卍の城物語

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告白/湊かなえ

2009-04-14 01:21:31 | 
「告白」といえばチャットモンチ-のニューアルバムであるが、全く関係ない。
「かなえ」といえばFiction tellerのボーカルであるが、それも全く関係ない。

何かと話題の「告白」を読んでみた。
2009年の本屋大賞を受賞したり、2008年の週刊文春ミステリーベスト1とかで未だに売れているので前から読もうと思って後回しにしてたが、今回やっと買って読んだ。

とある中学のクラスの担任の女教師の子どもがプールで水死した。事故死と判断されたが、犯人はクラスの2人の生徒だった。そして女教師の復讐が行われた。
そんなストーリーです。
ミステリーだから詳しく書いても仕方ないですね。

文章は全て独白体になっている。
全六章からなり、第一章が女教師の告白。第二章が女生徒の告白。第三章が少年Bの母親の告白。第四章が少年Bの告白。第五章が少年Aの告白。第六章が女教師の告白。以上からなる。

テーマは少年犯罪と、母と子であろうか。

犯人を警察に引き渡したところで、少年法に守られて決して厳罰に処せない事を見越して、恐ろしい手段で復讐を果たす第一章の展開は素晴らしい。
ダラダラと全く関係のない話をしているようで全て関連しているという高い構成力が感じられる。
淡々と話しているようで、いかに子どもへの愛情が強かった事をふつふつと感じさせている。

少年A、B、女生徒と、本作に出てくる生徒はぶっ飛んでいる。かといってそんな少年少女がいないのかというと、残念ながら存在する。
個人的な中学生時代と比べてみると、少年A、B、女生徒の肥大化した自我には共感さえ覚える。
私もちょっと間違ったら殺人くらいしてたかも・・・、なんて思う。
そうならなかったのは、家族がいたからであり、犯罪は個人がしても連帯責任で家族が巻き込まれるのは容易に想像できたからである。
家族に愛情を感じず、それどころか憎しみでも感じていれば、一線を越すのは簡単な事かもしれない。

中学生という時期は本当に多感である。情緒不安定極まりない。
高校生ともなれば、ほとんど大人であり、学生という身分が幼稚にさえ成り下がってしまい、実際は自我を確立出来ている筈である。
近年、少年犯罪やら親殺しが増えているとかいわれているが、実際はそうでもないらしい。
インパクトが強い事件は増えただろうが、それは時代も関係しているだろうし、事件の詳細が一般人まで知れ渡るのは、通信機器の発達によるマスメディアの過剰報道からなるもので、事件の数はそんなに変わらないそうである。
特に家族間の殺人は古くからずっと続いているらしい。

西洋は「罪の文化」であるのに対し、日本は「恥の文化」であると説いた者がいた。
一神教の戒律が罪の判断基準であるのに対し、戒律のない曖昧な宗教を持った日本人が如何にして平和を築けたかといえば、それは世間体であるとされる。
世間に顔向けできない行為をすることを恥とし、それが罪と同様の価値基準を持った。
最小の集合体である家族の一人が行った恥晒しが、家族全体にも責任を持たせるようにした事で世間体が生まれ、抑止力になっている。
怒りの矛先が家族内で終わるのは日本の誇れる点と言い切っていいものなのか。
「心中」という単語に当てはまる英単語がないのがそれを顕している。

第三章の少年Bの母親の日記は、あまりにも正直であり、愛が感じられる一番好きな章だ。
家族に全てを捧げる偏愛から、家族を守る為に心中を思い立った深い心情が伝わってくる。

寝る前に第一章から第三章まで読み、面白かったと思い、第三章で終わってもいいなと感じた。
眠れなかったので、今度は残りの第四章から第六章まで読んだ。
いわゆる後半は少年の犯罪心理描写や生い立ちなど描いている。そしてラストは怒涛の展開で終わる。
個人的にはラストはなんか煮え切らない。無理矢理捻じ込んだ様な気さえする。

前半三章は「小説推理」に連載されたもので、後半三章は書き下ろしになっている。そのために少し温度が違うような気がしたのは気のせいではなかった。
前半はとても面白く読めた。後半は続きがあるからついでに読んだような感じだ。

ミステリーだから次の展開が気になるような構成力はあるし、突飛な設定は目を見張るものがある。しかし文章や細かな内容は素晴らしいとはいえない。
だがエンターテイメントとしてのミステリー本としては傑作である。

不振のテレビドラマ業界や映画業界が見逃すわけは無く、映像化するのは必須であろうか。

オススメ度(本評価)・☆☆☆