創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

物語のかけら 最終章 4

2007-04-30 20:53:30 | 創作日記
朝はコップ一杯のミルクとチーズひとかけ。小さなパン(豆から作ります)。アーシアと分け合って食べる。とてもおいしい。アーシアはよく笑うようになった。それに、絵がとっても上手だ。でも、時々、淋しそうな目で私を見る。「ユウ」。私は私を指さす。アーシアは激しく首を振る。「ユウ」。粗末な板にロウセキで描いた絵。あなたにとてもよく似ている。私はふと思う。石泥棒さん、あなたの名前は「ユウ」。前の夜、子どもが死んだ。人々は黙々と穴を掘る。土を盛り上げ、母親が一粒の種を埋める。涙はない。一粒の種が草原の草になるころ、彼らは帰ってくるだから。

物語のかけら 最終章 3

2007-04-29 11:36:32 | 創作日記
今朝は河を渡りました。とても広い河です。草を求めての旅。冬はもっと厳しい旅になる。凍った土地にわずかな草を求める旅になる。アーシアはいつも子供と一緒にいます。子供がアーシアの周りに集まるのか、アーシアが子供の中に入っていくのか。多分、二つとも正しい。お互いが引かれ、愛しみ合っているようです。アーシアの黒い瞳はあなたにそっくりです。遠い世界から、あなたに会いに来たように。そこは、どこって?遊牧の人に聞いてもわからない。人々は知らないといいます。地図にない場所。一日を精一杯生きればそれでいいと。やはり、ここは、世界の果て。
 
フィン・デル・ムンド
そこから旅人はふたたび出発することができる
それぞれの世界の果てへと

(高橋順子・「世界の果て博物館」)

物語のかけら 最終章 2

2007-04-25 21:06:25 | 創作日記
アーシアが星空を仰ぎながら、歌い始めました。言葉が戻ってきたのです。いつの間にか、沢山な遊牧の人がアーシアの周りに集まってきました。アーシアの歌を聴きながら、星空を仰ぎ、少し遅れてアーシアの声を追います。子ども達は、そんな大人たちの間を走り回ります。もっと小さな子どは、キャツキャと笑ったり、泣きわめいたり、とても、にぎやかです。名前も知らない動物が、アーシアに近づいて、顔をぺろりと舐めます。アーシアの顔から笑みが零れます。私は一足先に眠ります。もう、明日がこなくても。それはそれでいい。

物語のかけら 最終章 1

2007-04-25 21:04:42 | 創作日記
石泥棒さん、そろそろ約束の三月が経ちますね。あなたの名前も知らない。でも、あなたはそこにいる。確信しています。アーシアの目に光が戻りました。私を見つめているのです。アーシアは少しずつ失ったものを取り戻しているのです。少しずつ。私たちは遊牧民と旅をしています。彼らが連れているのは、きっと、あなたの知らない動物です。牛でも馬でも羊でもラクダでもない。とてもおとなしい動物です。枯草を食べても、生きていけます。牡は三年たてば、売られていきます。残ったものも、私達や遊牧民に食べられます。牝は一年に一頭の子供を産みます。十回産めば、雄と一緒に売られていきます。遊牧の人はみんなとても親切です。言葉は通じませんが、心は通じ合います。

物語のかけら11 第二部

2007-04-24 16:39:15 | 創作日記
王妃1「イローナが王を殺した」
王妃2「イローナが王を殺した」
王妃1「(泣きながら)私の王を殺した」
王妃2「私は消える」
王妃1「ずーと消えてしまいよ」
王妃2が王妃1をにらむ。そして、身をひるがえす。
兵士が駆けつけてくる。イローナがかけつけた兵士に取り押さえられる。
王妃1「この女は魔女よ。手足の指を引き抜いて、生きたままの火あぶりがいいわ。お祭りよ、ワインを飲みながら最高のショーが見られるわ」
兵士がイローナを引きずる。イローナの持っていた短刀が床に落ちる。
王妃1「王を片づけなさい。王の死はできるだけ隠すこと。いい」
兵士たちがうなづき、部屋から出ていく。
王妃1「もう出てきていいよ」
部屋の陰から王妃2が現れる。
王妃2「何処にいるの?黄色い人」
王妃1「黄色い人」
王妃2「ああ、二人で一人なんていやになった」
王妃1「そう、私もよ」
王妃1がイローナが落とした短刀をひらう。王妃2の胸を刺す。王妃2が短刀を胸から抜き、王妃1を刺す。双頭の蛇が互いに咬み合う。そして、お互いの頭を呑み込む。
王妃「私は、あなたが一番嫌い」
王妃「私も、あなたが一番嫌い」

大衆の歓声の中、十字架にかけられるイローナ。
「魔女だ」の声。
イローナが歌い始める。火が放たれる。
「イローナは僕のために歌っている」
優は炎の中のイローナを見上げた。イローナも優を見つめて歌う。
イローナ「また、会いましょう」
優「そう、きっと会える」

物語のかけら10第二部

2007-04-23 21:53:59 | 創作日記
「誰か来て」二人の王妃は声を合わせて叫んだ。楽しそうに。舞台で演じる役者のように。
「王様!、王様!、王様!」
優は言った。
「あなた方はかわいそうな人だ」
そして続けた。
「いつも一人だ」
「一人でいけないの?」
「人はいつも一人よ」
「私以外誰もいないよ。生きるのも一人、死ぬのも一人」
「でも、一人でも、人を愛することはできる」
「そうね、確かに」
「でも、やっぱり一人」
「僕も一人が好きだった。たけど…」
「だけど?」
「僕が死んだとき、泣いてくれる人がいたら、いいなと思う」
「馬鹿みたい」
「誰?あなたは?」
「黄色い人?」
「こんな人にかまわずにお芝居を続けましょ」
「でも、意外ね。2人で一緒に幻を見るなんて」
「おもしろいね。狂っている分だけ一緒なのかも」

物語のかけら9 第二部

2007-04-23 16:37:50 | 創作日記
王が眠る寝室に二人の王妃が入ってきた。一人がランプをかざすと、もう一人の王妃が王の顔を指差した。
王妃1「この男がいなくなれば、私たちは昔のように仲良く暮らせる」
王妃2「愛なんて信じないわ、ねぇ、お姉様。きっと、誰かが言った冗談よ。私はいつも1人」
王妃1「そっくりでも、1人」
王妃2「そっくりだから、1人なの。お姉さまは鏡の中の私」
王妃1「あなたこそ、鏡の中の私」
王妃2「あなたが、私の影なの」
王妃1「私の影はあなたよ」
王妃2「どっちでも同じ」
王妃1「いやよ、わたしがあなたの影だなんて」
王妃2が王のベットに近づく。
王妃2「でも、お姉さまが愛を信じるなら、この男はジャンマ」
王妃1「(鏡に向かって声を潜めて)イローナ」
鏡の中から自失したイローナが現れる。片手に、短刀を下げている。
王妃2「何人も人を殺して、お帰りになったばかり、死んだように眠っていらっしゃる。簡単よ、一気に刺しなさい」
王妃1「帰れるのよ、あなたのお家に。帰りたいんでしょ。帰してあげる。さあ、殺して」
王妃2「天井に届くまで血しぶきをあげて。馬鹿な男は、美しいもののために死ぬの」
イローナが両手で握った短刀を振り上げる。鏡の中から優が現れる。
「イローナ!」優が叫ぶ。
イローナが短刀を振り下ろす。その間に、優が立つ。短刀は、ゆっくりと優の身体を通り抜け、王の胸に刺さる。
王の胸が血に染まっていく。