創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

時の廻廊 53

2008-07-31 08:46:15 | 創作日記
 時の廻廊

 「時の廻廊」は完結しました。左のリンクをクリックして下さい。沢山の方に読んで頂いてありがとうございました。感想を期待しています。右クリック、対象をファイルに保存で、ダウンロードも出来ます。
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時の廻廊 52

2008-07-30 09:01:11 | 創作日記
時の廻廊

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眠っている間に

2008-07-28 15:33:15 | 創作日記
 六畳一間のアパートに男と住んでいる。男は太郎という平凡極まりない名前をつけられていた。私は朱雀(すざく)。この名前も変だ。
 一日。太郎は朝の六時に起きる。小用をして、歯を磨き、顔を洗う。野菜サラダを作り、トースターで濃いめに食パンを焼く。自分の分だけ作る。
「どんな夢を見た」
 卓袱台でパンを食べながらいつも同じ事を聞く。
「覚えていない」
 私はいつも同じ答を返す。
「僕は、子供の頃の夢を見た」
 太郎は夢の中で聞いた童歌を歌ってくれた。
 
 かごめかごめ 籠の中の鳥は
 いついつ出やる
 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った
 後ろの正面だあれ?

 本当は太郎に抱かれている夢を見た。思い出そうと目を閉じるが、何も見えない。まぶたの闇は夢の闇とは違う。太郎は夢の中にいた。きめ細かい肌。熱く強い性器。激しく打つ鼓動。
 太郎は七時に部屋を出て行く。ドアの閉まる音を聞いて私は起きる。トイレにも洗面所にも太郎の名残はない。卓袱台も、キッチンも片付いている。完璧に。誰もいなかったように。
 野菜サラダを作り、トースターで濃いめに食パンを焼く。インスタントコーヒーを入れる。食パンにバターを多めに塗る。牛乳をコップ一杯飲む。テレビで「おはよう朝日」を見る。宮根誠司の「行ってらっしゃい」という言葉で、テレビを切る。ぶらりと街に出る。仕事は携帯電話にかかってくる。
「朱雀さんですか」
「はい」
「掲示板を見ました」
 男と待ち合わせて、セックスをする。料金をもらう。同じ男とは二度としない。別れ際に「約束を破ったら、怖い人を呼ぶ」と脅す。だから、いつも新しい男が私の前に姿を現す。でも、みんな一緒だ。一日一人。終わったら携帯電話の電源を切る。
 一度も電話がかからない日もある。午後三時まで待つ。三時を過ぎると、携帯電話の電源を切って、映画を見る。つまらない映画でもかまわない。闇に身を潜めていると気持ちが落ち着く。
 交代で夕食をつくる。つくる気がしない時は、マックを買ってきたり、コンビニ弁当で済ますこともある。でも、当番はきっちりと守る。ご飯がすむと、二人で食器を洗う。当番が洗い、もう一人が拭く。卓袱台を拭き、今日のご褒美に缶ビールを半分っこする。そして、少し話をする。
「今夜はどんな夢を見るか楽しみだ」
 と、太郎は言う。太郎は夢のはなしが好きだ。私は殆ど聞き役だ。
「夢は直ぐに忘れるからね。何日もひきずることがない」
 私は太郎の年令も、仕事も知らない。一つの部屋に住みながら、セックスもない。雨宿りで一緒になって、太郎が私の影のようについてきた。
「でも、忘れてしまった夢をいつも引きずっているのかも知れないね」
 彼は私の目を見る。
「君は夢を見ないのか」
「一度も見たことがない」
 私はさらりと言う。
「そう、それは良いことだよ。世界が一つしかない」
 私にはいくつもの世界がある。夢で太郎と交わる世界。知らない男と交わる世界。映画館の暗闇。太郎が眠ったあと、ネットで繋がる世界。みんな私の世界だ。いつの間にか、太郎は静かな寝息を立てている。彼は存在するのだろうか。そして、私は、今夜どんな夢を見るのだろう。

2008/07/28(月) 了

空弥(くうや)

2008-07-27 11:29:49 | 創作日記
 奈良県○○郡××村にある△△寺は開創以来千三百有余年の由緒ある寺である。山の奥にあり、訪れる人は希だ。県道から、急な山道を1Km程上がる。道幅は狭く、観光バスは入れない。車の行き違えにも難儀する。慣れない者はよく車輪を落とすが村人は難なく上がって行く。普段はすれ違う車は希だ。春は山つつじが美しい。△△つつじと呼ばれる。△△寺の本尊は重要文化財である薬師如来である。秘仏であり、一般の人は見ることは出来ない。本堂、大師堂、木造天部形立像(てんぶぎょうりゅうぞう)も重要文化財である。寺には住職夫婦と次男の空弥が住んでいる。長男は京都にいる。大学生である。親の代は家も人も多かった。今は老人ばかりの過疎の村になった。檀家も減った。住職は跡継ぎのことを言ったことがない。長男は宗教に無関心で京都の大学で法律家を目指している。それはそれでよいと住職は思う。只、次男に空弥と名づけたのは、少しはその期待があったからだ。平安中期の僧である空也上人。畏れ多いので也は弥にした。般若心経を幼い兄弟に教えた。兄は直ぐに覚えたが、空弥は覚えなかった。兄より幼いせいだろうと思っていたが、空弥は今も覚えていない。成績もよくない。一日中ぼんやりとしていることが多い。住職は空弥の高校進学を止めさせて、寺で使おうかと思った。妻は猛反対だった。寺の住職はあなたで終わる。この寺には誰も住まなくなる。
「本尊はどうする」
「国の重要文化財ですから、国が考えるでしょう。私は今でもこんな不便なところは嫌ですよ。空弥は町の高校に入れて私もついて行きます」
 その日はそれで終わったが一週間程して妻は具体的な案を持ってきた。空弥は農業高校に入れる。そこしか無理らしい。一家でU町に引っ越す。適当な空き家がある。家賃は心付けで良い。あなたはそこからバスで寺に通う。
「健康のためにもバスの方が良いわよ」
「サラリーマンのように寺に通うのか」
 庭を眺めながら、住職は独り言のように言った。下宿を探している中学の先生がいて、夜は大丈夫。
「何の先生」
「体育」
「如来様は秘仏」
「大丈夫よ。興味がないみたい。それに空手三段。却って安心よ。お昼はお弁当をつくるわ。それにパートにも出たいし」
「パート」
「家の経済をあなたは知らないのよ。京都のお金だって、大変なのよ」
 考えておくと言って、本堂へ行った。如来様はいつものように静かに佇んでいらっしゃる。合掌して頭を下げ、座った。背中に気配を感じて振り向くと、空弥がいた。いつ入ってきたのだろう。気づかなかった。
「何か用か」
「はい」
 近くに来て、薬師如来に合掌して頭を下げた。住職が言葉を促すと、
「仏様はいらっしゃるのですか」
と、言った。
「彼岸は在るのですか」
 空弥の目は澄んでいる。そして、一途な光が宿っていた。住職は簡単に答えられないと思った。
「お父様は仏様を見たことがあるのですか」
「空弥」
 と、住職は静かに呼びかけた。
「はい」
 と、空弥は応えた。
「四国八十八カ所を巡ってみるか」
 と、言った。住職は一度巡った。彼は仏様に会わなかった。だが、空弥は会うかも知れない。如来様のお顔を見る時、なぜか懐かしい気がしていた。空弥の顔に如来様の面影を感じた。静かに沈黙の世界を見ておられる。それが死の世界。彼岸の世界だろう。生きている限り見ることの出来ない世界だろう。だが、会うことは出来るかも知れない。一瞬の風のように。
 一番札所までの旅費を持って空弥は出て行った。遍路装束に金剛杖、菅笠の出で立ちだった。

 町での新しい生活にも慣れた。今年も、山つつじが美しく咲いた。朝のお勤めを済ませ、山を巡った。一月経ったが、空弥からの便りはなかった。その夜は、先生が学校の宿直で、住職は久しぶりに寺に泊まった。いつもは日が暮れるまでに山を下りるので、ふと、夜の山つつじが見たいと思った。納戸から提灯を取り出し出かけた。満開のつつじの中を歩いた。いつの間にか知らない道を歩いていた。提灯の明かりが必要ないほどあたりは明るかった。空弥の背中が一瞬見えた。
「空弥!」
 と、呼んだ時、我に返った。見上げると、如来様のお顔があった。

 蝉が鳴き始めた頃、空弥は帰ってきた。頬が痩けて、菅笠、遍路装束はぼろぼろだった。住職は何も聞かなかった。空弥も何も言わなかった。




眠っている間に

2008-07-17 21:28:16 | 創作日記
魅力的な言葉に会えば、その言葉から小説を紡ぎ出す。それが出来なければ小説家とはいえない。確か、そんな意味のことを吉行淳之介は言っていたと思う。「砂の上の植物群」はクレーの水彩画の題から触発された作品である。「眠っている間に」は塩田千春さんのインスタレーション(物体や装置などを配置し、アーティストの意向に添って構成された空間そのものを作品とする)である。さて、「眠っている間に」を題とする小説を書いてみよう。これも出会いだ。私が小説家であるか否は別として。
眠っている間に
「眠っている間にたくさん夢を見た。現実に戻ると何も覚えていない。現実に戻る?。現実と思っている世界が夢かも知れない。忘れてしまった夢が現実かも知れない」実際に「眠っている間に」を書き終えた時は今書いた部分は消えている。

時の廻廊 51

2008-07-04 16:38:17 | 創作日記
 時の廻廊

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小説を書くために重宝しているURLを紹介します

2008-07-02 15:39:02 | 創作日記
一つ小説を書き上げました。時間を設定して小説を書いている時、その日の天気や、日の出日の入り(その時間で日が暮れていたかどうか)、そんなことが気になることがありませんか。今度の小説はそれがとても気になりました。苦労して見つけたページです。天気はここ。場所も指定できます。日の出日の入りはここ。場所も指定できます。

映画「ショート・カッツ」とレイモンド・カーヴァー

2008-07-02 15:18:50 | 映画・舞台
映画「ショート・カッツ」を観た。三時間余の大作である。レイモンド・カーヴァーの9つの短編と1つの詩を元にしているが、小説や詩とは全く別の作品である。小説のピースを組み合わせて、全く違った絵を作ったように。この部分はあの小説と思い出しながら観た。映画を観た人はレイモンド・カーヴァーの小説を是非読んでもらいたい。レイモンド・カーヴァーが亡くなってもう20年になるんだなあ。小説(夜になると鮭は・ささやかだけど、役にたつこと・僕が電話をかけている場所)は村上春樹氏の訳で、詩(水の出会うところは)黒田絵美子氏の訳で読んだ。早速本棚から引っ張り出してきたが、うっすらとほこりがたまっている。ごめんね。また、読み返すよ。