創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

文藝春秋 2014年 02月号

2014-01-31 18:11:34 | 読書
村上春樹の新作短編小説目当で「文藝春秋」の電子本を2013/11、2014年 01月号を購入しました。一月遅れを図書館で借りるか、単行本になって購入するかと思っていました。年金生活者ですからね(それも来年から引き下げ。消費税が上がる=物価が上がるのに)。今月号も「死を自覚して初めて辿りついた思いと苦悩・オウム死刑囚「井上嘉浩」の獄中手記・門田隆将」に興味があり購入しました。感想は、理由はともあれ、人の身になって考えることが出来なかったということです。痛いし、苦しい。それをリアルに感じることが出来なかった。立ち止まっていればと残念です。
その他にも「スタジオジブリ30年目の初鼎談 高畑 勲/宮崎 駿/鈴木敏夫」がとても面白かった。
「山田洋次/倍賞千恵子 寅さんが消えた現代の家族」もよかった。
さて、村上作品(女のいない男たち3村上春樹 木野)ですが、今回は、著者独特の世界が展開されています。終盤は、息がつまるほどの緊迫感があります。少し本を置いて深呼吸しましょう。やはりただ者ではない。
それ以外はやっぱりつまらん!




今昔物語・福永武彦訳

2014-01-30 16:54:53 | 読書
読み終えて、平安時代末期の世界を俯瞰したような気がしました。「今昔物語」から題材を取った芥川龍之介の作品と読み比べるのも興味深いですね。一言で言うと芥川龍之介の作品は理屈っぽい。「今昔物語」は単純です。「こんな話がある」だから「こうしなければならない」。こんな話が抜群に面白い。また、「なぬ? これの何が面白いのだろう」と戸惑うのも又面白い。どっぷりとつかりました。

連載小説 トリップ 七回 音の旅 「海」

2014-01-21 15:41:28 | 創作日記
連載小説 トリップ 七回 音の旅 「海」

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 砂浜に出た。腰を下ろして海を見ていた。静かな海だった。この町を飲み込んだ津波を想像出来ない。海岸線の遙か向こうに見える建物は原発だ。蜃気楼のように浮かんでいる。 放射能は見えない霧になってこの町に降り注いだ。町は無人になり、誰も帰ってこなかった。今町に住んでいるのは、それを承知でこの町にやって来た人々だ。
 僕は砂を払って立ち上がった。波打ち際まで歩いた。砂浜には誰もいない。打ち寄せる波だけが時を刻んでいた。小さな蟹が忙しげに歩き、波にさらわれ消えた。真っ直ぐに歩けば泳げない僕は溺れて死ぬだろう。そうしても良いような気になった。誰も数秒前まで津波に飲まれて死ぬとは思っていなかった。不意に目の前の海が盛り上がり、僕をめがけて襲ってきた。僕は両手を広げてそれを待った。しかし、波は僕の足先を洗って静かに引き返して行った。
 僕は足跡を辿るように引き返した。また、腰を下ろし海を見ていた。冬の海は暗い。僕の視界で動くのは鳥だけだった。空に消え、海に消え、何度も同じことを繰り返していた。同じ鳥ではないだろうけど、僕には同じ鳥に見えた。

連載小説 トリップ 六回 音の旅 「M美術館」

2014-01-16 14:58:40 | 創作日記
連載小説 トリップ 六回 音の旅 「M美術館」

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 この店でカードは使えるのだろうか? 僕はおずおずとカードを出した。店主はちらっとカードに目をやった。そしてカードを僕に返した。
「ホテルに回しておくよ」
僕はほっとした。僕は余所者で、この町にはホテルは一軒しかないのだろう。
「百円玉で千円、貸していただけないですか?」
 僕は勇気を出して言った。小銭が必要だった。主人は何も言わずに釣銭トレーに小銭を落とした。僕はコインをポケットに入れて店を出た。
 雪が風に舞っている。風花というのだろうか。少しも寒くなかった。道端にM美術館の案内板↑があった。小径を辿るといつの間にか森の中に入って行った。道には枯れ葉が厚く積もっていた。ピューと風が吹く度に枯れ葉が舞い落ちた。
 小径の行き着く先にM美術館があった。今、何時だろう? 時計を持たない僕には分からない。閉まっていれば引き返せばよい。旅の日数は決まっていないのだから。
 僕は古い木製のドアを押した。
 エントランスホールには誰もいなかった。カウンターに置かれた木箱に入館料二百円と書いてあった。僕は百円玉を二つ落とした。
 展示室は一つだけで、Mの作品が並んでいる。Mを紹介するパネルには、喘息の転地療法でこの町にいたこと。この町で三十五才で病死したことが簡単に書いてある。作品は殆どが都会の風景画でこの町の風景ではなかった。一枚だけ人物画があるがモディリアーニの模写である。僕はその絵に会いにやって来たのだ。しかし、絵はなかった。代わりに一枚の張り紙があった。
ーモディリアーニの模写(ジャンヌの肖像)は書庫にありますー
展示室の奥にドアがある。ノブを回したが、鍵がかかっていた。その時、ドアの向こうでピアノの音がした。ノックすると、ピタリと音は止んだ。ピアノの音は部屋の静謐を呼び覚ましたようだった。僕の気配もその静けさの中に溶けて消えてしまった。引き返すしかなかった。

 運河を下って行くと君は海に出るはずだ。そこで直線が切れるように町は終わる。振り返ると高台にある白い小さなホテルに君は気づくだろう。

連載小説 トリップ  五回 音の旅 「柳亭」

2014-01-11 14:30:22 | 創作日記
トリップ 五回 「音の旅」 柳亭

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 川沿いに大きな柳の木があった。植物の名前をほとんど知らない僕でも柳は分かる。細い枝が地に向かって伸びている姿は僕に幽霊を連想させた。無数の細い枝が、冬のかすかな弱い光の中に垂れ下がっていた。女の幽霊の細い手のようだった。
 柳のそばに農家の藁屋を改造したような小さな店があった。居酒屋「柳亭」。コーヒーの香りがする。営業しているようだ。一人で喫茶店に入るなんてことは一度もなかったのに、コーヒーの匂いに誘われるように僕は板張りの引き戸を開けた。
 カウンターだけの店だった。四、五人の客がいた。誰も僕の方を見ない。新聞を読んでいる男、煙草を吹かしている女、テレビを見ている男。みんな勤め人のようだった。僕は一番端の席に腰を下ろした。その時、音を立てて、コーヒーと半分に切った分厚いトーストとゆで卵が目の前に置かれた。見上げると、老人の顔があった。「柳亭」の主人だ。僕はこの男を知っている。彼は何も言わずに行ってしまった。
 客は一人二人と席を立った。そして、引き戸を開けて出ていった。終着駅からどこかに向かって。僕は黙って分厚いトーストを食べた。焼き加減は僕の好みだった。コーヒーを一口飲んだ。実においしいコーヒーだった。ゆで卵を一口囓った。完璧なゆで卵だった。モーニングサービスを食べること。それはいくつかの町の情景を僕の頭の中に浮かび上がらせた。最初は小さな美術館だった。

連載小説 トリップ 四回 音の旅 「空白の街」

2014-01-08 14:01:57 | 創作日記
トリップ 四回 「音の旅」 空白の街

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 目を覚ますと、窓の外は明るくなっていた。相変わらず車内は僕一人だった。そろそろ着く頃だろう。僕はショルダーバッグを網棚から下ろした。終点だから、乗り過ごすことはない。列車はスピードを緩め、やがて停まった。窓を開け顔を出すと線路が途切れていた。
 駅前に潰れてしまったのか開店前なのか分からない寂れた店が数件かたまっていた。その遙か向こうにイオンの巨大な看板が見えた。
 ここには何度も来た筈だが、初めての場所のように町の地図は空白だ。僕は頭が悪いから過去の事はすぐに忘れてしまうのだろう。君はそれは良いことだというかもしれない。いつも新鮮な時間を生きていける。しかし、過去がなければ自分が何者か分からなくなってしまう。過去を忘れても僕は過去を引きずっているのだと思う。
 道を真っ直ぐに歩くと、川に突き当たる。多分。こうして、記憶にはないが少し懐かしい匂いのする場所を辿り始める。

                               以下次回

連載小説 トリップ 三回 音の旅「鷺」

2014-01-06 09:21:46 | 創作日記
トリップ
三回 「音の旅」 鷺

   『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 月に一回は旅行をする。訪れるのは小さな村だ。村も宿もいつも同じ。僕は都会での生活のコピーを村で行っているだけのことかもしれない。
 ショルダーバッグの中に旅の準備は全て入っている。午前0時発だからそろそろ出かけなければならない。「やめろ」。不意に誰かが耳元で囁く。「部屋にいる方が安全だよ」 
 僕は商店街を通り抜ける。全ての店がシャッターを下ろして押し黙っている。一月の風は冷たい。「やめろ」。声はまだ続いている。改札機にICカードを当てる時、声はもっと大きくなる。僕は耳を両手でふさいでホームへの階段を上がった。
 ホームには誰もいない。青い車体の列車は到着していた。一両だけで、とても古い列車だ。運転席に誰もいない。僕は列車に乗り込む。いつものように誰も乗っていない。車窓から見るホームの時計の短針と長針がやがて12で重なる。午前0時というのは不思議な時間だ。今日の終わりで明日の始まり。列車はゴトンと揺れて動き始めた。
 僕は旅の途中で眠らないと決めている。どこか、知らない場所に、それも帰ってこれない場所に連れて行かれるような気がするからだ。でも、いつも眠りに落ちてしまう。
「申し訳ありません。切符を拝見します」
 車掌が立っていた。彼は白い帽子を目深に被っていた。今まで改札に来たことはなかった。降りる駅には自動改札はなかったが、代わりに箱形の検札器があった。僕はICカードを示した。
「困りましたねぇ。現金で精算を願いたいのですが」
 車掌は鳥みたいに両手をパタパタと羽ばたかせた。二千円で足りないのは分かっている。ICカードを財布にしまって黙っていることにした。「詐欺だ」。車掌の格好をして騙そうとしている。気がつくと車掌の姿は消えていた。列車は停まっている。プラットホームに鷺が一羽歩いていた。「やっぱり詐欺だ」。鷺は羽ばたき、空に消えた。鷺の消えた空を眺めると、無数の星空だった。列車はゴトンと揺れて動き始めた。
 星空が続き、いつの間にか月が道連れになった。僕はまた眠りに落ちていった。

連載小説 トリップ 二回 プロローグ「カード」

2014-01-04 10:35:28 | 創作日記
連載小説 トリップ
二回 プロローグ「カード」

          ピエト・モンドリアン

 僕は仰向けに寝転がった。天井の高さは二m弱。とても低い。屋根裏部屋といった方がよいかもしれない。低い天井を見つめていると、自分が誰かに飼育されているような気がしてくる。
 勿論、三種の神器だけで生活は出来ない。金も必要だ。だが、僕は現金を殆ど使わない。カード専門だ。財布には折り畳んだ千円札二枚とカードが一枚入っている。カードで電車に乗れるし、買い物も出来る。コーヒーの自動販売機もOKだ。お釣りの心配もない。
 カードには過不足なく、多分、自動的に一定の金額が追加される。これは父と僕をつないでる唯一の電線みたいなものだ。
 スーパーマーケットでもカードは使える。歩いて行ける距離にイオンがある。僕は巨大なスーパーマーケットで買い物をするのが好きだ。ゆっくりと選んで、バーコードで読み取り、カードで支払う。
 住と食はそれでよいだろう。だがと君は言うかもしれない。人間関係は? 特に女性は? と聞くだろう。男性として性欲は当然ある。それもオートマチックに処理されている。月に一度女性が派遣されて僕の部屋にやって来る。きっちりと性欲は処理される。彼女らは処理が終わるとさっさと帰っていく。間違っても夕食を作るなんていうことはない。僕は結婚とかデートとかに惑わされることはない。僕には社会はない。狭い部屋が全てだ。
 仕事?。これを仕事といえばの話だが。ショート・ストーリーを書いている。書き終わると送信ボタンを押す。パソコンにショート・ストーリーの痕跡は残らない。それがどこへ送られるのか、どのように利用されているのか僕は知らない。ゲームになっているのか、本になっているのか、捨てられているのか。
 つい最近、送信ボタンがブログ投稿というボタンに変わっていた。気づかなかっただけで前から変わっていたのかもしれない。押すと、「ブログに投稿しました」というメッセージが出て元の画面になった。
 本屋でブログについて調べた。
【ブログ】個人が身辺の出来事や自分の主張などを日記形式で書き込むインターネットのサイトやホーム-ページ。
 これで、僕は誰かにメッセージを送っている可能性が出てきた。あくまでも可能性だ。届いた先には誰もいないのかもしれないし、千人が見ているのかもしれない。

                                         以下次回

連載小説 トリップ 一回 プロローグ「三種の神器」

2014-01-01 11:24:05 | 創作日記
あけましておめでとうございます。今年から新連載小説をはじめます。焦らず一週間に一度ぐらいの更新でいこうと思います。

連載小説 トリップ
一回 プロローグ「三種の神器」

             ピエト・モンドリアン

 僕の部屋の説明をするためには、君が僕の部屋を訪ねたと仮定することから始めるのが分かりやすいだろう。
 君は、まず表札を見る。僕の名前を確認してノックする。どの部屋も同じ色の同じ形のドアだからこのことはとても大切だ。君の訪問のために鍵はかかっていない。ノブを回して中に入る。玄関で靴を脱ぐ。右側がトイレと風呂場になっていると思うだろう。その通りだ。左奥に冷蔵庫と小さなキッチンが見えるだろう。短い廊下を歩いてワンルームの和室に入ると、殆ど何もないのに驚くだろう。テレビもエアコンもない。部屋の真ん中に文机がぽつんと置いてある。それがやけに目立つ。抽斗に小さなノートパソコンが入っているのだが、勿論、君は抽斗を開けたりはしない。
 小さな窓が一つあり、窓際にベッドがある。シーツはビジネスホテルの使用前の状態にきっちりとたたまれている。
 君は窓を開けてみる。隣の壁が目の前に迫っている。手を伸ばせば粗壁が触れるだろう。君は何故か急いで窓をしめる。
 この部屋には最低限の生活用品しかない。君は奇妙な疲れを感じて座り込む。その時、僕が帰ってくる。挨拶もなしで僕は「食事は三種の神器を使うのだ」と説明する。IH調理器(ガスは使わない)、電子レンジ(オーブン機能はついていない)、卓上型食器乾燥機(食器入れの代わりにもなる)。これで僕の部屋の説明は終わりだ。僕は君を玄関まで送っていく。さよならの挨拶もなくドアは閉まる。君は僕の部屋を訪れた最初のそしておそらく最後の人になる。