散日拾遺

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la luna, el sol

2015-12-28 16:32:18 | 日記

2015年12月28日(月)

 午後の散歩の足をちょっと伸ばして、駒沢公園を抜けてみる。年の瀬の午後は思いのほか空いていて、冬休みの子供たちが縄跳びだの何だのに興じる横を、自転車やランナーがまばらに通り過ぎる。速歩で母娘連れを追い抜いたとき、流れるような外国語が耳に入った。僕のほとんど知らない言葉なのに、なぜか自然に理解できる。

「違うの、ルナはフェミニーナなんだから、冠詞はエルではなくてラなのよ。いいこと?これはとっても大切なんだから。もう一度言ってみて」

「ラ・ルナ、エル・ソル」

「ムイ・ビエン!」

 振り向いてみると、母親とおぼしき女性はいかにもラテン系らしい目鼻立ちと肌の色、発育の良い小学6年生といった感じの娘さんは僕らと同じ顔立ちである。たとえば日本人男性と、スペインか南米出身の女性とのペア、生まれた子供に誇り高きスペイン語を伝えたくて、母親の言葉についつい熱がこもるといった感じか。でも変かな、そういう状況ならもっと小さい頃からスペイン語を教えてるよね?冠詞の性を理屈で説明するのも、今になって初めて教えるからこそか。じゃあいったい、どういう訳なんだろう?母と娘ではないのかしら?

 どういう事情にもせよ典型的であり象徴的である。母語を伝えようとする母の熱意が、あらゆる文化伝承の原動力なのだ。la luna, el sol. フランス語なら la lune, le soleil、ラテン系の言語では月が女性、太陽が男性である。いっぽうゲルマン語、たとえばドイツ語では der Mond, die Sonne と性が逆転する。北方の柔らかな陽光と皎々たる満月を思い浮かべれば、了解は難しくない。今年は38年ぶりとかのフルムーン・クリスマスだったそうだ。

 クリスマス/冬至/新年は暦の上でほぼ一致した意味をもち、ここから太陽の力が再生し復活に向かう。ラテンでは父、ゲルマンでは母、僕らはこの件に関してはゲルマンに共鳴する、太陽女神の末である。