保津川下りの船頭さん

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保津峡を襲う激しい雷雨に立ち向かう、船頭の‘心と伝統の技’

2011-07-28 19:31:21 | 船頭
保津川下りの夏の風物詩といえば・・・薄紫のむくげ、それとも清楚ななでしこ?

いえいえ、突然の稲光と轟音、突風、そして豪雨!そうです、雷・夕立です。

今日は午後、その風物詩が保津峡の上空に出現しました!

上空を覆う灰色の雲。夕方のような薄暗さ。渓谷は徐々に怪しげな表情に移っていく
渓谷。その谷川に浮かぶ小舟が保津川下りの舟なのです。

稲妻が光り、渓谷を揺り動かす如くの轟音!、すると突然、
水面が波立つほどの、もの凄い風が、唸り声をあげながら舟へ向かってきます!

高瀬舟である保津川下りの舟は船底が平らなため、風が一番の強敵です。
日よけのために設置した三角形の屋形テントは強風に捲り上げられて
アーチ状に膨れ上がり、テントごと舟を吹飛ばさんばかりの状況。

風の煽られ舟は簡単に風下に追いやられます。

この条件で操船する船頭は、今の風向きと強さを瞬時に読み、
岩がせり出す狭い川筋を寸分の狂いもなく、流し通けなければなりません。

操船の要となる舵の操縦は、先々と風を見切り、舟の舳先を
思い切って風の風向く方向へと切っていきます。
これは強風に吹かれ流される距離と角度を計算に入れて
わざと風の力を利用して通行するコースまで導くためです。


保津川下りの船頭にとって、最高に高度な操船技術が求められる場面です。

身体力を高め、五感をフルオープンして、想像力、論理力などの頭脳を働かせる
まさに人間能力の全てを結集させて、豪雨と強風が吹き荒れる川をのり切るのです。

しかも、乗船されているお客さんには悟られないように、顔はポーカフェイスで。

「どんなに大荒れの自然状況となっても、ひとたび川に漕ぎ出せば、
舟を安全に嵐山まで辿り着かせる」
私はこの保津川船頭の心意気を、400年間脈々と受け継がれてきた
‘川根性’‘舟根性’と呼んでいます!

穏やかだった自然は、突如、不機嫌となり、牙剥き出しの猛威で
保津川の小舟に襲い掛かってくる、これが、ありのままの‘自然’。

こんな自然に対応する時に頼りになるのが、
自身の体に身に付けた操船技術と臆することなく立ち向かう精神です!

この時ほど、先人の師匠や先輩から厳しく操船技術を学び、身に
付けられたことを、心強くそして誇らしく思えるときはありません。

嵐山にたどり着く頃には、激しい嵐は嘘のように去り、曇り空の隙間から日光が射し、
青空が顔を覗かせます。

あの大荒れの渓谷での出来事は一時の夢ではないか?とさえ思えます。

400年の歴史と経験が生み出した保津川下りの舟の操船技術の正確さ
乗り込む船頭の心意気こそ、生きた伝統であり、いささか大げさにいえば
後世に残していかねばならない「生身の文化財」ではないかと思う次第です。