蝶よ花よとされて裕福に育った2人は世間知らず。これが彼女達の共通点だった。この点共に彼女達の心中に相通じる物が有った。勿論実家が裕福とはいっても、当然両家の間には雲泥の差が有った。その差がある事で、返って清の母の胸の内には智の母に対する敵対心が湧かずにいた。寧ろそこは彼女を素朴で微笑ましいと見る感情に包まれていた。
智の母の方にしても、清の母が口にした親戚が裕福なのだ、それを真似ているのだの言葉に、内心では半信半疑に思いながらも、彼女自身が実際にそうなのだから、相手の羨望する気持ちが思い遣られて同病愛憐れむ事と感じ入っていた。彼女にするとじんわりと嬉しい共感の思いが湧き、話のピッタリ合う友人が出来たと離れ難く思っていた。2人は幸い子も同い年、親戚という話題以外にも話す事柄に共通点が多かった。また、智の母は清の母の親戚に何時か会える事を夢見ていた。
『2人の親戚同士が富裕層の間で共に交流が有りますように。』
お互いの親戚に会う為上京する時互いに誘い合えばよい。そうすれば、『上京の機会も滞在期間も増すというものだ。』憧れの世界を見る機会も倍増する。と、満面笑みの、これが彼女の現在の希望、専らの大望と言えた。が、既に嫁して仕舞った彼女の身では、これは取らぬ狸の皮算用、鬼が笑うという類の話でしかなかった。
このような訳で共に付き合っていたい彼女達は、清の家の玄関先と階段降り口で困り合っていた。立場上、清の母は清の父を立てなければならず、智の母は自分の子の智の親という立前を通さなければならなかった。が、決着は直ぐに着いた。苦渋の表情の智の母の腕が、再びこの屋の主人の目の前に上げられた。
ゴン!
かのじょの拳が立てた音と共に、玄関にいた彼女の子の智がその場に崩れ落ちた。