第八作「寅次郎恋歌」の ポスターに名前がありますが映画に出演していない人がいました。クランクインの直前に交通事故で入院した佐藤蛾次郎さんです。蛾次郎さんはこの作品以外の全作品に出ているのです。
いつも使わせてもらっている佐藤利明さんの『みんなの寅さん』にシナリオの準備稿から「幻は源ちゃん登場シ―ン」が紹介されていますので、その部分を。
(シナリオのお貴さんとはマドンナ役の池内淳子扮する喫茶「ローク」の経営者、女手ひとつで小3の学を育てている)
#65山門裏
源公、見るからに悪そうな少年を二人前にして寅の真似をして見せている。
源公「またお逢いしましたね‥‥‥‥お笑い下さいまし、この馬鹿な寅は、こないだお逢いしてよりず―っとあなたのことを、お慕い申しておりました‥‥‥‥お貴さん‥‥‥‥」
と振りかえると寅が学を従えて立っている。源公、逃げるに逃げられず真蒼になる。
寅「よう、源ちゃんよ、一寸きな」
と残忍な笑顔をうかべる。
#66「ロ―ク」
もう夕方である。客はいない。仕事の合間の一段落を、スタンドの客席に腰を下ろして一息ついている貴子。その表情に疲労の色が濃い。すぐ近くの寺の鐘がゴ―ンゴ―ンと懐しい音を響かせ始める。
#67鐘楼
夕焼け空を背景に鐘が鳴っている。しかし、よく見ると鐘をついているのは寅である。そして鐘の下から源公の脚が出てバタバタ逃げ出そうともがいている。それを蹴とばしておどかしては物凄い形相で力一杯関係をつく寅。鐘の中で悲鳴をあげ泣いている源公。学と友達二人がびっくりして見上げいる。