次に、騒がしい音を立てて、背広姿の男達が入ってきた。年配の男を先頭に、若い男が三人その後に続いた。男達は部屋の奥に向かって横並びに坐わった。一番左の年配の男が口を開いた。
「えらい暑い日にご足労かけます。私、木村均(ひとし)と申します。右に並んでいるのが長男から三男です。他に娘が二人おります。貧乏人の子だくさんで。何してんねん、はよ自己紹介せんかいな」
ぼけっとして坐っていた息子達が順番に名のる。
「私で、庄屋は十八代目らしいですわ。最初は室町時代でっか。家が大きいてええな思うの大間違いでっせ。掃除も大変、マンション住まいが夢なんです。まあ、かなわへんやろけど」
庄屋屋敷は、町の文化財になっている。もちろん、顔を見るのは初めてだった。
「今夜は百年ごとの「虎追い」です。えらい時にあたったなあ。虎は普段は屏風の中で大人しうしてるんやけど、まあ、池の水を飲みに行く程度ですわ。百年に一回は、追い出して、しっかり、捕まえて、屏風に閉じ込めなあかんちゅんが始まりらしいんですわ。せやないと、村中の人間が食い殺される。まあ、伝説やけど。それで、皆さんにお願いしたわけでございます。ええっと」
僕の方を見て言葉につまっている。
「団地の岩田です」
僕は頭を下げた。
「そうそう、岩田はんやった。岩田さんには「虎追い」の見届け人をお願いします」
「何をするんですか?」
僕は聞いた。
「見とったらええんや」
長男が威圧的に言った。
「あほみたいにな」
次男が笑いながら言った。
「お客様に失礼やろ」
そう言いながら、庄屋も笑っている。帰ろうかと思った。
「次は、お嬢ちゃん。虎を追い出すんは、虎が懸想するぐらいの別嬪で十七才以下の生娘と決まってまんねん。十七才以下はようけおんねんけど、生娘がなかなかおらへん。うちの娘もあかん」
庄屋は頭をかいた。
「別嬪ちゅう条件にも当てはまらへんわ」
三男が言った。庄屋は、「それもそや」と、笑っている。
「ほんで、小夜ちゃんにお願いしたんや」
娘は無表情にうなずいた。
「最後は、飛び出してきた虎を捕まえる役や。前回の明治の時は、十市(とういち)村の十両の力士がやったらしい。せやけど、今回は横綱や。八郎君頼むで」
八郎と呼ばれた青年は、体を震わせて、頷いた。そして、小さな声で言った。
「横綱いうても、指相撲の横綱や」
「えらい暑い日にご足労かけます。私、木村均(ひとし)と申します。右に並んでいるのが長男から三男です。他に娘が二人おります。貧乏人の子だくさんで。何してんねん、はよ自己紹介せんかいな」
ぼけっとして坐っていた息子達が順番に名のる。
「私で、庄屋は十八代目らしいですわ。最初は室町時代でっか。家が大きいてええな思うの大間違いでっせ。掃除も大変、マンション住まいが夢なんです。まあ、かなわへんやろけど」
庄屋屋敷は、町の文化財になっている。もちろん、顔を見るのは初めてだった。
「今夜は百年ごとの「虎追い」です。えらい時にあたったなあ。虎は普段は屏風の中で大人しうしてるんやけど、まあ、池の水を飲みに行く程度ですわ。百年に一回は、追い出して、しっかり、捕まえて、屏風に閉じ込めなあかんちゅんが始まりらしいんですわ。せやないと、村中の人間が食い殺される。まあ、伝説やけど。それで、皆さんにお願いしたわけでございます。ええっと」
僕の方を見て言葉につまっている。
「団地の岩田です」
僕は頭を下げた。
「そうそう、岩田はんやった。岩田さんには「虎追い」の見届け人をお願いします」
「何をするんですか?」
僕は聞いた。
「見とったらええんや」
長男が威圧的に言った。
「あほみたいにな」
次男が笑いながら言った。
「お客様に失礼やろ」
そう言いながら、庄屋も笑っている。帰ろうかと思った。
「次は、お嬢ちゃん。虎を追い出すんは、虎が懸想するぐらいの別嬪で十七才以下の生娘と決まってまんねん。十七才以下はようけおんねんけど、生娘がなかなかおらへん。うちの娘もあかん」
庄屋は頭をかいた。
「別嬪ちゅう条件にも当てはまらへんわ」
三男が言った。庄屋は、「それもそや」と、笑っている。
「ほんで、小夜ちゃんにお願いしたんや」
娘は無表情にうなずいた。
「最後は、飛び出してきた虎を捕まえる役や。前回の明治の時は、十市(とういち)村の十両の力士がやったらしい。せやけど、今回は横綱や。八郎君頼むで」
八郎と呼ばれた青年は、体を震わせて、頷いた。そして、小さな声で言った。
「横綱いうても、指相撲の横綱や」