散日拾遺

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階層化・不平等と共同作業

2020-06-07 07:58:08 | 日記
2020年6月5日(金)

【マヤ文明遺跡か「最大・最古の公共建築」発見 米アリゾナ大の日本人教授ら】
 猪俣健・米アリゾナ大教授(考古学)らの研究グループが、メキシコ南部タバスコ州で紀元前1000年ごろに造られた遺跡を発見したと発表した。この地域などで栄えた古代マヤ文明の遺跡とみられ、中でも最古で最大の公共建築だと判明したという。成果は3日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。
 チームが調査に航空レーザー測量を導入した結果、同州アグアダフェニックスで大規模な遺跡がみつかった。南北約1・4キロ、東西約400メートル、高さ約15メートルの舞台状の広場(大基壇)の周囲には、中小の広場や舗装された土手の道9本、人工貯水池などがあった。
 大基壇の盛り土の量は320万~430万立方メートル(東京ドームの容積は124万立方メートル)と推定され、マヤ地域で後の時代に造られたピラミッド遺跡などを含めても最大の建築物だという。堆積(たいせき)物の分析から、紀元前1000年までに建造が始まり、約200年間で完成したとみられる。
毎日新聞オンライン2020年6月4日

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 地球上から未開・未知というものが消滅するにつれ、人が内側から腐食して立ち枯れになることを懸念するが、どっこいまだまだ秘境はあるのだと教わった気分である。
 情報源は一つのはずだが、コメントのニュアンスが少しずつ違って面白い。

● 猪俣教授は「権力者の登場や中央政府のような組織ができる社会の階層化が起こる前に、大建築が造られたことを示している。マヤ文明の発展や人類社会一般の変化を考える上で、非常に大きな意味がある」としている。(毎日)
 
● 研究チームは「社会的な不平等が小さくても大規模な共同作業ができることが示され、従来の文明観を覆す発見だ」としている。(朝日)

● マヤ王朝が確立後の西暦250~950年に、王の権力を誇示するために高く建てられたピラミッドとは異なり、平面的な構造が特徴という。定住生活が始まって間もない時期で、大規模な建築を共同作業で造り、集団の結束を高める役割があったとみられる。 (日経)

 研究者が文字通りどう語ったかも興味深いが、受けとる側の関心次第でポイントがみるみる拡散していくのが教訓的である。「集団の結束」(日経)、「社会の階層化」(毎日)、「社会的な不平等」(朝日)、どっち向きにどこまでアクセルを踏み込むか。
 いずれにせよ「古代文明に見られる巨大な建築物は、社会の階層化(=社会的不平等の構造化)の所産である」という命題が前提とされていることは明らかで、それに気づいて今さら目から鱗の落ちる自分は、歴史好きを自称しながら日頃どれほどボーッと年表を眺めていることかと恥ずかしい。
 こうしたことは時空の距離を十分とって眺めれば一目瞭然で、中世ヨーロッパぐらいまでなら援用も難しくはないが、近くなるほど全景が見えづらくなる。目を同時代に転じたらどうなるか。つまり「社会的な不平等を最小化しつつ、共同作業の規模を最大化することに、現代の民主主義は(あるいは社会主義は)成功した」と言えるか。
 トランプ氏も習氏も、それぞれ自分の指導下にそれが実現ないし進行していると主張し、反対派は反論するだろうが、これに関して真実を語る(あるいはせめてウソを少ししかつかない)指導者を見いだすことは難しい。メルケルが広く尊敬を集めるのは、できる限りウソをつくまいとする真剣な姿勢が、一貫して伝わってくるからではないかと思う。

 平等を維持しつつ、大きな共同作業を成し遂げること ~ 人類史の永遠の課題に違いない。
 そう思うそばから、下記のようなニュースが目に飛び込んでくる。これまた他国のアラはよく見えるし論うのもたやすいが、いったいわが国はどうかというのである。
 コロナ騒動を、メンバーの不平等を拡大するのではなく縮小するようなやり方で耐え抜くことに成功した共同体があるなら、それこそ賞賛に値する。

【米富裕層の資産、コロナ禍の3カ月で62兆円増える】
 過去のおよそ3カ月間で、米国の富裕層の資産が5650億ドル(約62兆円)増えていたことが分かった。同国の進歩的なシンクタンク、政策研究所が3月18日以降のデータから報告書をまとめ、今月4日に発表した。新型コロナウイルスの感染拡大で多くの米国人が経済的な打撃を受ける中、富裕層との格差が一段と広がった形だ。
CNNオンライン 2020年6月5日(金)

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