『あともう少しで部屋だ。』
私はホッとした途端、寝室に入る1歩手前の場所で、如何いう物か突如として尿意に襲われた。私は愕然とした。
そうだ、暫く行っていないと思った。それからこんな所で粗相をしたらと考えた。また母にこっぴどく叱られる、もうその歳で良い加減にしなさい、後始末をする身になってみろと、何を言われるか分からない。そう思うと、私はダンダンを踏みながら相当困ってしまった。
『行かずにいられないだろう。』
こう私は判断し結論した。
自分の生理現象に答えが出たのは良いのだが、トイレは1階だ。階下へは階段を通るしかない。通過地点は恐怖の危険地帯なのだ。私は逡巡した。が、事は急を要する、勇気を出すのだと自らを鼓舞した。この頃の私は余程母の方が怖かったものとみえる。母の怒った顔を思い浮かべると、般若だか何だか、鬼にも勝る母の怒りの方がよっぽど怖い!。とばかりに、すかざす判断した私は、踵を返して階段へと取って返した。
勢いをつけようと足を踏み出し、その儘音高くドンドンと階段へ近付いた。もう1、2歩で階段の様子が目に入って来るという場所に差し掛かると、私の歩みは流石に鈍ったが、恐怖心を抱えながらも歩幅を小さくして歩みは続けた。
階段だ!、遂に来たのだ!。私の眉根には縦皺が寄っていたが、嫌でもそこを覗き込むのだ。ウン!と、頷いて、それでも恐る恐る下の闇を見下ろすと、肩越しにこちらを見上げている祖母の顔と目が合った。
「智ちゃん、」
祖母は私が声を掛ける前に私の名を言った。私はそこにいるのが物の怪ではなく本当の私の祖母であると感じホッとした。
続けて彼女は「おしっこだね。」と、言うと、そうだろうと言って私の状態を察知していた。