創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

ときめきに死す 丸山健二著 2

2017-10-27 17:24:21 | 読書
年をとるとテレビを見ている時間が長くなる。
『ドクターX』を観ている時、役者のまわりを動いているエキストラの方がはるかに多いのにふと気づいた。
あそこにも、ここにも、一杯いる。
それぞれがそれぞれの役を担っている。
社会の縮図みたいだ。
主役と相手役、そして無数のエキストラ。
私達の殆どがエキストラであろう。
一生主役になれずに死んでいく。
主人公はそんな自分にあらがっているように思えてならない。
丸山健二氏の30年以上前の作品です。
とても読みやすく面白い作品です。
映画にもなっているようです。

ときめきに死す 丸山健二著

2017-10-25 16:30:31 | 読書
良くも悪くもない生活。
『ときめき』のない生活。
しかし、安全な生活。
そこにあるのは、
つまらない仕事。
平凡な家庭。
このまま年を重ねるのかという不安。
なんのために生きているのか。
そんな思いに自尊心が拍車をかける。
そして、あっという間に時間が過ぎる。
一日が、一年が、10年が、一生が過ぎる。
同じページがパラパ漫画みたいに過ぎていく。
自分の人生がこのまま終わってしまうのではないかという不安。
世の中が悪いと言い、
組織が悪いと言い、
運が悪いと言う。
滅多に自分が悪いとは言わない。
そこで、私は、この小説の主人公である『私』に質問する。
「どんな人生があなたにとってbestなのか? 『ときめき』なのか?」
小説は、『私』の『ときめき』を具体化してくれるかもしれない青年との不可思議な出会いから始まる。
そこで『人生のときめき』に出会えるかもしれない。
今、丸山健二氏の最新作『おはぐろとんぼ 夜話』を読み始めています。
多分活字より空白の方が多い小説。




『失われた図書館』 A・Mディーン著池田真紀子訳 集英社文庫

2017-10-20 10:55:51 | 読書
図書館の新刊コーナーにありました。
題名にひかれて借りました。
紀元前3世紀初め頃に世界一の英知の宝庫となり7世紀に忽然と消えたとされている伝説の図書館
-古代アレクサンドリア図書館-は、いまも存在している。
世界史に全く無知な私もわくわくする設定です。
主人公エミリー・ウェスと共に、ノンストップの推理と冒険の旅に。
テンポよく解かれていく謎。
理路整然とした推理。
主人公の魅力。
絶対のおすすめです。


人生の一番よい時

2017-10-13 10:20:11 | エッセイ

年老いて「あの時が人生の一番よい時だった」と思うことがある。
しかし、その最中はそんなことを1ミリも思わない。もっといい日が来ると思っている。
誰でもそうだと思う。
だが、ほとんどの場合、そんな日は二度と来ることはない。
唐突だが母のカレーのことを話そう。
実家が喫茶店をすることになり、母がカレーを作った。
ジャガイモごろごろのカレーではなく、本格的なカレーである。
作り方は母の秘中の秘であった。
リンゴを擦りこむらしい。時々入れ忘れたので味が微妙に違ったという。
とにかく客に大好評で母は鼻高々だった。
喫茶店を開いたいきさつや、母が何故カレーを作ることになったのか詳しいことを僕は知らなかった。
その頃は、四国で悪戦苦闘していた。
実社会の荒波にもまれていた。
学生時代の青臭い理屈は吹き飛ばされ、まさしく、「お母ちゃんと」海に向かって叫びたいような日々だった。
そうして11月に挫折。家に帰った。することもなく日々を過ごしていると、三島由紀夫が死んだ。
4月の研修で車窓から市ヶ谷を眺めたことがある。あそこで自決した。
ある日、テーブルの前に腰かけてぼんやりしていると、目の前ににカレーの皿が置かれた。
「食べ」
母はそう言って、ちょっと後ろを向いて目頭を押さえた。
弟が盛んに言っていた母一流の「演技」だ。
僕が意気消沈ていたのは確かだった。でも、就職に失敗したからではなかった。
どうしてもこっちを向いてくれないガールフレンドに落ちこんでいたのである。
母のカレーは美味しかった。
「おいしいやん。あほみたいに」
あほな息子は言った。
「せやろ、ものすごい評判なんやで。近くの会社の人がみんなカレー、カレーやねん」
嘘泣きの母は嬉しそうに笑った。
新しい事業(喫茶店)に自分の作ったカレーが好評なのがとても嬉しく、自慢だったのだろう。
母55才。僕24才。
今から思うと、 
母と僕の「人生の一番よい時だった」のかもしれない。