月刊「祭御宅(祭オタク)」

一番後を行くマツオタ月刊誌

199.撥(ばち)に見る大きい祭の影響(月刊「祭」2019.9月26号)

2019-10-01 07:02:00 | 屋台・だんじり・神輿-台車、骨組み、かけ声、楽器、担ぎ方-
●祭の必需品
太鼓を打つために必要なのが、撥(ばち)です。姫路などの神輿屋根屋台分布地域ではブイと呼んでいるそうです。バイと呼んだりするところもあると聞きました。この記事では太鼓を打つための木の棒を原則「ばち」と書きます。
 
●ブイ・バイ
 姫路市を中心にブイ・バイと呼ばれるばちが好んで使われています。形は屋台によって少しずつ違いますが、①先端がかなり広がっている ②先端は角ばっているという2つの点は共通します。
 
 
 これは、リンク先の映像のように持ち場を4人全員で最初から最後まで打てるように、ばちを落とすように太鼓を打ちます。先端が重く、力を入れずに打ちますが、水引幕がたくし上げられており、ばちの先端に重心があり、角ばっているために太鼓の鏡面に接する面積が小さくなることが重なって、鏡面にかかる力が最大限に大きくなります。
 

姫路市松原八幡宮七ケ村ブイ、バイ型のばち
 
 
 
 
●三木にも広まるブイ、バチ型
と広まらない明石町
三木にもブイ、バチ型は広まってきています。知る限りでは、大宮八幡宮の末広屋台、下町屋台、岩壺神社の滑原屋台などです。
 しかし、 大宮八幡宮明石町ではバット型とも言える形のものが今も好まれています。ブイ、バイ型のものが初めて購入されましたが、現役の青年団員含め、比較的新しいものを受け入れやすい子どもたちも、ブイ、バイ型のものを使いたがりません。
依然として好んで使われるのは野球のバットを思わせるバチが好まれて使われています。
 同じ三木市内で同じ小学校区内、そのうち二台は同じ神社で「ほとんど」同じリズムを打つのに、なぜ、バチの好みは異なるのでしょうか。
 
●こだわりの違い
  末広、下町、滑原とも、比較的緩やかに打つブイ、バイ型のばちに変わっていますが、力強く太鼓を打ちます。それは、水引幕で太鼓打が全て隠されていることによるものと考えられます。一人づつ交代で打ち、水引幕で音が中にこもらないように、力強く打たなければなりません。より力強く打つことを重視するのであれば、ブイ、バイ型のばちを使うのも一つの手段として有効です。
 つまり、末広、下町、滑原は灘のけんか祭で使われているから盲目的にブイ、バイ型のばちを取り入れたわけではなく、合理的な選択として取り入れたのです。
 

↑水引幕の中で太鼓を一人ずつ打ちます。


 
 
 しかし、角のある少し重いブイ、バイ型のバチだと跳ね返る力も強く、音の調整が難しくなります。明石町の場合、ドンドン ドンデドン(右左右)のタイミングや強さの調整を細かいところまでこだわります。その微妙な調整は、太鼓を打った後に、バチをグッと握りバチがはね放題にならないようにして行います。そのために、太鼓を平面に近い状態で打て、反動が強くなりすぎないバット型のものが好まれていると思われます。
 

つまり、明石町のように微妙な音にこだわる場合の選択肢として、ブイ、バイ型がふさわしくなかったということで、盲目的に伝統にこだわったわけではありません。
 
●盲目的に大きい祭りの影響を受けているわけではありません。
  民俗学などの研究誌に屋台やだんじりがあつかわれるようになったのは、ここ最近の話です。その中でよく見られるのが、大きい祭の影響を受けて祭がかわっていっていると言う内容です。
 三木市内のバチがブイ、バイ型に変わっているのも灘のけんか祭という「大きい祭」の影響とも言えます。しかし、その変化を受け入れるのか受け入れないのかは、単に伝統か革新かの議論で行われるわけではありません。それまで培ってきた技術と照らし合わせて、変えることが有効なのかそうでないのかの検証がなされた上できまるのです。
 それを理解するには、今回の場合は太鼓の打ち方にたいする基本的な経験が必要になります。それらをすっ飛ばして屋台や、だんじりをあれやこれや言うと、何処か説得力に欠けたものになってしまいます。
 
編集後記
 太鼓の練習に熱を帯びてくる昨今です。自町の太鼓打の技術の高さに改めて感嘆しました。