ロレンツォは本を読んでいた。僕がそばを通り抜けても気づかない。以前来た時は映画のスクリーンの中にいるようだったが今は違った。確かな現実の中にいるようだ。ランプの明かりにロレンツォの影が揺れている。僕の影はない。この世界では僕は影を持たないらしい。
家の人の態度がコロリと変わった。城からのお金が変えたのだ。父も継母は浮き浮きしていた。二人の義姉は服の品定めに忙しかった。私には城からの白いドレスが一つ。王女様の前に出る時は、女は同じドレスを着るらしい。私は美しいドレスは要らない。
今夜は月夜だ。
誰かいる?
誰だろう?
奇妙な服を着ている。図書館で見た人だ。真っ黒な髪、真っ黒な瞳。私の方を真っ直ぐに見ている。
「イローナ」
絵の少女がいる。輝くような髪。金色の細い髪。それはかすかな風にもそよぐ。青い瞳。それはどんな深い泉より深い青。
「イローナ」
窓に近づき声をかけた。
「どうして?私の名前を」
言葉が通じた。イローナの声は直接僕の心の中に入ってきた。
「あなたは誰?」
誰かの声がした。聞いたこともない言葉だった。
「誰かいるの」継母の声がした。
「誰も」
振り返って私は答える。
「誰もいないわ」
庭に目をやると姿は消えていた。月明かりに夢を見たんだ。
僕は図書館に帰り、本の間に挟まれた左手の小指の影を見つけた。たった一つの自分の影だった。影に左手を合わせると、急に身体が軽くなった。いつの間にか、イローナの絵の前に僕はいた。
家の人の態度がコロリと変わった。城からのお金が変えたのだ。父も継母は浮き浮きしていた。二人の義姉は服の品定めに忙しかった。私には城からの白いドレスが一つ。王女様の前に出る時は、女は同じドレスを着るらしい。私は美しいドレスは要らない。
今夜は月夜だ。
誰かいる?
誰だろう?
奇妙な服を着ている。図書館で見た人だ。真っ黒な髪、真っ黒な瞳。私の方を真っ直ぐに見ている。
「イローナ」
絵の少女がいる。輝くような髪。金色の細い髪。それはかすかな風にもそよぐ。青い瞳。それはどんな深い泉より深い青。
「イローナ」
窓に近づき声をかけた。
「どうして?私の名前を」
言葉が通じた。イローナの声は直接僕の心の中に入ってきた。
「あなたは誰?」
誰かの声がした。聞いたこともない言葉だった。
「誰かいるの」継母の声がした。
「誰も」
振り返って私は答える。
「誰もいないわ」
庭に目をやると姿は消えていた。月明かりに夢を見たんだ。
僕は図書館に帰り、本の間に挟まれた左手の小指の影を見つけた。たった一つの自分の影だった。影に左手を合わせると、急に身体が軽くなった。いつの間にか、イローナの絵の前に僕はいた。