金曜日。東京の寒かったこと。朝から予報通りの冷たい雨が降り続き、日中も殆ど気温が上がらなかった。地元は10℃に達しなかった模様。真冬日だ。それでも傘を差して会議のため東京横断出張。
朝からお腹は快調すぎるほどで、不安とともに出勤した。仕事を片付け、昼前にこわごわと電車に乗る。途中乗換駅で暖かいオーブン料理のランチと紅茶を頂いてほっとしたのも束の間、いきなり腹痛、下痢。お手洗いでげっそりし、ようやく落ち着いたのを見計らってJRに乗り換え。なんとか次の乗換駅に辿り着き、ここでもまたお手洗いへ。大分余裕を持って出たものの電車が遅れており、結構ぎりぎりに出張先に到着。会議の前にもまた・・・である。お腹はすっかり空っぽで力が入らない。会議中どうかお手洗いに立たずにすみませんように、と祈る思いで過ごした。
ようやく会議が終了し、再び態勢を整えて土砂降りの雨の中、帰路に就いた。喉は渇いているが、また落ち着きつつある腸が動き出しては、と心配で水分も我慢する始末。
出張で普段より帰りが遅くなるから、夫と待ち合わせて夕食は外で、と思っていたけれど、とんでもなかった。帰りの電車の中でも落ち着かず、乗り換える度にお手洗いにゴー。寒いし、お腹は痛いし・・・直帰出来たのがせめても、である。夫に待ち合わせ断りのLINEを入れ、とほほの思いでなんとか帰宅した。
洗濯物を片付け、鍋焼きうどんでも作ろうと食材を出してから、ちょっと横になる。
夫が私より遅れて帰宅し、出ていた材料で夕食当番を引き受けてくれた。げっそり疲れて食後はソファでうたた寝。明日からの関西行きの支度もしなくては・・・と寝ぼけ眼でのろのろ起き出し、衣類出しだけしてパッキングは夫に任せ、入浴後、ベッドに入った。
土曜日。夜中にお手洗いに起きずに明け方まで眠れた。今朝はほぼいつも通りに起床。ベッドの中で朝の連続テレビ小説は叶わず。お腹は大分元に戻っていてほっとする。洗濯機を廻し、部屋干しと浴室衣類乾燥をセットする。外は土砂降りの雨だ。寒い。タクシーを呼んで駅に向かう。
お腹が心配だから、途中下車するかもしれない時間も含めて予定より大分早い電車に乗った。昨日に懲りて朝食を控えたせいか無事に新幹線乗換駅に到着した。新幹線の発車時間まで30分ほどあったので、駅から出てお茶でもしようと夫は言うが、ここでまたお腹を動かすのが心配なので、待合室でひたすら読書で時間を潰す。今日のお伴は佐々木譲さんの「沈黙法廷」(新潮文庫)。
ホームに上がると雨風が酷い。寒いとまた腹痛が再燃する。新大阪行きの新幹線は満席だ。いつもは車内販売のお世話になるが、それもパスして読書を続ける。
息子が大学キャンパス近くの寮に越して以来、京都で降りるのは久しぶりだ。富士山はあいにく雲がかかっててっぺんが見えなかったが、最初の停車駅・名古屋を過ぎる頃からすっかり青空が広がっている。
予定通り2時間かからずに京都駅に到着。ホームに降りて暖かさにびっくり。これはジャケットもストールも要らないではないか。雲一つない青空が広がり、東京のあの荒天は嘘のようだ。それにしても、こんな穏やかな気持ちで京都を訪れられる有り難みをしみじみ思う。これまでは、息子の卒業やら留年やらなんやかんや心にひっかかる事があった。心の底から観光を愉しむことが出来たのは入学した最初の年くらいだったのではないか。それに、これからは下宿代も授業料も要らないと思うと、なんとなく肩の荷が下ろせた開放感で満たされる。
今回は紅葉ベストシーズンど真ん中に駅ナカホテルが運良く予約出来たので、まずは荷物を預け、身軽になる。せっかく来たのにどこにも行かないのはもったいない、と夫が夜の定期観光バスを予約してくれていたので、まずはチケットセンターでお支払い。ちょうど昼食の時間で、駅地下飲食店エリアは大混雑。少し離れた方がいいね、ということで京都タワーに挨拶してから歩き始める。ジャケットを着込んで歩き出したら汗ばむほどのぽかぽか陽気。最高気温21度だという。上着はすっかり荷物になってしまう。
お腹の調子を考えるとあまり食欲はないし、ガッツリ重たいものはとても頂けない。ふとベトナム料理店が目に入り、フォーを頂くことに。お店は広々と静かで、ラッキーだ。優しい味わいで暖かくお腹にもグッド。夫はフォーに加えて丼や生春巻きも頂いてひとまず満足。完食は出来なかったけれど、食後にまたお手洗いに籠もる羽目にならず、胸をなで下ろした。
息子は明日の合唱コンクール全国大会に備えて午後からの練習に向かっているとのこと。明日の本番後、ちょっと会えるという。
チェックインまで若干時間があったので、お散歩方々夫が以前一人で行ってなかなか良かったという渉成園を訪れた。真宗本廟(東本願寺)の飛地境内地(別邸)である。立派なカラーのパンフレットを2種類頂く。この庭園の名前こそ覚えていなかったが、京都タワーをバックに太鼓橋がかかる池と庭園の風景を見て、かつて夫が写真を送ってきてくれたことを思い出した。
とにかく日差したっぷり日傘が欲しいほどの小春日和で気持ち良い。訪問客もそれほど多くなく、静かなのも良い。まだ紅葉が真っ赤に染まり切ってはいなかったけれど、澄んだ池の水面はきらきらと美しく、お尻を上に突き上げて池の中に顔を突っ込む鴨たちの動きも可愛らしかった。小一時間の間、池泉回遊式庭園の散策を堪能。帰りには東本願寺を本山とする父の仏前に、と母に東本願寺オリジナルのお干菓子やお線香を買い求め、ホテルに戻った。
途中、紅葉シーズンでごった返している駅前で、なんと夫の職場の知人にばったり。お伊勢参りの帰りに寄ったとのこと。ちょうど陛下の行幸で内宮は参拝出来なかったけれど、と仰っていた。それにしてもまさかこのタイミングで、この場所で会えるなんてどれほどの確率だろう。凄いご縁である。
チェックイン後は夕方のバス観光出発まで部屋で小休憩。夫は好物の和菓子をたっぷり頂き、あっという間に気持ち良くお昼寝中である。かくいう私は、こうして休むべき時間にちまちまと記事を綴っているから疲れるのだろうな、と思いつつ・・・。
“ライトアップ京の紅葉・特別拝観”と称して醍醐寺と小野小町ゆかりの随心院のコースに参加し、さきほど帰ってきた。所要時間は約3時間半。駅前のロータリーを出るのに20分近くかかった。ガイドさん曰く、今日は1年で1番渋滞する日なのだそうだ。どこにいってもバスやタクシーで大渋滞。今日訪れる2カ所はそれぞれ桜や梅の名所だが、紅葉では隠れ家的存在で、それほどの混雑はないとのこと。
バスは2台に別れ、私達は1号車である。最初は梅の名所として有名な随心院から。境内入り口には小野小町の哀愁に富んだ歌碑「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」がライトアップされている。絶世の美女だったけれど、それだけにあまり幸福な人生ではなかったとされる小町。晩年の姿を写した卒塔婆小町座像が鎮座していたのを見ると、ちょっと複雑な気持ちになった。私はしわくちゃになってもおばあちゃんになりたいわ、と夫に言う。ライトアップされた紅葉や、緑など様々な色で照らされた苔もとても幻想的だ。
続いて醍醐寺へ移動。まずは茶屋にて醍醐御膳を頂く。上品な京料理の数々はほぼ精進料理で、薄い味付けだ。夫は「では、次に何かメインディッシュがあるの?」と言うくらい。私も今のお腹の調子でほぼ完食出来たので、男性にはちょっともの足りなかっただろう。
食後、夜間拝観受付である仁王門まで皆で歩く。門をくぐるとライトアップされた紅葉のトンネルが迎えてくれる。わびさび幽玄という言葉を思い浮かべつつ、歩を進める。僧侶が「ようお参りくださいました。」と声をかけてくださる。国宝・金堂や同じく国宝・五重塔を見ながら、弁天堂を目指す。ここは醍醐寺の中でも特に紅葉の名所として知られているそうだ。池の周囲の木々が紅葉し、水面に映る姿は幻想的以外の何物でもない。思わず息をのむ美しさである。本堂からは特別法要の読経の声が響いてくる。皆が感嘆の声を上げながらスマホやカメラを向けている。いやあ、眼福、眼福。玉砂利の上を歩くと、痺れと痛みのある足裏は辛かったけれど、めげずに夫とともに沢山の写真を撮りながら、再びバスまで戻ってきた。
帰路、バスの中でアンケートの依頼がある。QRコードを読み取り、スマホで回答し、最後の画面をお見せすると、記念のノベルティグッズが頂ける仕掛けになっている。凄い世の中になったものである。ほぼ時間通りに再び駅前に戻ってきた。駅前では京都タワーが真っ赤一色にライトアップ。隣のビルも赤いし、クリスマスの電飾一杯の木々も赤く染まっている。ときめきプロジェクト、本日一日限りの紅葉バージョンだそうだ。
夫が「小腹が減った。ラーメンでも食べて帰ろうよ~」と言うが、「さすがにせっかくお腹が落ち着いているのにそれはちょっと・・・、でもお茶は飲みたい。」と駅ナカカフェに入った。1つデニッシュを買って一旦座った夫は、ちょっと食べたらもう少し欲しくなったと、結局また買い足して私にも味見をさせ、満腹になって戻ってきた。今日も元気だ、ご飯が旨い、健康な人、何よりである。
ということで、久しぶりの古都1日目の夜は、お腹一杯で、後は眠るだけ、である。