散日拾遺

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スマホコンパスとSOC

2018-02-18 09:23:31 | 日記

2018年2月16日(金)

 スマホの案外な効用について書いたところで中断していたので、そこから再開。

 小学校一年生、つまり昭和38年から39年頃だと思う。スキー場に向かう列車が長いトンネルに入ったとき、父が用意の磁石を取り出した。磁針をよく見ていろという。列車が進むにつれ、針がゆっくり向きを変え始めた。時にピクンと痙攣するように振れながら、行きつ戻りつを繰り返す。

 磁針は常に南北を示すのだから、その向きが変わったということは列車の方向が変わったということだと、得意げに父が説明してくれた。この時期から数年間、父はしきりにこの種のボーイスカウト的な小ネタを伝授してくれたが、もちろんボーイスカウトではなく、幼年学校から士官学校にかけて教わったことが主であったはずである。両者には当然ながら共通要素がある。

 その時はふうんぐらいにしか思わなかったものが、思い返すにつれ次第に意味を帯びてくるのはよくあることだが、磁石体験にもそんなところがあった。ブレない不可視の軸を身に帯びていてこそ、現に自分の向かっている方向を知ることができる。単純だが重要なことで、近年話題のSOC(首尾一貫感覚)などにも、その心理応用のような面がある。最近は面接の中で、「ブレない軸」をときどき話題にしてみている。

 磁石を持ち歩けばいろいろ面白いことはあるはずだが、虫眼鏡と同じでいつも鞄に入れておくのも煩わしい(と言いつつ、虫眼鏡は常に鞄に入れているんだが)。ありがたいことに、コンパスアプリがスマホに用意されているのを先日知った。下記のような顔をしており、現在地の経緯度や海抜まで示される(画面外)のも、GPSで常に監視されることの根源的な薄気味悪さを割り切って受け容れれば、甚だ便利で面白い。

 先日、地下鉄の中でふと取り出してしばらく眺めた。三田線の上り電車が、目黒駅を出た直後に大きく東へカーブを切り、やや北寄りに戻って白金台、ついでまた北へ舵を切って白金高輪に着く。地上図を頭に描けば分かりきった経過だが、コンパスが確かにそれをなぞるのが無邪気に楽しく、やがて楽しい以上の何かが伝わってくるように思われてくる。

 御茶ノ水の室内では、思っていた以上に建物が南北軸から振れていることに気づいた。出先でむやみに歩き回るので、ときどきとんでもない迷い方をすることがある。我を折ってスマホのコンパスを使えば、都会の真ん中で遭難することは避けられそうである。

Ω