映画は「紙屋悦子の青春」。読書は村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」再読。舞台は維新派「ナツノトビラ」。悲しきはS君の訃報。宛名は自筆だった。
物語のかけら 第二部⑤
王妃は ふっと目を開け、イローナを見る。その目に憎しみの色が浮かんだ。
「止めなさい」
高い声が飛んだ。イローナは凍りついたように動かない。
王妃の背後から、声が聞こえた。
「気に入らないって顔ね、お姉さま。若くて、美しくて、素晴らしい声」
「品のない村娘に、嫉妬なんかしないわ」
カーテンの間から、なんと、何もかもがそっくりなもう一人の王妃が現れた。二人は頬を合わせて内緒話をする。でも、耳の遠い私にも不思議によく聞こえる。
「そう。私は羨ましいわ、殺したいほど」
「羨ましくなんかないもん。ただ、あの娘は私を侮辱した。それが許せない。自分の世界に浸り、目の前にいる私を無視した」
「殺そ」
「うん、殺そ」
声もそっくり。どちらがどちら。考えるのが無駄。
「驚いた?私たちは二人で一人。一人が出れば一人は影になる。昨夜抱いたのがどちらか、王様も知らない」
「驚いた?一人がいれば、一人は死んでいる。一人が死ねば、一人が生き返るの」
「ふーん、どうして、あたしが秘密をあなたに話すのか不思議?」
王妃は階段を1つ降りる。笑うととても愛くるしい。こんなに美しい悪魔がいる。
「秘密ってすごく話したくなるものなのよ」
王妃が、階段から降りてきて、イローナのあごを掴む。
「あなたのような空っぽの女には分からないわね」
王妃が笑いながら続ける。
「それに、あなたはもうすぐ死ぬの」
「あんたなんか死んでも、世の中は何にも変わらない。歴史の闇に落ちていくゴミなの」
王妃が歌うように言う。
「私はゴミじゃない。生きています。今、ここに」
イローナが言った。
「許可なしで、喋っちゃだめ。それじゃ、許可します」
「助けてください」
「そうよ、素直にそう言えばいいの。だ・け・ど、だめ。私たちの秘密を知ってしまったからよ」
「いやなの、あんたみたいな子がいるのが。いると思うだけで私を傷つける」
王妃「お姉さま、そんなことはどうでもいいじゃない。殺そ、鏡の部屋が空いているわ。あの迷路で狂いなさい」
「そうね、鏡の部屋で狂いなさい。そして、その後、素敵なショーに出てもらうわ」
「ショー、ストーリーは、配役は、当然、都から呼ぶのね」
「配役はお城中にいるの。だけど言わない。知らない方が楽しいわよ」
「そうね、私、すっごく、暇だったの。何でもいいわ、暇な時間を埋めてくれるものなら」
歓声があがる。王妃が窓から外を見る。私も王妃と並んで窓の外を見る。兵の一軍が、門から入ってくる。
「ああぁ、退屈な男が帰ってきた」
「敵のクビをいっぱい馬に括り付けて。野蛮で汚い男。今夜は、あんたの番だから」
「添え寝してあげたら、赤ん坊のように寝てしまう」
「ええ、王様も何時か殺してさし上げます」
そっと肩をたたかれた。宿の主人が本当に申し訳なさそうに私を見ていた。
「遅くなって申し訳ない」
作成日: 2006/12/30
王妃は ふっと目を開け、イローナを見る。その目に憎しみの色が浮かんだ。
「止めなさい」
高い声が飛んだ。イローナは凍りついたように動かない。
王妃の背後から、声が聞こえた。
「気に入らないって顔ね、お姉さま。若くて、美しくて、素晴らしい声」
「品のない村娘に、嫉妬なんかしないわ」
カーテンの間から、なんと、何もかもがそっくりなもう一人の王妃が現れた。二人は頬を合わせて内緒話をする。でも、耳の遠い私にも不思議によく聞こえる。
「そう。私は羨ましいわ、殺したいほど」
「羨ましくなんかないもん。ただ、あの娘は私を侮辱した。それが許せない。自分の世界に浸り、目の前にいる私を無視した」
「殺そ」
「うん、殺そ」
声もそっくり。どちらがどちら。考えるのが無駄。
「驚いた?私たちは二人で一人。一人が出れば一人は影になる。昨夜抱いたのがどちらか、王様も知らない」
「驚いた?一人がいれば、一人は死んでいる。一人が死ねば、一人が生き返るの」
「ふーん、どうして、あたしが秘密をあなたに話すのか不思議?」
王妃は階段を1つ降りる。笑うととても愛くるしい。こんなに美しい悪魔がいる。
「秘密ってすごく話したくなるものなのよ」
王妃が、階段から降りてきて、イローナのあごを掴む。
「あなたのような空っぽの女には分からないわね」
王妃が笑いながら続ける。
「それに、あなたはもうすぐ死ぬの」
「あんたなんか死んでも、世の中は何にも変わらない。歴史の闇に落ちていくゴミなの」
王妃が歌うように言う。
「私はゴミじゃない。生きています。今、ここに」
イローナが言った。
「許可なしで、喋っちゃだめ。それじゃ、許可します」
「助けてください」
「そうよ、素直にそう言えばいいの。だ・け・ど、だめ。私たちの秘密を知ってしまったからよ」
「いやなの、あんたみたいな子がいるのが。いると思うだけで私を傷つける」
王妃「お姉さま、そんなことはどうでもいいじゃない。殺そ、鏡の部屋が空いているわ。あの迷路で狂いなさい」
「そうね、鏡の部屋で狂いなさい。そして、その後、素敵なショーに出てもらうわ」
「ショー、ストーリーは、配役は、当然、都から呼ぶのね」
「配役はお城中にいるの。だけど言わない。知らない方が楽しいわよ」
「そうね、私、すっごく、暇だったの。何でもいいわ、暇な時間を埋めてくれるものなら」
歓声があがる。王妃が窓から外を見る。私も王妃と並んで窓の外を見る。兵の一軍が、門から入ってくる。
「ああぁ、退屈な男が帰ってきた」
「敵のクビをいっぱい馬に括り付けて。野蛮で汚い男。今夜は、あんたの番だから」
「添え寝してあげたら、赤ん坊のように寝てしまう」
「ええ、王様も何時か殺してさし上げます」
そっと肩をたたかれた。宿の主人が本当に申し訳なさそうに私を見ていた。
「遅くなって申し訳ない」
作成日: 2006/12/30