事へのリンク
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
【告知】第42回北海道抽象派作家協会展 (2015)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
・2011年の告知
■第37回(2010年) ■続き
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■北海道抽象派作家協会 同人と2009年展推薦者による小品展 (2009年7月)
■第36回北海道抽象派作家協会展 ■続き ■続々 (2009年4月)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■第35回展(2008年5月)
■第34回
■第33回
■第32回
■第31回
■03年秋季展(画像なし)
■第30回(画像なし)
■02年の秋季展(画像なし)
■第29回
■01年の秋季展
■第28回
(この項続く)
<追悼>林 教司「種子」を観てきました。
こちらのブログにお邪魔し、たくさんの作家さんのお名前と作品を知ることができました。ありがとうございます。心惹かれる作家さんの中でも、林さんのは必ず観に行っていました。作品の前に立ち、あの深みのある色と精神性に触れる機会が少なくなる、本当に残念で、寂しいです。
本当に林さんは、突然のことでした。まだまだ活躍してほしかったし、一度くらいは美術館で作品を見たかったです。