かつてロンドンの金融街シテイーの中心部、イングランド銀行の向かいの重厚な建物にあったのがイギリス最大の銀行ミッドランドだった。このミッドランド銀行は金融再編の中で、植民地金融を専門としていた香港上海銀行に買収され、その名前さえも消えてしまう事になった。植民地に君臨した銀行らしく、あくまで傲慢かつ傍若無人な香港上海銀行だが、その強面のイメージを消すべく、ミッドランド買収を機にイギリスの銀行となり、かつ対外呼称をHSBCに変えた。このHSBC,今までイギリス最大の銀行としてわが世の春を謳歌してきたが、ここにきて、為替相場の不正操縦に加え、スイス子会社におけるかつての秘密口座の存在が暴露され、さらにスチュアート・ガリバー頭取が1998年からこの秘密口座を開設しボーナス500万ポンド(約9億円)を預けていたことが発覚した。ガリバー頭取は長く香港上海銀行の香港に勤務し、現在も居住地を香港にしてその税務上の問題はないとしているが、イギリス最大の銀行の頭取が巨額の資金を悪名高いスイスの秘密口座に保有していた、というだけですでに倫理上の問題は免れない。今後の身の処し方に注目したいところ。おりしもHSBCの純利益は急降下(17%)しており、つれて株価も23日6%と大幅に下落している。
大英帝国の尖兵として居住環境の劣悪な新興国に勤務し、一旗揚げるという気概はそれなりに首肯できるところであるが、実際には勤務地では現地の職員を見下し、醜悪なほどに傲岸な英国人の多いことも事実。その典型が香港上海銀行だった。今回の事件でこのような「植民地に君臨する宗主国」といったゆがんだ精神構造がいくらかでも改善されるのだろうか。