私より10歳ほど年長で、既に定年迄勤め上げた後、第二の人生を送っている人生の先輩がおられる。部位は違えど同じ病である。
客観的に見て、きちんと職務を全うさせられ今も現役でおられるのだから、恵まれた人生だったのではないかと思う。
術後の抗がん剤治療の副作用がきつく、痺れや爪の不具合が残っているらしい。ご本人は自覚症状があるし、再発を疑われているととても心配しておられ、半年検診、1年検診のタイミングで今も私にメールで報告をしてくださる。
再発のことはいくら心配しても仕方ないし、ステージが低くても私のように再発する時は再発するし、逆に進行していても無事卒業される方も沢山いらっしゃるわけだから、あまり気に病まない方がよいですよ、と私が日頃思っていることをお伝えしてきた。
結果、「今、病院でCT結果を聞きました。再発転移の所見はないとのこと。大丈夫で安心しました。良かった・・・」というメールが飛んでくる。「検査の結果がよろしかったようで、何よりでした。」とお答えする。
ここまでは、特になんのことはない日常のやりとりなのだけれど、毎回それを強調されると、はて、その方よりも20年以上早く発病し、いまだ定年まで働けるかどうかわからないエンドレスの再発治療を続けている私に、それを繰り返し伝えてくるということはどういうことなのだろう、とちょっと穿った見方をしてしまう。
もちろん、自分が元気で安定した体調の時には、簡単に受け流せるのだけれど、こと治療の副作用等で体調が悪い時にそんなことになると、いけない、いけない・・・と思いつつも、もし、私が再発していなかったら、再発して治療を続けている方に対して「検査で再発していませんでした。良かった!」なんてことはそうそう軽々しく言えないし、わざわざメールで報告なんて出来ないよな、と思う。
再発したら人生終わり、ではない。再発後からの方がむしろ長いかもしれない。なるべくQOLを下げないように、自分で体調管理をしつつ、自分の人生と向き合いながら少しでも生き長らえるための日々が始まるわけだから。
そこで、思い切って「・・・再発転移のある患者に対して、『再発転移していなくてほっとした』とか『よかった』というお言葉はあまり発せられない方がよろしいかと思います。もちろんお気持ちは良く分かりますが。患者会等でもその言葉はよく耳にします。正直な気持ちでしょうけれど、エンドレスの化学療法つまり延命治療から逃げられない再発・転移組にはとても辛く聞こえます。」とお返事をしてみた。
果たしてそれに返ってきた答えは「大丈夫です。一喜一憂をするタイプではありませんので。あらゆることは天命だと思っていますから。」であった。
ああ、私はよほどコミュニケーション能力が低いのか、とちょっと頭を抱えてしまったのである。